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Vol.2 海釣りへ

釣り好きな父に連れられてよく海へと出かけた。私は釣の楽しみ方がまだ分からないほど幼くて、赤い水筒と赤いバスケットの中のお弁当が嬉しくて、ただそれだけで上機嫌で出かけた。

案の定、釣りにはすぐに飽きて、竿で水面をベシャベシャと叩く始末なので釣竿を取り上げられる。そうなるとできることは磯辺の自然観察。フナムシやカニを追いかけたり、フジツボを剥がそうと試みたり。

堤防にはカモメ、滑らかな羽毛、鋭い嘴、太い脚、不思議な瞬膜、近寄れるようで近寄れない。ちょっと怖い。

ふと不安になって振り向き父の側に戻る。「お弁当まだ〜?」その度に水筒のお茶を飲む。その繰り返し。

お弁当を食べ終わるとさらにすることがない。ぼんやりと海を眺めていた。眼を細めると海面の照り返しの光が十字の形に見える。眼を開けたり細めたり、光と遊ぶ。なんであんなにも退屈だと感じたのだろう。今なら何時間でも海を見ていられるのに。

残り少なくなったお茶を水筒の蓋に注ごうとした。不安定なところに置いたので水筒の蓋は転がって海に落ちた。父が慌てて網で掬い取ってくれる。構って貰えるのが嬉しくて、2回目はわざと落とす。長靴も落とす。まぁ、なんて悪い子!

私の退屈の限界で釣りは終了。いつものように片方濡れた長靴で家路につく。



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