夫の急死、それは地獄へのほんの序章に過ぎなかった。想像を絶する『不倫の真実』との闘いが始まった。Vol.6
夫が数年前に脳溢血で急死しました。
そして、夫に関する驚くような出来事が次々と明らかになりました。
その事について、これから少しずつ投稿していこうと思います。
これからお話しする事は全て、私の身に実際に起きた事です。
私が自分に都合の良いように解釈していることや、記憶違いや勘違いもあるかも知れませんが、全て私の中での真実です。
同じような経験をして苦しんでいる方に読んでいただいて、少しでも与えられる物や、何かの慰めになればと思っています。
それ以外の方にも、「愛」や「結婚」、あるいは「不倫」というものが、どういうものなのかを考える機会にしていただけたら幸いです。
ちなみに、全体のお話を書いた書籍をAmazonで販売しております。
全体を先に知りたいと思ってくださった方は、ぜひご覧ください。
第2章 発覚 3.ヌード写真
夫とA子の不倫の事は、母や姉にも、そして夫の両親にもしばらく話さなかった。
夫が亡くなったばかりなのに、さらに皆に辛い思いをさせたくなかったし、私自身も話す気になれなかった。
だが、しばらくしたら夫の両親に話す気になった。
夫が亡くなっても、飲食店で働いている私が週末に仕事を休むわけにはいかなかったので、毎週末は夫の両親に息子の面倒を見てもらっていた。夫の両親も孫に会うのを楽しみにしてくれていたようだ。
ある週末に仕事をしていると、義母から電話がかかってきた。
「N子さん、今日はお父さん、夕飯を食べながらお酒を飲んじゃったから、○○ちゃんを送れなくなっちゃったのよ。ごめんなさいね」
「大丈夫ですよ。もうすぐ仕事が終わるので迎えに行きます」
「あら、そう? 悪いわね。急がなくて大丈夫だから、ゆっくり迎えに来て」
私はすぐに帰ろうとしたが、母と姉に仕事の事で話しかけられ、少し時間が経った。
その後、夫の両親のところへ息子を迎えに行くために車を走らせていた。
すると、私の携帯電話が鳴った。表示を見ると義父からだったが、運転中なので電話に出られなかった。
一旦、着信音が鳴り終わったが、またすぐに鳴り始めた。また義父からだった。
義父は電話に出ないと何度も立て続けに電話をかけて来て、『なんですぐに電話に出ないんだ!』と言うタイプだった。すぐに車を停めて電話に出た。
すると、義父はいきなり怒鳴り出した。
「おい! いったい何をやってるんだ!」
「えっ⁉︎ 何ですか?」
「だから! 何をやってるんだ! 子供が待ってるんだぞ! すぐに迎えに来ると言っておいて、何をやってるんだ!」
義父は気が短く、やれと言ったらすぐにやらないと何度でも言ってくる気質だった。
けっして悪い人ではなかった。それは今までの付き合いでよく分かっていた。
だが、とにかくせっかちで待てないタイプだった。酒癖が悪いというほどではないが、お酒が入るとさらに気性が荒々しくなった。
今までも、義父にカチンと来る事は何度かあったが飲み込んでいた。
今までは夫も居たし、私よりも夫に言ってくることがほとんどだったからだ。
それに、義父には息子の面倒を見てもらったりと、色々とお世話になっていた。
だが、今回ばかりは許せなかった。いや、これからはこんな事は許せないと思った。
夫がもう居ないのだから、これから夫の両親のことは私一人で受けなければならないのに、こんな事をちょくちょく言われては堪らない。
それに、夫に裏切られていたのに、その親からもこんな仕打ちを受けなくてはいけないのかと思った。私はそういう心の狭い人間なのだ。
迎えに行くと、義父がもう一度『何をやってたんだ!』と言ったので、さらに腹がたった。
だが、私は歯を食いしばって『遅くなってすみませんでした』と頭を下げ、そそくさと息子を引き取って帰った。義母は申し訳なさそうな顔をしていた。
後日、機会を見計らって、夫の両親に夫がA子と不倫していたことを打ち明けた。
夫がした事なので、夫の両親を責めたかったわけではなかった。
ただ、それを知って、少しは悪いと思ってもらって、嫌な事をあまり言わないようにしてくれればそれで良かった。だから軽く明るい感じで話した。
「不倫なんかしていたんですよ。しょうがない人ですよね、K男さんは」
夫の両親は、私が話している様子を見て、それほど深刻ではないと感じたのか、あまり重く受け止めなかったようだ。
「K男は昔からそういう所があったのよね。付き合っている人がいるにもかかわらず、誰かに言い寄られるとそっちの方へ行くっていうのか……」と義母は言った。
「K男は俺に似てなかなかモテるんだ。どんな女だって?」と義父は聞いた。
「お通夜と告別式と両方に子連れで来てて……」
「ああ、あの女か。そんなにいい女じゃなかったけどねぇ」
