ALS患者の安楽死について思うこと

 これは友達にも誰にも言っていないし、これから先もたぶん話すことはないと思うが、どうしても思うことがあるので書いておこうと思う。ここに書いたということは、数人の友人の目に触れることになるかもしれないが、読むのは承知の上だが、何を聞かれても面と向かって自分の言葉では話せないと思う。

 昨日、ALS患者に薬物を注射して殺したという罪で、二人の医師が逮捕された。亡くなった人は、安楽死したいとSNSに書き込んでいたという。 

 あのとき、一歩間違えば、私も、人を殺していたかもしれない。

 数年前、私は伯母をALSで亡くした。伯母は、近くに住んでいたこともあり、よく行き来をしていた。伯母の妹である私の母親は、病気が進行していく様子を近くで見ていて、毎日のように様子を見に行って、手伝いをしていた。食べられるものが日に日に少なくなり、飲み込みやすい食事を作ったり、生活に関わる全てを母親が担うようになっていた。そのうち、ヘルパーさんに来てもらうようになったが、ヘルパーさんのやり方が気にいらないといっては、母に呼び出しがかかった。

 伯母の要求は日に日にエスカレートしていった。料理中だろうと夜中の1時だろうと早朝だろうと母親が呼び出された。ヘルパーさんが来ても、ヘルパーさんが帰る間際に、母が呼び出される。私と父は母の代わりに、伯母の食事や家族の食事を用意したり、家事のほとんどを行うようになった。フルタイムで仕事をしていたから、もちろん不完全だった。家の中がどんどん荒れていった。

 母が伯母の家から帰ってくると、愚痴を私や父にぶちまけた。伯母はいつも母に「早く死にたい」と暗い話しかできなかった。家族みんながイライラしていて、細かい衝突が起こるようになった。旅行にも行けない。母と二人で出かける機会も減った。闘病生活は数年にわたった。このままだと母が過労で倒れてしまう。そう思うと、伯母の要求は、病人のわがままとしか思えず、私は伯母のことがどんどん憎くなっていた。伯母が亡くなれば、家族もこの苦痛から解放される。旅行にも出かけられる。伯母も死にたいというのなら、私が伯母の望んでいることを叶えたらどうだろうか。そんな黒い感情が頭の中を支配していた。

 母の姿を見ていると、私は伯母に会うことができなくなった。母を疲弊させ、家族を暗い気持ちにさせる伯母にかける言葉が見つからない。それどころか、殺してしまうかもしれない。せめて、間接的に手伝おうと、私は、ただ料理をすることしかできなかった。

 しばらくして、伯母は、眠るように息を引き取った。少しだけほっとしてしまったことは、誰にも話していない。

 

 

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