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ファミリーマートの店員と格闘する日々

今年の年明け、僕はコロナの影響を考えて一時帰省するのを止めていたので、地元の友達とオンライン飲み会、と言う形で懐かしい話に花を咲かせていました。
その会話の中で、最近不満に思っている事は?と言う問いかけを友達からされた時に、急にハッとしました。

現状の生活で不満な事がほぼないのです。

いやこれはこれで、なんて幸せな事だと思い、改めて素晴らしい事だなとも感じるのですが、その時は何だか自分が、平々凡々のらりくらりと、ストレスフリーで脳みそがツルンツルンで涎を撒き散らしながらアホゥ見たいに生きているのではないかと、ストレスがないのは、僕がストレスと言う高等な感情を感じれない愚民だからではないのか。
やはり、生きてるからには、悩み、苦しみを抱えてこそ渋く、苦みの聞いたダンディな大人になれるんじゃないだろうか、太宰治みたいなどこ見てるんだか分からんけど、雰囲気のある大人になれるんじゃないだろうか、デカダン万歳なんじゃないだろうか。

その問いかけをされた数秒で脳内にそんな思いが駆け巡りました。
そして、いや、でも流石に何か一つくらい不満があるのでは、とよく思案した結果、たった一つ現状生活の不満点が見つかったのです、それは

よく行くファミリーマートの店員が、ヨーグルトにスプーンを付けてくれない。

と言うものでした、何だそれはと思うかもしれません、実際そう言ったら、画面越しの友達は、お、おぅ…みたいなリアクションでした。

しかしながらその不満が見つかった時、僕の中に光明が差したのです。
あった!僕にも不満があったぞ、僕の現状生活のたった一つの大事な大事な不満、これはとことん付き合うべきして、付き合う事柄に違いないのではないだろうか。

と言う事で
僕はそこからひたすらファミリーマートの店員と格闘する日々を開始しました。
まずは誤解がないよう現状やルールを整理します。

悩み

「ほぼ毎朝行く、ファミリーマートの店員
(仮名:スプーン伯爵)がヨーグルト用スプーンを全く付けてくれない」

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不満ポイント
・こちらから言えば付けてくれるが、何故か嫌そうで、酷い時は投げ捨ててくる。
・ほぼ毎朝行き、ほぼ同じ格好をしていて、絶対同じヨーグルトを買うのだから、出来れば流石に覚えて欲しい。
・何故かめちゃくちゃいつも不機嫌。
最終目標地点
・スプーン伯爵が自発的にスプーンを渡して来て欲しい。
・出来れば、機嫌を治してほしい。
自分ルール
・スプーンを何でいつもつけてくれないんですか?と、スプーン伯爵に聞いてはならない。
・現状生活が続きスプーンを自発的にくれるまでは、ずっと何かしらを試みる。
・スプーン伯爵に対して怒ってはならない。

と言った感じになると思います。

・初日
まず1番最初はジャブから、と言う事で、いつもヨーグルトの他に違う商品を買っていた事を思い出し、色々あるとスプーンを付け忘れちゃう事もあるのでは、と思いヨーグルト単品で買ってみる事にしました。
何よりヨーグルト単品なのだから、これでスプーン付けないって、あえてなら結構プレッシャーを与える事になるんじゃないかと思います、単純で結構心理的に突いてるのではないでしょうか?

Round1
【ヨーグルト単品戦法】
スプーン伯爵1勝×僕1敗

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スプーン伯爵の心は強く、単品で買ったところでなんのその、スプーンを出そうとする挙動一つ見せませんでした。
しかしながら、まぁこれは予想済みで、むしろこれくらいでスプーンを出して来たら、僕の唯一の大事な不満が、びっくりするくらいチープになり、渋い大人になんかなれません。

・2日目
次はどうしようかなと考えた結果、もしかしたらスプーン伯爵はヨーグルトに何かしらの恨みでも持っていて、ヨーグルト以外ならスプーンを付けてくれるのでは、と言う考えに至りました、そしてどうせ買うならスプーンが必要なものだけを大量に買ってみよう、これでスプーンを付けないのはもう無理があると言う状況に追い込む、コーナーに追い込んでオラオララッシュをかますイメージです。
これでスプーンを付けなかったら、薄々勘づいてはいたけど、悪意があると言う事になるのでは。

