見出し画像

2留既卒の就活戦記① 見知らぬ、就活

「最初に自己紹介をお願いします」

 固まる僕。頭の中が真っ白で何も考えられない。金魚みたいにしばらく口をパクパクさせたあと、訳も分からず涙が溢れてきて、僕は泣き出しました。人事のおじさんはギョッとして、一体どうした、無理しなくていいぞとハンカチをくれました。
 大学四年の3月、僕の就職活動はそうして始まりました。

■見知らぬ、就活

 留年を繰り返した末なんとか卒業まで漕ぎ着けたけれども、就職活動をしていなかった僕は、卒業間近にも関わらず内定がありませんでした。
 卒業単位をとることとアルバイト、それと平行してさらに就活というのが僕にはできなかった。当時の僕はほとんど引きこもり状態で人生を拒否していたので、卒論とバイトだけで精一杯でした。他の大学生はみんな当たり前にやっていることなので、あまり言い訳にはなりませんが。

 そんなわけで、なんとか卒業論文を提出し学業から解放された3月になってようやく、僕は就職活動を始めました。しかし最初はさっぱりうまくいきませんでしたね。当然ながら大学の同期は二年も前に就職していますから就活仲間もおらず、どんなふうに就活を進めればいいかもさっぱりわかりません。なにより、二年も留年した元ひきこもりという事実が恥ずかしくて、就職活動が恐ろしくて仕方がなかった。初めて面接に行った会社では、一言も話さないうちに泣き出してしまい、気のいい人事のおじさんに励まされながらエレベーターまでお見送りしてもらったことをよく覚えています。
 そして、内定が無いまま僕は大学を卒業し、フリーターになりました。

■せめて、就活生らしく

 こりゃあどうにもならんと思った僕は、いわゆる就職エージェントに駆け込み、そこで指導を仰ぐことにしました。頼ったのは、僕のように経歴に傷がある人に向けて特化した中小規模のエージェント。余談ですが、就職エージェント企業というものはマイナビリクナビなどの大手と、中小規模のものとふたつに分けられます。大手のエージェントは求人が豊富ですがサポートは簡素、中小のエージェントは求人はやや少ないですがマンツーマンで徹底指導を受けられます(あくまで僕の個人的な経験ですが)。僕が頼ったのは後者の徹底指導型のエージェントというわけです。

 エージェントでは多くのことを教わりました。僕の絶望的な履歴書の添削(それまで僕の自己PRは"引きこもり脱出"と一言書いただけでした)、自己分析、面接での立ち振舞い方や受け答えなどなど。なにより他の就活生と交流が持てたのは大きかった。新卒じゃなくても就活頑張ってる人はたくさんいる、自分もそう捨てたものではないと考えられるようになったのです。
 

■就活生、誕生

 しかしそのうちに、僕はエージェントを通して就活をすることに疑問を感じるようになりました。就職エージェントを利用した就活は、結局のところ紹介された求人を言われるがまま受けるだけです。自分が本当に納得できる就職先が、それで見つかるのだろうか。それとも、このエージェントと自分が合わないだけなのか……そんなふうに考え、僕はそのエージェントとは決別し、別のエージェント企業を利用することにしました。エージェントの乗り換えです。そして、同じことを夏頃まで何度も繰り返しました。内定が出ないまま。

 セミが鳴き始めるころ、僕はようやく、先延ばしにしていた決断をすることにしました。就職エージェントを通じての就職活動はやめる。そして、自分ひとりで志望業界、志望職種、志望企業を探す。
 こうして本当の意味で、僕は就職活動を始めました。
 
 

 
 

サポートされると五体投地して感謝します