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場面緘黙児の自己肯定感とおしりふき②

8月末から次女のアートセラピーが始まったものの、週1回45分のセラピーが魔法のように次女の症状を解消してくれたわけではありませんでした。10回セラピーをした後にカウンセラーと親が面談して状況把握と介入の方向を話し合い、治療を続けて約1年ほどの期間で症状の改善をめざしていくということでした。

興味深かったのは、セラピーを受ける本人にも「遊びに行く」のではなく「これはセラピーだよ」と知らせることでした。実際にセラピストと次女がやっていたことは塗り絵をしたりゲームをしたりということで、特に声を出すことや話すことは求められませんでしたが、治療のための手立てを取っているという自覚を持たせることもセラピーの一環のようでした。

10回目のセラピーが終わって11月にセラピストとの再度の面談の際、ちょうど次女の5歳の誕生日が近かったため、誕生日パーティーの開き方について相談しました。イスラエルでは幼稚園のクラスメート全員または同性の友達全員に案内を送り、数十人集まって公園や屋内遊園地などでパフォーマーを呼んで盛大にパーティーをすることも多いのですが、それは次女には向かないので、本人が呼びたい友達数人のみを招いて、自宅でアットホームに行ってはどうかという助言をもらいました。

次女に聞いてみると、2人の友達を呼びたいということで、おうちの方に連絡をし、次女の誕生日当日に自宅で小さなパーティーを開きました。当日、次女が話すことはなかったのですが、初めて友達が家に来てくれたことがとてもうれしかったようでした。

それ以降、着替えや歯みがきやお風呂など「XXして/しようね」という代わりに「5歳のお姉さんはXXできるね」と声かけをすると比較的自分からするようになりました。

次女のコミュニケーションの仕方が大きく変わったのは、11月に幼稚園の先生と定期的な面談があり、本人の生活自立度を高める工夫についてのアドバイスをもらってからでした。

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夫がそれに基づいて一週間の表を作り、上からそれぞれ「朝食(コーンフレーク)の準備をして自分で盛り付ける」「幼稚園の給食で自分でパンにジャムを塗る」「幼稚園のトイレで自分でおしりを拭く」「一人でシャワーをする」ができたらその枠にシールを貼る、という取り組みを始めました。

日付が決まっているわけではないのでプレッシャーは少なく、一週間の中でできた日の項目に印がついていくことで「できた」ことの積み上げが視覚化されていく仕組みです。次女は誕生日パーティーでもらったお気に入りのシールを「トイレ」の部分に多く貼るようになりました。

実は幼稚園では先生にトイレに行きたいということが言えず、行くことを我慢していることが多かったらしいのですが、家では一人で自由にトイレに行っていたので、排泄は自立していると思い込んでいました。

この表にシールを貼り始めてから数日後、幼稚園の先生から「次女が耳元で(ヘブライ語で)『おはよう』と言ってくれた」というメッセージが届きました。担任の先生は2人いるのですが、両方の耳元で声を出すことができたそうです。帰宅した次女に聞いてみると、「お耳に言えた」とのこと。周囲のお友達は「次女がしゃべった!!」と驚いていたそうです。

朝、先生にきちんとあいさつすることが、自分に自信をつけた本人にとって最初にやりたかったことだったのかと思うと、どれだけ言葉にしたいことが心の中に詰まっていたのか申し訳なくなり、もっと早く手立てを取ってあげたらよかったとこの2年間のことを思いました。

その後、次女はお友達の家に遊びに呼んでもらい、楽しい時間を過ごした後で、親しいお友達の耳元には話ができるようになりました。そして、そのことを家で報告してくれ、それができた理由を「だってもうわかるんだから、お耳に言える。5歳なんだもん。」と言っていました。

セラピーを受け始めて3か月あまりでしたが、セラピーを受けたからとか5歳になったから自動的にコミュニケーションが取れるようになったわけではありません。自分にできることが増えたこと、一つ年を重ねたという自覚が発話につながったという認識が本人にあることがとても興味深かったです。発話ができるようになってから、家の中で物を投げたりすることは減ってきました。

次女の場合は4歳~5歳という年齢のため、自己肯定感を高めるための方法がごく基本的な生活動作の自立でしたが、もし同様の不安障害を持つ子がいたら、母語での関わりは維持しつつ、本人が自信を持てる事柄を専門家と相談しながら対応を進めていくのがいいのではないかと思います。もし、周囲に1か月以上社会的な場で話せない子がいたら、楽観視せず、ぜひ一度専門家にかかることを勧めてあげてください。



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