クロノクロス2

回想録:「クロノ・クロス」 Ⅱ.龍の涙は"汝とは何か"を問いかける

ノンジャンル人生です。今回は予告通り、クロノ・クロスのネタバレを含む内容を書いていこうと思います。前回はこちら。

平行世界の冒険と、失われた身体

平行世界を舞台としたクロノ・クロスでは、セルジュが生きているHOMEと呼ばれる世界線と、セルジュが死んでいるANOTHERと呼ばれる世界線を渡りながら物語が進みます。

2つの世界の違いはセルジュの生死だけでなく、ヒドラと言われる生物がANOTHERでは絶滅していたり、アカシア竜騎士団がHOMEでは消息不明であったりと、大小様々な違いがあります。一方の世界でパーティ入りした仲間を、もう片方の世界にいる自分自身の前に連れてきて対面させるなんてことも可能です。

平行世界の行き来する本作では、主人公セルジュを介してプレイヤーに対し"自分"とは何かを問いかけ続けます。

自分のいない世界に突然投げ出され、それまで親しかった人達が他人となってしまったセルジュ。自分というピースが欠けたANOTHERでの旅は、寂しい音楽も相まって、どことなく喪失感を抱えながら歩みを進めていきます。キッドを助けるために再びHOMEに戻ってきた時、筆者は安堵を覚えました。

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スクウェア・エニックス ゲーム紹介ページより)

しかし物語序盤の終わりに、セルジュは再び自身の大きな試練に見舞われます。アカシア龍騎士団と古龍の砦での決戦時、ヤマネコの策略にはめられたセルジュは、「龍の涙」と呼ばれる秘宝の力によってヤマネコと身体が交換されてしまうのです。

以降ヤマネコ編では、精神はセルジュ・身体はヤマネコの状態のままHOMEを旅することになります。それまでの身体を失い、仲間との絆は解消され、ANOTHERへ戻る手段を失ったセルジュ。この時の衝撃はあまりに大きかったです。

セルジュを定義するものとは一体何か

身体を奪われて投げ出された「次元の狭間」にて、今作のキーキャラクターの一人「ツクヨミ」は、セルジュに問いかけます。

「あなたが主張するセルジュとしての記憶……」
「それだって龍の涙を使えば、後から書き換えられるわけだよねえ?」
「現にあなたは、向こうの世界では10年前に死んでたでしょ」
「どうして、今生きている自分がセルジュだと断言できるの?」
「これまでずっと疑いすらしなかっただろうけど……」
「セルジュだったのかなあ、あなた。本当に?」
「それに、それじゃそもそもセルジュって何だったの?」
「姿かたち?こころ?たましい?どこにセルジュはいたの?」

ヤマネコの見た目で自分がセルジュだと主張しても、誰が信じてくれるのか。セルジュはANOTHERでは10年前に死んでおり、龍の涙を使えば記憶すら書き換えることが可能。ならばセルジュを定義するものは、一体何なのか。

この問いかけと近いテーマを持った映画があります。押井守監督作のSFアニメの金字塔「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」です。

この作品でも、魂の定義を観客に問いかけます。電脳が普及し、身体を義体化で代替可能な世界で、人を人たらしめるものとは何なのか。全身サイボーグ化した公安9課の草薙素子と、情報の海より生ませた自我「人形使い」との邂逅によって、自己とは何かを考えた人も多いでしょう。

この哲学的な問答に対し、クロノ・クロスではプレイヤーがセルジュを操作することで、その解答を模索していきます。セルジュの母との会話から自らも知らない過去の出来事を知り、滅びた歴史に触れ、世界中を渡って龍神たちに挑み、新しい仲間達との信頼関係を築き上げていきます。

問いかけの答えを導き出すのは自分自身

長い旅路の末、セルジュはHOMEの古龍の砦にて、もうひとつの「龍の涙」によって生まれ変わり、かつての身体を取り戻しました。しかし、そのときにゲームはあなたに「自分とは何か」の明確な答えを出しません。

あくまで筆者の考えですが、このとき、ただ身体を取り戻したことだけが答えではないと思っています。むしろ、そこまでの道中でプレイヤーが冒険の中で何を感じ何を考えたのかが重要だと思うのです。

身体を取り戻す道中では、これまでプレイヤーが歩んできた道の「その後」を見ることが出来ます。蛇骨館のその後、妖精とドワーフとヒドラのその後、ゼルベスとマーブレのその後……。

人、そして社会や世界は、自分を映す鏡のようなものです。他者との関わり合いの中で、人は自我を形成していきます。ゲームでも出会いと別れを繰り返す中、自分が周りにどんな影響を与えたのかを追体験させることで、擬似的に人生を振り返らせようとしているのではないかと思います。

クロノ・クロスとは、人と神の織りなす壮大な物語のようで、実は自分を想い見つめ返す、パーソナルな物語なのかもしれません。

このコラムはもう少しだけ続きます。それではまた次回。

©1999 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. ©1999 結城信輝
※本noteは2018年5月に投稿したものを、2020年に再校正して公開しています。

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