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『奇病庭園』朗読ライブ「耳に就いて」当日パンフレット コメント

『奇病庭園』朗読ライブ「耳に就いて」へご来場の皆様、また動画配信にてご覧くださいました皆様誠に有難うございました。
配信アーカイブはまだまだ購入、視聴可能ですので是非何度でもご覧くださいませ。


ゲネプロ写真 撮影/千草ちゆ

現地へご来場頂きました皆様へお配りした当日パンフレットに掲載した出演者とRITTORBASEディレクター國崎さんのコメントを、是非配信でご視聴の皆様にもお読み頂きたいなと思い許可をいただきましてnoteへ掲載させて頂きます。

ネタバレ等は特にありませんので、まだ未視聴な方も購入検討中な方も是非お読みくださいませ。



いきなりこんなにいい会場で朗読をさせてもらえることになったけれど、今までお客さんの前で朗読をしたことは一、二度しかない。それもいずれも短歌。ということは、小説の朗読はこれが初舞台。
 しかし朗読そのものはずっとしてきた。夜中、自分ひとりの部屋で。本を読んでいて、この文章はリズムがいいなとか、この台詞はどんな声で語られるのだろうとか思うと、声に出して読みたくなる。戯曲を一人で通して演じたことも一度ではない。
 パンデミック前は、友人たちを集めて朗読の催しを行ったこともある。各々自分が声に出して読みたいものを持ち寄って、読んで、聞く。それだけの会だ。小説もあれば漫画もあり、詩もあり、哲学書もあった。
 そこで、発表前の『奇病庭園』から「真珠に就いて」と「脚に就いて」を朗読したことがある。この二篇は、どうしてもそれを語る声を顕現させてみたかったのだ。「語り手が怖い」という感想をもらい、満足だった。当時はそれ以外のどこでも、聞くことも読むこともできなかった作品を、ようやくお蔵出しできることとなる。
 しかしいつから朗読が好きだったのだろう、と考えると、そもそも学校の国語の時間、あてられた生徒たちが教科書をいかにも面倒臭そうに棒読みしている間中、わたしに当ててくれ、全部わたしに読ませてくれ、と心の中で念じていたのだし、姉と一緒に詩の読み方を研究して、『春と修羅』の「序」や「永訣の朝」の音読をカセットテープに録音して聞き直したりしていたのだし、更に遡れば幼い頃、寝る前に両親が絵本を読んでくれる習慣があったのだが、両親が忙しいときにわたしが弟に絵本を読んであげようと申し出たにもかかわらず、母親でなければ嫌だと素気無く断られて機嫌を損ねたこともあり、つまりはどうやら物心ついて以来ずっと朗読をひそかに愛していたらしいのである。
(川野芽生/朗読)


川野さんの歌集『Lilith』そして短篇集『無垢なる花たちのためのユートピア』をはじめて読んだ時、音の聴こえる世界と言葉をつくる方だ、と思ったのを覚えている。
気付けば大変光栄な機会をいただくこととなった。

現代音楽、クラシック、エレクトロミュージック、ポップス、いずれでもないかもしれないし、あるいはそのすべてかもしれない。私の音楽は常にそういうところを点滅しながら存在している。
今回、川野さんの世界と言葉をより深化させることを願ってつくられた音楽が、朗読と合わさることであなたの脳にどんな響きをもたらすか、とても楽しみである。
(とかげ/音楽)


 2019年にオープンしたRITTOR BASEは、ギター・マガジンやサウンド&レコーディング・マガジンを発行しているリットーミュージックが、"楽器の音が理想的に響くこと"を主眼に作り上げたスペースである。床にはギターの指板などに使用されるローズウッドを奢ったほか、音を拡散する装置を随所に配することでドラムやギター、そしてピアノがしっかり鳴る下地を作ることができた。ただ、天井高の低さゆえ、広い空間を感じさせる音を鳴らすことができないのが問題であった。それを解決すべく、リバーブ偏執狂として知られるKatsuhiro Chiba氏に、天井と床に4つずつ計8個設置したスピーカーをフルに使った8chリバーブ=Cubic Chiverbを特別に開発していただいた。このシステムによりコンサートホールから教会、さらには洞窟まで、さまざまな空間をRITTOR BASEに召喚できるようになった。おかげで多くのミュージシャンに気に入っていただき、目を閉じて彼らの演奏に耳を澄ますと、ビルの地下ではない、まったく別の空間に連れて行かれるという至福の瞬間を幾度も味わうことができた。
 このシステムを何かほかのことにも活用できないかと考えていたとき、ふと"朗読劇を上演すれば、観客をまったく違う時空へ連れていけるのではないか"と思いついた。早速、不思議な縁でつながり始めていた劇団=PSYCHOSISにオファーし、2022年10月に「艶恨録 ー阿部定調書ー」、そして今年3月に「あやかしの鼓」という2つの演目を“音像空間劇”と銘打って上演するに至った。2演目とも好評を博し、それらを観た演劇関係者から次々と“RITTOR BASEを使いたい”とのオファーが舞い込んだ。今回の「奇病庭園〜耳に就いて」はPSYCHOSISの近作に出演されている俳優の乃々雅ゆうさんのご提案により実現したものである。独特の世界観を持つ川野芽生さんの小説をご本人の朗読で、しかもとかげさんによるオリジナルな音楽とともに体験するというぜいたくな座組み。RITTOR BASEという空間が、それをさらにぜいたくなものにできていたら、ディレクターとして望外の幸せである。

(國崎晋/RITTOR BASEディレクター)


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