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【「動くガンダム」から「横浜イノベーションIR」へ】横浜市の「ハーバーリゾート」をめぐる戦略

3月に、横浜の山下ふ頭で公開されている「動くガンダム」として話題の「GUNDUM FACTORY YOKOHAMA」に行ってきました。

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当日は、時間がなく、実際に動くところは見られませんでしたが、実物大のガンダムを見られただけでもテンションが上がりました。

なお、私の仕事は地方公務員で、今回の横浜市など地方自治体の面白い取組を見ると、それに基づく予算や市全体のまちづくりとの関連はどうなっているのか、好奇心で調べてみたくなってしまうため

「横浜市のガンダムに関する予算はどうなっているのか」

「そもそも港になぜガンダムなのか」

「ガンダムと横浜市の今後の施策はどう関連していくのか」

等が気になったので、横浜市の公表資料を調べてみました。

そしたら、ガンダムからハーバーリゾート形成に繋がる横浜市の戦略的な動きが見えて面白いと思ったのでシェアします。

●横浜市のガンダムに関する予算

横浜市の資料に「動くガンダム」の名称が出てきたのが、横浜市の「平成31年度 港湾局 予算概要」です。

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この資料の中に、「山下ふ頭再開発」の項目があり、★マークがついており、「31年度新規拡充事業」であることが示されています。画像4


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その新規拡充事業の概要については、資料19ページの『6 山下ふ頭の再開発「ハーバーリゾートの形成」』にて「山下ふ頭暫定利用事業」として紹介されています。

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上記の「暫定利用の概要」の文言を抜粋すると、

暫定利用の概要 
2 「動くガンダム」GUNDAM FACTORY YOKOHAMA(ガンダム ファクトリー ヨコハマ) 開催時期:2020年夏~ 約1年間実施予定

はっきりと「動くガンダム」の文言が出てきます。

この資料が公表されたのが、2019(平成31年)1月31日であり、一般的に自治体の予算要求が固まるのが、その前年の夏頃なので、少なくとも2018年夏には、「動くガンダム」の企画は、横浜市の部局内で検討されていたものと推測されます。

そして、さらに、この予算資料のページで注目していただきたいのが以下の文言。

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「ハーバーリゾートの形成」「更地を暫定的に有効利用して、優れた立地や景観を内外にアピールし、再開発の機運を高めていきます。」と書かれております。

つまり、

「山下ふ頭は良い場所だからもっと開発しようという気持ちをみんなに持ってもらうために、更地を暫定活用して「動くガンダム」のようなイベントを行っていきます」

ということです。その結果、世界から注目される「ハーバーリゾート」が形成される、ということです。

ちなみに、この時(31年度)の予算は、「山下ふ頭暫定利用事業費」として、1億5,632万円が充てられています。

●なぜ港でガンダムの公開なのか

「なぜ港でガンダムか」は、横浜市会(議会)の議事録に書かれています。

横浜市会 会議録検索システム」で「ガンダム」と入力すれば、ガンダム関連の市議会議員の質問と横浜市の答弁(公式見解)が出てきます。

その中で、「山下ふ頭にて動くガンダムを開催するに至った経緯」に関する質問と答弁の概要がこちら。

横浜市 令和2年 令和元年度決算第一特別委員会 2020年10月06日      
◆黒川[勝] 委員 
 私が中学生のときにアニメがスタートしました機動戦士ガンダムは、多くのメディアから新しいシリーズが生まれ続け、フィギュアなども含めて、親子三代でのファンも最近ではいるそうです。
 そこで改めて、この動くガンダムを山下ふ頭で開催することになった経緯を山下ふ頭再開発調整室長に伺います。
◎植松 山下ふ頭再開発調整室長 
 事業者より、港は世界のものが広まる場所、ガンダムもそう願いたいという思いから、山下ふ頭での開催の希望がございました。本市としても、ガンダムは世界的に人気のあるクールジャパンコンテンツであり、山下ふ頭、そして横浜の認知度や都市ブランド力の向上、集客促進による都心臨海部のにぎわい創出等に寄与できるものとして、双方の意向が一致して実現に至ったものでございます。

つまり、

事業者の方から、港は世界のものが広がる場所であり、ガンダムも世界に広げていきたいという提案があった。

横浜市もガンダムの世界的人気は、集客促進と横浜の賑わい創出に資すると判断したため、双方の意向が一致して「動くガンダム」が実現した。

ということです。

そして、続いての質問と答弁にて、

◆黒川[勝] 委員 
 この動くガンダムなどの山下ふ頭でのイベント開催によるにぎわいづくりは、ここ数年間限定の暫定的な取組だと捉えております。(略)最後に、今後の山下ふ頭の暫定利用の展開について平原副市長に伺います。

◎平原 副市長 
 山下ふ頭は、都心臨海部における唯一の広大な開発空間でございまして、暫定利用はその美しい景観や優れた立地を国内外に発信、PRする絶好の機会であると考えております。
 今後、新型コロナウイルス感染症拡大の状況を踏まえながら、動くガンダムに続きまして、都心臨海部の貴重な市有地を様々なイベント等に有効活用しまして、将来のハーバーリゾート形成に向けた取組につなげていきたいと考えております。

とのやり取りがあり、やはり「将来のハーバーリゾート形成」に向けて、山下ふ頭を有効活用していきたいという横浜市の見解が示されています。

では、横浜市が考える「ハーバーリゾート」とは何でしょうか。

それは、横浜市が誘致を目指している統合型リゾート(IR)と密接に結びついていると考えられます。

●横浜市の統合型リゾート(横浜IR)について

IRについて横浜市が誘致を公表したのが、2019年8月22日です。

その時の記者発表資料「IRの実現に向けて」の中に、IRの立地場所として、山下ふ頭が明記されています。

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また、その1年後の2020年8月28日に、横浜市は、「横浜IR(統合型リゾート)の方向性について」にて「横浜イノベーションIR」を基本コンセプトに定めて、以下の方向性をうたっています。

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つまり、統合型リゾート(IR)を山下ふ頭に作るだけでなく、横浜全体の魅力を高めるために既存の横浜臨海副都心と一体的に形成し、これまでの歴史と新しいテクノロジーと融合させて、横浜にイノベーションをもたらす、とのことです。

そして、現在の横浜IRの状況は、どうなっているかというと、2021年1月21日に「横浜市特定複合観光施設設置運営事業」(いわゆる横浜IR事業のこと)の「実施方針」を公表し、設置運営事業予定者の公募を行っています。

これらの資料によれば、2020年代の後半には、横浜IRが山下ふ頭に開業予定とのことです。

以上、まとめますと

●「動くガンダム」は、山下ふ頭再開発の機運を高めるための「暫定利用」

●山下ふ頭再開発の目的は、「ハーバーリゾートの形成」

●横浜市が山下ふ頭に形成する「ハーバーリゾート」は、「統合型リゾート(IR)」だと考えられ、横浜市はIRを「横浜イノベーションIR」と位置付けて、2020年代後半の開業を目指している

ということになります。

公務員をやっていると、行政の発表資料や議会答弁の一言一句に様々な意味が込められていることを実感しており、それらは一見バラバラに見えても繋がっていることがあります。今回は、そんな公務員の仕事をやっている立場で見えてきたものを紹介させて頂きました。





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