クロノクロス3

回想録:「クロノ・クロス」 Ⅲ.難解と言われる物語の先にあるもの

ノンジャンル人生です。
おまたせしました。クロノ・クロスコラムのラストは、本作の物語の難解さに関して語っていこうと思います。今回もネタバレありです。

第1回・第2回はこちら

クロスが複雑な理由

難解と言われることが多い本作ですが、ストーリーライン自体はけして難しいものではありません。物語はだいたい3部に分かれていて、

・自分が10年前に死んでいる平行世界に迷い込んだセルジュが、キッドと出会い、暗躍するヤマネコを追いかける話
・ヤマネコに体を交換されたセルジュが、龍の加護を得て元の姿に戻るまでの話
・ヤマネコを追い神の庭に足を踏み込んだセルジュが、フェイトと決戦を経て、人に復讐しようとする龍神と戦う話

で大きく区切られています。

目的はその都度変わりますが、シナリオ自体はしっかり骨組みがされていて、かつプレイヤーに驚きを与えるシーンを要所要所に用意してくれるなど、ストーリーライン自体の完成度は非常に高いです。平行世界というSF要素部分も、ふたつ世界の違いを丁寧に描いてくれるので、理解はけして難しくありません。

そんな物語がなぜ難解かと言われると、重要人物たちの動機と本編に至るまでの時系列がかなり複雑なことに合わせ、それらがほとんど語られなかったり口頭だけで済まされているケースが多く、その情報が終盤一気に膨れ上がるからです。

クロノ・クロスには物語の鍵を握る重要なキーパーソンたちがいます。ヤマネコ、ツクヨミ、時の預言者、龍神など…。彼らは自分の目的のためにセルジュを利用しながら動きますが、動機はなかなか見えてきません。それらが分かるのがDisc2のクロノポリス以降なのですが、動機を理解するためには物語の過去に何があったのかを把握しなくてはいけません。

ANOTHERでセルジュが死んだ10年前、瀕死のセルジュを連れウヅキとミゲルが神の庭に迷い込んだ14年前、クロノ・トリガーの物語のあとに起きた事件、そしてタイムクラッシュにより引き起こされたクロノポリスとディノポリスの戦い……。

しかし過去の出来事の描写はイベントではあっさりとしか描かれず、ほとんどが口頭・もしくはクロノポリスなどに残されたデータくらいでしか語られません。しかも情報はバラバラなタイミングで与えられ、整理する機会もなく、それでもキーパーソンたちはお構いなく話を進めていきます。そのためラスボス戦前まで話が分からないままバッドエンドに到達し、最後までわけがわからないまま終わった人も少なくないと思います。

終盤に突き放すようなシナリオが展開されるクロノ・クロス。キッドの過去のようにフラグを回収しないと見れない重要なイベントもあり、把握するのは困難を極めます。

※物語を考察・整理する上でこちらの記事が参考になりました。

ここまで複雑な話になった意図は分かりません。トリガーのように明快かつ伏線が回収しきれた方が受けが良かったかもしれませんし、本来のテーマであるサラの物語に絞った方が話がぶれなかったかもしれません。

しかし……当時は理解しきれなかった物語も、今となっては、これで良かったように思えます。

トリガーの“影”の物語

クロスには、トリガーとはまったく違うドラマが溢れんばかりに積み込まれています。自分が死んだ世界、ヒドラとドワーフと妖精の悲劇、自分の肉体を奪われるエピソード、運命による人間へのコントロール、殺された過去の復讐……。

これらはトリガーの希望を求める作風ではきっと描くことが出来なかったのでしょう。むしろ、トリガーが大ヒットしたことによる影の部分なのかもしれません。

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スクウェア・エニックス ゲーム紹介ページより

「クロノ・トリガー」は今でも最高のRPGのひとつとして語り継がれています。しかしそれは過去に縛られ、この国のRPGの黄金時代や鳥山・堀井・坂口のドリームプロジェクトなど、素晴らしかったあの頃を塗り替えることが出来ないという呪いのような側面もあります。未来を変えるという物語であるにもかかわらず、です。

ディレクター&シナリオライターの加藤正人氏とコンポーザーの光田康典氏の対談では、クロス誕生までの経緯が書かれています。読む限り、トリガーの開発の裏に暗い部分があったことをうかがい知ることが出来ます。

クロスはトリガーの鳥山キャラやタイムトラベルを継承するという「トリガー2」の道を選びませんでした。その代わりに、トリガーから零れ落ちたピースを拾い集めることで、失われた物語を癒やす「アフター・トリガー」の作品として成り立っています。

セルジュが冒険を通し失ったものや前作のキャラクターの死など、クロス全編に横たわる喪失の空気は、トリガー後のスタッフの心情、またはトリガーが帰らぬ過去になったプレイヤーの思いと重なります。

コラム第1回目で書いたように、過去のプレイヤーに対し強烈な痛みを与えながらも、エルニドの美しい海とBGM、そして登場人物達の詩的な言葉が喪失の傷に寄り添ってくれます。この、矛盾し相反したものこそ、クロスのテーマとなる「愛と憎しみ」そのものではないかと思います。

クロスは複雑な物語ではありますが、メタ的な部分も含め、多くの傷跡と癒やしを表現するためには、これだけの情報量が必要だったのかもしれません。

補足:なお、加藤正人氏はスマホRPG「アナザーエデン」にてクロノの遺伝子を引き継いだシナリオを書き、トリガーのディレクターだった時田貴司氏によるクロノ続編の構想は、「FFレジェンズ」へと引き継がれたそうです。
アナデンまつり2018春 アナザーエデン超感謝!祝リリース1周年生放送より

愛と憎しみの果てに

人と運命と龍の戦いの中で、自らを見つめ返し、傷口を暴きながら、同時に喪失の傷を癒やすクロノ・クロス。魔剣と化したグランドリオンの浄化、マジカルドリーマーズの公演とマーブレ再興、幼少期のキッドを救うイベントは、クロスでなくては書けなかった物語でしょう。

その総決算となるのが正しい戦い方でラスボスに挑んだときに見られるトゥルーエンドです。トゥルーエンドと言っても、長いムービーが展開されるわけでもなく、テキストメインの静かなものです。しかし、憎しみ合いの連鎖を解き放って一人の少女を救ったとき、果てのない物語が終わりを告げ、また新しい物語の始まりを予感させました。

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スクウェア・エニックス ゲーム紹介ページより)

かつて子供の頃の筆者を時の迷子にし、惑わせ、そして癒したクロノ・クロスというRPG。このゲームが与えたものは、「ゲームを遊んで感動した」という言葉では語り尽くせません。同時に、本作が与えた「否」の感情も忘れていけないものと思います。

それでもクロスの問いかけた物語は、自己とは、愛と憎しみとは何かを考えさせ、生きていくために大切なことを教えてくれたのだと、今でも思っています。

クロノ・クロスのコラムはこれで終わりです。拙筆ながら、読んでいただきありがとうございました。

最後はこの言葉で締めたいと思います。それでは。

物語は終わっても、人生はつづく……
だから、その時まで……
ごきげんよう。
Sarah Kid Zeal


©1999 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. ©1999 結城信輝
※本noteは2018年6月に投稿したものを、2020年に再校正して公開しています。

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