「ああ、あの人! 告別式の日にも来てたわよね。2日間も連続で、しかも子連れで来てたから、なんか変だと思ってたのよね」と義母も言った。
やはりA子は目立っていたらしく、二人ともよく覚えていた。
そして、義母が言った。
「そういえば、2年くらい前だったかしら。K男が会社のETCカードで2回ほど〇〇インターまで行った時の請求が来たから、何しに行ったか聞いたら、『別にいいだろ。いちいちうるさいな』と言われて、変だと思ったのよね。あの時、その女の人に会いに行ってたのかしら」
その高速道路のインターはA子の引っ越し先からほど近い場所にあった。やはり最近まで、夫はA子に会いに行っていたようだ。
それから数日後、私のおかしな様子を母と姉に問い詰められて、A子の事を話した。
母と姉は激怒した。
「お通夜も告別式も子連れで来て目立っていて、誰だろうと気になってたけど! 通夜振る舞いまで出席して、なんて図々しい女なんだ! このままじゃ気が治らないから、もらった香典を突き返してやる!」
私は『もういいよ』と言ったが、母達は頑として譲らなかった。
母はさっそくA子に電話をして、『話があるから時間を作ってほしい』と伝えた。
A子はすぐに折り返し電話をすると言って電話を切ったが、その後、連絡は無かった。
痺れを切らした母がもう一度電話をかけると着信拒否になっていた。そのまま逃げるつもりだったのだろう。
母達はさらに激怒し、香典帳に書いてあったA子の職場先に電話をして、『時間を作ってくれなければそちらに行く』と言うと、A子が時間と場所を指定した。
そして数日後、A子の職場の近くの喫茶店で会い、二人であれこれ責め立てて、香典を突き返してきたという。
母と姉によると、A子はずっと斜に構えて母と姉を睨んでいたそうだ。
そして、ボイスレコーダーでその時の会話を録音していたらしい。A子は母達に脅されて、多額の金銭を要求されるとでも思っていたのだろうか。
それから何日か経ち、また夫の遺品を整理していた。
また何かが出てきそうで嫌な気分だったが、ずっと整理をしないわけにもいかなかったし、何かしていないと気持ちが落ち着かなかった。
古い音楽CDがたくさん入っている箱があり、全部捨ててしまおうとゴミ袋にCDを入れていると、下の方から処方箋の薬の小さな紙袋が出てきた。
—— えっ⁉︎
また、胸がドキッとした。○○○○様とA子のフルネームが袋に大きく書かれてあった。
処方された日付は3年ほど前で、近所の耳鼻科から処方された、スプレー式の鼻の通りを良くする薬のようだった。
—— 何故、こんな物が我が家にあるのか……
私は色々と想像してみた。
例えば、A子と夫が会った時、夫は鼻の具合が悪く、少し苦しそうにしていたとする。
そこで、A子は後日、私がいない週末に我が家に来て、「この前、鼻の調子が悪そうだったけど大丈夫? K男のことが心配だわ。私が鼻の調子が悪い時、耳鼻科でその薬をもらって使ったらすぐに良くなったから、あなたもこの薬使ってみてね』とか何とか言い、いかにも体を気遣うようなそぶりをして薬を渡したのではないか。
夫は思わず受け取ったが、こんなにでかでかと彼女の名前が書いてある処方箋の袋を私に見られてはマズイと、古いCDの下にとりあえずギュッと押し込んだ。
そして、そのまま何年もその存在を忘れていたとか。おおかた、そんなことだろうと思った。
夫は時々鼻の調子が悪くなるタイプで、耳鼻科によく行っていた。
そして、その薬の袋は大事にとってあったと言うより、数年分の埃をかぶってぐちゃぐちゃになっていた。
薬自体は大した物じゃないのかも知れなかった。
だが、A子は中の薬だけを渡さず、わざわざ名前入りの袋ごと夫に渡したのだ。
でかでかとしたA子のフルネームの字を我が家で見せつけられて、A子の我が家を侵害する強い意思のようなものを感じてゾッとした。
A子からのあの手紙も、大事にとってあったと言うよりは、引き出しの奥でやはり埃を被っていた。
恐らくその手紙も、A子から渡されたが処理に困り、引き出しの奥に隠したものの、その存在をすっかり忘れていたのではないだろうか。
夫はそれほどにこまごました物を何でも取っておくタイプで、どこに何があるのか分からなくなっても不思議ではなかった。
A子が夫にその手紙をいつ渡したのかはだいたいの想像がつく。
おそらく幼稚園の卒園式の日だろう。その日はA子が自分の地元に引越しをする数日前だった。
卒園式の夜、幼稚園のママ達は集まって飲み会をしていた。それは、その幼稚園の昔からの慣例だった。
そこで、パパ達は『ママ達ばかり飲み会をしてずるい』と、その夜は子供達を連れて我が家に集まり、飲み会をしたのだ。
私がそのママ達との飲み会を終えて帰宅すると、夫からA子も家に来て自分達と一緒に飲み会に参加して帰ったと聞いた。
