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第七十四段~『白い病』が予言の書に見えた(カレル チャペック)

白い病を読了した。手に取った理由は大したものではない。Kindle Unlimited対象だったこと、岩波文庫を読みたかったこと、比較的、人気そうだったことなど、雑多である。しかも、どういう話かも知らずに開いた。まず、戯曲ということに驚いたが、読みにくさは感じなかった。数少ない登場人物しかなく、場面の把握も容易い。しかし、ストーリーは現代を予見したのかと、思うほど引き込まれた。

私なりに一言でまとめると、世界唯一の特効薬を人質に取る医者 vs 戦争主義者の静かな戦いというところか。50歳前後が地位や性別などに関わらず罹患する感染症、白い病、が世界を恐怖に陥れる中、1人の医者が特効薬を開発する。ついに白い病に人類は勝利したかと思われたが、医者が要求したことは、世界的な平和条約の締結と戦争の中止であった。

流行病と戦争。これほど、現在にしっくりくる設定があるだろうか?1937年に発表された戯曲とは到底思えなかった。もしも、コロナウイルスワクチンを今もイギリスが門外不出の技術として世界に解放していなかったら。アフターコロナの楽観的な空気とは程遠い、恐怖の状態が続いたのだろうかと、想像した。また、本書の戦争主義者の言葉に『戦争は人民を国民にする』というものがある。まさに、ウクライナやロシアを見て書いたかのようだ。執筆当時は、第二次世界大戦が差し迫る状況だったはずだが、同様に国民意識、つまり相手国の設定と強烈な敵対意識、が高まっていたのだろう。1つ興味深いのは、この話では、攻める側の国内を描いているが、それでも戦争を利用して国民の支持を集めようとすることだ。これが真理なら、戦争を無くすには国家を無くすしかないと感じる。

以上、読了後の感想をつらつらと語ってみた。興味の一助になれば幸いである。

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