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短冊に願いを

秘められた非公開のオリジナルパワーが覚醒し
外反母趾が治りますように 
             2ーC 川岸 竜司

 短冊に戯言を書き記し笹に引っ掛けた。厨二を装ったようではあるが結局、厨二な精神からは抜けられずにいた竜司だった。

 竜司は二中サッカー部で少し浮いた存在だった。実力がないわけではないが、怪我がちでレギュラーにはなれないでいた。

「川岸、なんだよそれ。ウケ狙い?」
「別に。そもそも七夕なんて意味ないし」
「でも、外反母趾は本当なんだろ。じゃ、少し当てにしてるじゃん」
「してねーよ」

 同じサッカー部の稲城にからかわれ、竜司は少しむっとしたがそれを表面に出すわけでもなく、その場から去っていった。


 七夕か。本当にくだらない。ベットに転がり、竜司は天井を見上げた。スマホを触る気力も無かった。足の痛みがズキっと響いた。この痛みさえなければな。レギュラーなんて余裕なのに。
 竜司はそう呟き、そのまま眠りについた。

 翌朝、竜司は目を覚まし、階段を降りリビングのテーブルに腰をかけた。
「おはよう、竜司。よく眠れた?」母の喜美子が尋ねる。
「うん」生返事で応え、朝食のスクランブルエッグを食べ始めた。
「どう?サッカーは楽しい?」
「うん」
「レギュラーになれそう?」
 竜司は答えず黙々と朝食を食べ続けた。

 着替えを済ませ、玄関で靴を履き立ち上がるときに竜司は違和感を感じた。
そういえば足が痛くない。歩くたびに痛みがあったのに。今日は調子が良さそうだ。気分が明るくなり勢いよく玄関から飛び出た。

「ナイッシュー川岸!」顧問の鈴木が竜司を褒めた。
「今日は動きが良いな。足はもういいのか?」
「はい!問題ありません」ハキハキと答える。
「そうか。よし、明日の練習試合は先発で行くぞ。期待してる」
「はい!」竜司は目を輝かせた。

 竜司は部室に戻り、帰り支度を早々に済ませ帰途についた。
痛くない。もう本当に痛くない。
明日の試合が楽しみで仕方が無かった。先発するのは半年ぶりだった。
痛みさえなければ、俺はやれるんだ。明日それをみせてやる。
竜司は意気込んだ、と同時にふと疑問も浮かんだ。
でも、なんで治ったんだろ。病院に行っても治らなかったのに。まさか短冊のおかげか?そんな訳ないか。今日は早く帰って明日向けてさっさと寝よう。

 校門を出ようとしたその時、スマホがないことに気がついた。
教室にでも忘れたかも。戻って確かめよう。
 2ーCの教室へ足を向けたその瞬間、ズキッと痛みが走った。

 竜司は絶望した。
治ったと思ったのに。畜生。
しばらくその場にへたり込んでしまった。

 校内には生徒はおらず皆帰ってしまっていた。竜司は肩を落としながら立ち上がり教室へと向かった。

 2ーCの教室までたどり着きドアを開けた。教室に足を踏み入れた瞬間、竜司は床に叩きつけられた。何が起こったのかわからず、後頭部に鈍い痛みだけが感じられた。

「偶然にしては出来過ぎてるな。知っているのか?」

竜司は訳が分からず、ぐにゃぐにゃと揺れる視野の中に稲城の顔を見た。

「は?何のことだよ。てか、何すんだよ」竜司はかろうじて反問した。

「もっとよく見ておくべきだった。お前の短冊を。訳のわからないこと書くから見落とした」
「だから何言ってんだよ。短冊って何のことだよ」
「キーワードは”織姫”と”彦星”」
「は?」竜司は困惑するしかなかった。

「”秘められた非公開のオリジナルパワーが覚醒し外反母趾が治りますように”
この願い中に偶然”織姫”と”彦星”が紛れ込んだ。オリジナルの”おり”
秘められたの”ひめ”、非公開の”ひこ”、外反母趾の”ぼし”」
「さっぱり意味がわからない」竜司は意識を保つのに必死だった。

「だから”おりひめ”と”ひこぼし”の八文字がお前の短冊の願いに含まれているだろ。それが問題なんだよ。八文字さえ含まれればよかったなんて俺も知らなかった。お前の外反母趾治ってたろ?」
「その八文字が含まれてたら何なんだよ。願いが叶うのか」
「そういうことだ。身をもって体感したろ」
「けど痛みはまた…」
「お前の短冊は破いたからな。今年の願いは無効になった」
「今年の願い?」
「叶う願いは一つだけだ。そう決まっている。だから俺の願いだけがいつも叶っていた。願いは一年間だけ続く」

 竜司は混乱した。おりひめとひこぼし?願いが叶う?分からないことだらけだ。

「ちなみに俺はもう消える。本当の意味でな。実際の年齢も忘れてしまった。俺は昔、こう願った。”織姫様、彦星様、どうか楽しい中学生活がずっと続きますように”ってな。それが叶って以来同じ願いを毎年繰り返してる。でも、今年は叶わなかった。それで、学校中の短冊をしらみ潰しに漁った。ようやく、お前の短冊に八文字が偶然含まれていることに気がついた。時すでに遅しだったけどな」

「消えるってなんだよ。てか、こんな乱暴することないだろ」
「それはだたの腹いせ。永遠の中学生活が終わったんだからな。だが、まあ来年もある。好きな願いを来年書けばいい。例の八文字が他の短冊にないことを確認した上でな」
竜司は意識が遠のきかけていた。
「でも、まあさすがに飽きてきたしある意味よかったのかもな」
そう言うと稲城は霧のように消えた。
竜司は意識を失った。

「おい!しっかりしろ川岸!」
竜司が目を開けると顧問の鈴木の心配そうな顔があった。
「意識が戻ったか。大きな音がするから来てみれば、一体何があった?」

竜司は抱きかかえられ保健室に運ばれていった。夜空には星が瞬いてた。




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