金持ちに憤りを覚える同級生の話

 高校のとき、仲の良かった友達がいた。Sは、とても失礼な言い方をすると、あまり理性的な話し方をしない。少し早口で子どもっぽいというか少し舌足らずな話し方をする。私はSがあまり成績が良くないんだろうと思っていたら、あとでSの成績を知って驚いた。国語が得意な上、努力家で暗記が必要な科目は、ほとんど満点だった。Sの暗記用ノートは、覚えるべき単語でびっしりと濃い筆跡で埋め尽くされていて、さながら狂気のようなものを感じた。仲良くなると、あまり人付き合いが得意な方ではなく、人に話しかけられると焦ることから、理性的な話し方ができないんだろうということがわかった。話し方で損をしていると思った。

 そんなSは、昔から僻みっぽいところが少しあった。当時、私たちは大学受験を控えていて、大学の情報を調べていた。予備校に好きなだけいける金持ちがうらやましいとか帰国子女の枠で入れる人がうらやましいとかだ。ただ、Sがこういう話題を出すのは、たまにだったので、笑って同調することができた。Sは、親が厳しいらしく、大学を選ぶときも親と揉めたりしていた。Sには弟がいたが、弟には好きな進路に進ませるのに、Sには金銭的な制限をかけたりしていて、親とも上手くいってない様子だった。

 Sは何とか親と折り合いをつけ、大学に合格した。私も幸い、行きたい大学に合格し、無事に大学生になった。私は、大学で知り合った友達との新しい生活が楽しすぎたのと、大学が遠くてあまり通うのが大変だったこともあり、高校の友達と会うことは少しずつなくなっていった。

 就職して、数年が経った頃、私はSとまた連絡を取り、会うようになった。久しぶりに会うSは、妙にハイテンションで、話す話題の90%くらいが、他人に対する僻みに支配されていた。大学を卒業して最初の就職先で上手く行かなかったことも、今、非正規雇用で給料が安く、生活が安定しないことも、Sによれば、全てが他人や社会のせいだった。確かに他人や社会のせいだったかもしれない。全てを僻んで、何も行動せずに本当にSの人生は、それでいいのだろうか。実際に何か行動を起こしていたのかもしれないけれど、Sの話からはそれを感じられなかった。

 私はずっと、Sの他人に対する批判や妬んでいる話を聞かされ疲れてしまっていた。なんと答えたかあまり覚えていないが、少しでも就職活動をするとか、趣味の小説を書くとか、何か楽しいことを探したらどうかと答えたような記憶がある。Sと別れた後は、何もやる気が起きないくらい、気を削がれた。

 Sには、その後もう一度だけ会ってみたけれど、やはり同じ様子だったので、耐えられなくなり、もう会うことをやめてしまった。親との関係が原因だったのか、私のよく知らない大学時代のことか、就職後の進路がいけなかったのか、元々持っていた特性が原因なのかはわからない。けれど、私はSを前のように戻せなかったし、関わることをやめてしまった。

今、Sがどこで何をしているか、知らない。

 


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