Round2
【スプーン必要なもの爆買い戦法】
スプーン伯爵2勝×僕2敗

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悪意の塊でした、スプーン伯爵の心はどうしてしまったんでしょうか、昔スプーンに愛しい人でも奪われたのでしょうか。
ゼリーにケーキ、プリンにスープ、おおよそスプーンで食べるであろうものを買い漁ったのに、スプーンを一個もつけてくれない、これは流石にどうかしています。
この買って来た大量の品々を見つめながら、ふと思った事がありました。
これってもしかして、僕への個人攻撃の可能性があるのではないだろうか、他のお客さんには普通にスプーンを付けているって可能性がないだろうか?
え!何で!?何それ、怖っ!意味分からん!
と思いましたが、とりあえず真相を確かめる為、明日の作戦を考えながら買って来たものを家のスプーンで食べます。

・3日目
まずはファミリーマートに入り浸り、スプーン伯爵のレジ捌きを観察します、成る程、僕の時とほぼ変わらないレジ捌き、やる気の感じられないダラダラとした動き、特に異常はない、いつもと変わらないスプーン伯爵がそこには居ました。
大体そこから20分くらいでしょうか、お客さんがヨーグルトを手にとりスプーン伯爵のレジへと持って行きました、来た!ついに来た!さぁどうだ!

なんとスプーンをつけていました。

何でやねん!!!!僕に何の恨みがあるんだよ!!!!!絶対ないよ!!絶対何もないよ!!スプーン欲しいよぉ!!僕もスプーン伯爵からスプーン渡されたいよぉ!!
心の叫びが口から漏れそうになりました。
いや、もしかして実はたまたま今日スプーン伯爵は機嫌が良くて、今なら僕もスプーン貰えるんじゃないか?こうしちゃおれん!スプーン伯爵が機嫌を損ねる前にいつものヨーグルトを急いで手にとりレジに行かなければ!
そう思い、高鳴る胸を押さえつつ、急足でヨーグルト片手にレジに行きました。

スプーンつけねぇー!!!!!!!!!!

僕が何か悪いことしたんならもう謝るよ!!
何に腹立ってんだよ、どう言う事なの!!
欲しいの!!!!僕もスプーン欲しいの!!!ヨーグルトを手で掬いながら食べるタイプの顔にでも見えてるの?

この3日間の戦いで分かった事をちょっとだけまとめます

・スプーン伯爵は、僕に個人攻撃を仕掛けていた。←New
・生ぬるい戦法ではスプーンは絶対貰えない。

・4日目
スプーン伯爵の事を考えていたらある可能性に辿り着きました、もしかしてスプーン伯爵は僕の事をこんな風に思っているんじゃないだろうか?

あいつは毎日のように来るからどう考えても家が近所→家が近所と言う事はヨーグルトは家で食べる可能性が高い→家で食べるなら家に置いてあるスプーンを使って食べるはず→スプーン付けなくてよい→無駄な資源ゴミが出ない→環境に優しい→俺SDGs。
なるほど、もしかしたらスプーン伯爵は昨今問題視される環境問題を意識していたのかもしれない、そしてこれなら僕にだけスプーンを付けなかった理由も分かる。
しかしながら、どんなに環境問題に優しかろうが僕は君からスプーンが欲しいんだ!
と言う事で、生温い戦法じゃまず無理、そして何より家のスプーンを使わないと言う強い意志を見せつける事が大事。
どうすべきかと思案した結果、こんな戦法を思いつきました。

家で使っているスプーンを持って行き、スプーン伯爵の前でグニャリと曲げてみる、そしてそのスプーンをコンビニのゴミ箱に捨てる。

これならば家のスプーンをもう使わないんだ、と言う強烈なメッセージが伝わるはず、かなり荒技だけど生温い戦法ではまず無理な事が分かっている今、このくらいの事はしないとダメでしょう。