その日に我が家でパパ達の飲み会があると聞いて、自分も参加したいと言って、A子が急に家に来たのだそうだ。
私はそれを聞いて、「私ならパパ達だけの飲み会に参加しないけど、彼女らしいな」と思った。
A子はセクシーで、男好きするタイプで、男の中に女一人でも平気そうだと思っていたからだ。
それに、昔、A子がコンパニオンの仕事をしていた事も夫から聞いていた。
おそらく、A子はその手紙を渡すために我が家に来て、その飲み会が終わった後に、自分だけ少し家に残って、手紙を渡したのではないだろうか。
A子は引っ越す前に手紙を渡すことで、夫の気持ちを繋ぎ止めて、その後も何かと利用したり、相談に乗ってもらおうとしていたに違いない。
それからしばらくすると、自宅の倉庫の箱の中から、彼女のヌード写真が数枚出てきた。
背景から察するに、二人でラブホテルに行って撮った写真だと思われた。
1枚は、全裸で浴槽に入って、脇の下を見せるように両腕を上げてポーズをとっているA子の写真だった。
それから、A子が下着姿でベッドの脇に立ち、ブラジャーからわざとおっぱいをはみ出させているような写真が2枚あった。
夫は写っていなかった。
A子の勤務先は写真店だった。おそらく、夫がA子の携帯電話で画像を撮り、A子が自分の勤務先の写真店でこっそりとプリントアウトして夫に渡したのだろう。
あの手紙や薬の袋と同じように、その写真は存在を忘れ去られて放置されていたかのように埃をかぶっていた。
そんな事があり得るのかと思う人もいるだろうが、夫の異常なほどの遺品の多さを目にしたら納得するかも知れない。
私はその日のうちに彼女の勤務先の住所を調べ、その写真を送りつけた。
その写真を1秒でも家に置いておきたくなかったのと、私がそれを見つけて苦しんでいる事を知って欲しかったからだ。
私は封筒にただその写真を入れて、A子様と書いて送った。
A子の自宅に送った方が良かったのかも知れないが、住所が分からなかった。
年賀状も調べたが、何故かA子からの年賀状にはずっと旧住所が書かれてあった。
それに、夫の香典帳にも住所を記入するところがあったにも関わらず、勤務先であるチェーン店の写真店の名前が書かれてあっただけだった。
A子は万が一の為に予防策を取っていたのだろうか。もしバレてお金でも請求されたら逃げるつもりだったのだろう。小賢しい女だ。
それとも、母と姉に会った時のボイスレコーダーの事にしろ、このようなことに慣れているのだろうか。
何だか全てが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
夫やA子を決して許したわけではなかったが、それからしばらく経つうちに、なんとかこの事を受け入れようとしていた。
夫と彼女とは、お互いの寂しさや性欲を満たすだけのただの遊びだったのだろう。
A子は私が羨ましかったのだろう。夫は私と別れたいと思っていたわけではなかったのだろう。
そう思う事でなんとか飲み込もうとしていた。
そして、息子のためにも自分のためにも、前向きに生きていこうと思い始めていた。
だが、現実はそんなものでは済まなかった。
主な登場人物
(年齢等は2019年6月時点)
・N子(主人公であり、著者)
47歳の主婦。結婚15年目。
実家が営む日本料理店でパートタイマーとして働く。
背が高く、ツンとすましているように見られがちだが、おしゃべりでおっちょこちょい。
20年近くパニック障害を患っているが、理解ある夫と可愛い息子に囲まれ、念願の一軒家にも住み、悪くない人生を送っていると思っている。
・K男
N子の夫。N子より三歳年下の44歳。
父親が経営する塗装業の会社に勤務。離婚歴があり、前妻との間に娘がいる。
背が低く、ぽっちゃり型。細いタレ目でいつもメガネをかけている。
街づくりに積極的に参加し、器用で知恵や行動力もあり、人に頼られると張り切る性格。
・A子
N子のママ友。 五年前に夫を心不全で亡くす。
中肉中背。美人ではないが、女子力が高く、色気があるタイプ。
夫を亡くして他の保育園に移った後も、N子を含むママ友達と交流が続く。
2年前に50キロほど離れた自分の地元に引っ越す。
・S子
N子のママ友であるとともに、N子の息子が通った幼稚園の副園長。
小柄で細身だが、丸顔で、笑うと両頬に出るえくぼが可愛い。
N子とは、小学校でも息子同士が同じクラスで、関係が深く、仲が良い。
・S子の夫
婿養子。寺の副住職。背が高く体重もあり、体格が良い。
K男に家のリフォームを頼むなど、N子やK男と家族ぐるみで仲が良い。
登場人物相関図
(年齢等は2019年6月時点)
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