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野に、咲く。10
お父さんはパイロット」 後編
痛い話。 殴られるとどれくらい痛いのだろう。
刃物が体に刺さるってどれほど痛いのだろう。
僕の父はギャンブルが好きでパチンコ、競輪、競艇、競馬などについて行ったことがある。
忘れもしない小学一年生の頃、福岡の競輪について行った時のこと、
父は予想が的中し大喜びし、競輪とはなんぞやとか、僕に将来は競輪学校に行って
競輪選手になれだとか、とにかく大興奮で上機嫌で懐も暖かった。
今日は僕の好きなものなんでも食べていいよと父は言った。
僕は当時高級な食べ物が何か知らなかったので「うどん食べたい」と言ってしまった。
寿司や焼肉など言えばよかったのだろう。
父の知り合いの店なのか大衆食堂に入り、僕は肉うどん、父はカツ丼を食べた。
とても美味しかったのを覚えていて、他にも焼き鳥を知らない僕に”鶏皮”を食べさせてくれた。
そのとき店の引き戸がバーンと大きな音を立てて空いた。
僕はビクッとなると五、六人の怖い人たちが入ってきた。
「大きか声ば出してくさ、しゃーしかの!」「きさん!勝った分のゼニばやらんかい!」
競輪場にいたのであろう、父の勝ったお金を狙って因縁をつけてきた。
僕はまた嫌な予感がした。 五、六人の怖い人たちと小雨が降る表(おもて)出た父。
店主は僕の顔を見て笑って呟く「大丈夫やけん、うどんば食べよかんね」と
入り口を少し開け外の様子を見るとすでに二人倒れていた。
父はまた大人に暴力を振るった、まるで遊んでるかのように喧嘩をする父が少し怖かった。
事を終えた父は「濡れる濡れる!」とケンカのことより雨に濡れる事を気にしながら
店内へ戻ってきた。その時驚いたことが二つ、父は箸を右手に持ったままだった。
カツ丼を食べてる最中だったけども、左手だけでケンカしたのかなぁと子供心に思った
もうひとつは、父の左足に違和感がありよく見ると包丁が刺さっていました。
僕は声を出すこともできず、指差しで「んーん!」と言うと、父はカツ丼を食べながら
「今、抜くと血が止まらなくなるからあとでね」と刺さったままカツ丼を平らげると
店主と世間話し、「お医者さんいこーぜ!」とスタスタ歩いていきました。
学校で同じクラスの女子に「ねえ!おとうさんって何してる人?」と
聞かれました。
「んとね、 お父さんパイロット!」
つづく
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