僕は家のスプーンを握りしめて、スプーン伯爵はどんなリアクションを見せてくれるのかと、興奮と緊張、そして期待がないまぜになった状態でコンビニに向かいました。
流石に周りにお客さんがいるのは恥ずかしいので、一対一になるまで辛抱強く待っていると、その時は来ました、周りにはお客さんはいない、店員は多分バックヤードにもいるんだろうけど、レジにはスプーン伯爵1人、今だ!!僕は足早にヨーグルトを手に取り、レジに向かいました、スプーン伯爵はやはりスプーンを付けてくれない!ここだ!!!!!!

握り過ぎて汗でびしょびしょになったスプーンを勢いよくスプーン伯爵の目の前に出し、両手でスプーンを一気にグニャリとひん曲げる!!さぁどうだ!!俺は家のスプーンがもうないぞ!!スプーンを付けなけりゃ、俺はもう飲むしかない!飲むヨーグルトじゃないのに飲むしかないぞ!!
スプーン伯爵は少し驚き、うわっ、何だよっと一言小声で言ったのち、グニャリと曲がったスプーンをまじまじと見てこう言いました…。

「えっ…あっ、ユ…ユリゲラー…的な…?」

僕はぁぁぁぁ!!僕かぁ一体何をしているんだぁぁ!!!!!
急に我に帰り、謎の恥ずかしさが胸あたりからブワッと込み上げて来た、あぁぁぉぉぉぉぉぉ、何してるんだよ僕は!!穴があったら入りたい!!穴がないならこのひん曲がったスプーンで一生懸命掘らして頂きます!!
僕は居ても立っても居られなくなり無言でコンビニを勢いよく走り出た。
あぁ!!走りながらスプーン伯爵の引き攣った顔を思い出す。

ユリゲラー的な?

うわぁ!!!!どうしよう!!恥ずかしい!!俺はユリゲラーのモノマネをした謎のお客さんになってしまった!!あぁ!!きっと今頃バックヤードで、笑いながら話してるんだ、ユリゲラーのモノマネをしたやつが来たって!!
明日から、きっとあのコンビニの店員全員に心の中でユリゲラーって呼ばれるんだ!!
何だったら、ゲラーヨーグルトとか、ヨーゲラーとかユリグルト、とか変なあだ名になるに違いないよ!!あぁ!!

Round4
【ユリゲラー戦法】
スプーン伯爵4勝×僕4敗

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・5日目
もう違うコンビニに通うことも考えたが、ここでもし引き下がってしまえば、あのコンビニで永遠と語り継がれるであろう珍客になってしまうことが確定する、それだけは避けたい、僕は決してユリゲラーのモノマネをしたわけじゃない、そう言う意味を示すと共に、スプーン伯爵から自発的にスプーンをもらいたい、それが出来る戦法は何だろうか、これは難しかった、しかしながら、一つだけ妙案が浮かんだ。
無言で立ち続けたらどうだろう?
そうすれば、流石に耐えきれなくなってスプーンを出しそうだ、そして無言で立ち続けるやつがユリゲラーか?
いや、そんな奴はパフォーマーの風上にも置けないやつだ、そうだろう?
ステージに立ってるだけのパフォーマーなんてこの世に居ないんだから。

流石にコンビニ自体に少し入りづらかったが、俺はノーゲラーである、と主張するように胸を張り早速ヨーグルトを持ち、スプーン伯爵の元へ駆け寄った。
そして、いつも通りスプーンが出てこないのを見ると、さぁ勝負開始だと言わんばかりに、無言でその場に立ち尽くした。
多分1分は無言で居たと思う、レジ前で1分無言は本当きつい、当たり前だがめちゃくちゃ気まづい。
スプーン伯爵はなんでこんな気まづい空気が大丈夫なのだろうか、と、思っているとスプーン伯爵がニヤニヤとニヤついていた。

こいつ、僕がまた何かやるんだと期待してやがる!

一発芸的なものを見せてくれるんだろうと期待している!
ふざけるなよ!!僕はゲラーヨーグルトでもユリグルトでもない、I'm ノーゲラーだ!!
もうこの作戦はダメだ!さっさと立ち去ってしまおうと思った時、スプーン伯爵が口を開いた。

「…スプーン、欲しいんですか?」

おぉ!!??なんだぁ!?!
そうだよ!!それそれそれそれそれ!
スプーンが欲しいの!!君の自発的行為で欲しいの!!後、僕はノーゲラーだよ!!
僕はがそう答えようとするとスプーン伯爵が続けて言った

「ダメですよ、だってお客さん、ほら、曲げちゃから」

ひぇぇっ!!恥ずかしい!!!!ゲームセット!!!!!!もう無理だよ!!僕は勝てやしないよ!!こんにちは!ユリゲラーです!!

僕はこの日、ゲームの終わりを感じながらお店を去った、スプーン伯爵から自発的にスプーンを貰うことはもう出来ない気がする。

Round5
【辱め戦法】
スプーン伯爵5勝×僕5敗
ゲームセット

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・6日目
もう何も作戦が思いつかない、多分僕はどうやったってスプーン伯爵に勝つ事が出来ない、なぜならユリゲラー戦法と言う、孫子も真っ青の愚策のせいで、何をしたって言い返せないからだ。
もうスプーンは僕からねだり続けるしかないのだろうか…そう諦めながらも僕は自分ルール

・現状生活が続きスプーンを自発的にくれるまでは、ずっと何かしらを試みる。

を守るため、やはりコンビニへと向かった。
無策のままだったが、もうどうにでもなれも言った気分で、いつものヨーグルトを手にとりスプーン伯爵のレジへと向かう。
すると、何故かスプーン伯爵が不機嫌ではない、と感じた。
謎の違和感。
なんだ、伯爵から妙な気配がする。
ゴゴゴゴ…と言う文字が伯爵の後ろに見えて来そうな雰囲気を醸し出している。
するとスプーン伯爵がレジ下にそっと手を入れた、そして何かを取り出して、そっとレジ台に置いた、僕はそれを見てゴクリと生唾を飲んだ。

置かれたのは紛れもない「フォーク」だった

なんじゃそりゃ!!??と困惑したが、スプーン伯爵の表情を見て察した。
こいつぁ…僕との勝負を楽しんでいる…!?
その時僕が一方的に戦っていたのではなく、スプーン伯爵もまたずっと僕と同じように実は戦い、仕掛けて来ていたのだと言う事に気がついた。
スプーン伯爵はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、僕がどう出るかを待っている様だった。
その笑みを見ながら、僕もまた笑い、おもむろにフォークを取るとその場でビニールを破り、ハッ!と勢いよくフォークを折ると一言言い放った

「I'm ユリゲラー…」

!Exhibition match!
フォーク公爵×ユリゲラー

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・6日目以降
あの日、スプーン伯爵は爵位を変え、フォーク公爵となった。
今現在、僕と彼との間には謎の友情じみた、変な絆が芽生え始めていた、きっと彼も僕のような相手をずっと待っていたのだ、この血肉湧き心躍る死闘を待ち望んでいたのだ。
あれ以降僕達は様々な戦法を繰り出しながら、血を血で洗う戦いの日々に明け暮れ続けている。
そんな日々を過ごしながら、僕は思う

僕って何だか、暇だな。

ここは孤高の街東京、スプーンを貰うか貰わないかで、ひたすら戦う男達の熱い戦いがそこにはあった。
齢35、人生で来たと感じるモテ期は4回、よく食べる食パンは一本堂、ファンザの無料サンプルで充分ですよ、が口癖の、ちょっとセンシティブなギター弾き。
今日もあいつに勝負を挑む、スプーンをくれるその時まで。

「でも、今の目的はちょっと違うんだ、今は彼がちょっと笑って、機嫌が良くなってくれたら、それだけで僕はなんだか嬉しいんだ」

ちょっとおかしな僕たちの戦いはまだこれからも続いていくのです。

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