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夫の急死、それは地獄へのほんの序章に過ぎなかった。想像を絶する『不倫の真実』との闘いが始まった。Vol.7

 夫が数年前に脳溢血で急死しました。
 そして、夫に関する驚くような出来事が次々と明らかになりました。
 その事について、これから少しずつ投稿していこうと思います。

 これからお話しする事は全て、私の身に実際に起きた事です。
 私が自分に都合の良いように解釈していることや、記憶違いや勘違いもあるかも知れませんが、全て私の中での真実です。

 同じような経験をして苦しんでいる方に読んでいただいて、少しでも与えられる物や、何かの慰めになればと思っています。
 それ以外の方にも、「愛」や「結婚」、あるいは「不倫」というものが、どういうものなのかを考える機会にしていただけたら幸いです。

 ちなみに、全体のお話は『夫が死んでも、許せない。』(田代信子著)でAmazonで出版しています。
 全体を先に知りたいと思ってくださった方は、ぜひご覧ください。



第2章 さらなる発覚 1.からすのパンやさん


 A子の手紙を発見してから3週間ほどが過ぎた。
 夫のクレジットカードを解約する為、利用明細をインターネットで確認していた。
 毎月引落しになっているものを調べ、必要なものは私のクレジットカードからの引落しに変更し、不要なものは解約をしなければいけなかったからだ。

 すると、利用明細の中に『絵本ナビ』という名目で毎月300円が引き落とされていた。

—— 『絵本ナビ』って一体なんだろう?

 不思議に思い、インターネットで検索してみた。
 どうやら、インターネット上で絵本の最初の部分だけ試し読みをして、気に入ればそれを購入できるというサイトらしかった。

 確かに、夫は何にでも興味を持つタイプで絵本も好きだった。古本屋で素敵な絵本を見つけるとよく購入していた。

—— でも、こんなサイトに登録して、毎月会費まで払うとは……

 違和感と胸騒ぎを感じた。

 よく見ると、右上に購入履歴というタブがあったので、そこをクリックしてみた。
 その購入履歴によると、夫はそのサイトで絵本を数冊買っていた。そして、その絵本のほとんどは我が家のリビングルームの本棚に置いてあるものだった。

 —— あの絵本たちはここから購入していたのか……

 そして、ずーっと下まで購入履歴を見ていくと、夫が数年前にそのサイトで一番最初に購入した物が表示された。

 それを見て、私は心臓がどきりとした。

 それはエプロンだった。幼稚園の先生が仕事の時に身に付けるような、キャラクターが全面に施された物で、かこさとしの人気絵本『からすのパンやさん』のピンク色のエプロンだった。

—— どうしてこんな物を。我が家にあるのを見たこともないのに……

 その時、ある事に気がついた。

—— このエプロン、見覚えがある…… あのエプロンだ!

 そのエプロンは、息子が通った幼稚園の副園長がよく身に付けていたのと同じ物だった。
 その副園長は息子の同級生の母親でもあり、息子同士はその時も小学校で同じクラスであり、夫が入る墓を建てることになっているお寺の長女であるS子だった。

 —— まさか! 嘘だろう…… S子とも関係を持っていたと言うのか。まさか、そんなはずはない。何か事情があるのかもしれない。

 とにかく、彼女に訊いてみるしかなかった。
震える手で、S子にエプロンの画像とラインメールを送った。

「こんばんは。夜分に変なこと聞いてすみません。この、『からすのパンやさん』のエプロンお持ちでしたっけ?」

 2時間ほど経って、やっと返事が来た。

「メッセージに気付くのが遅くてスミマセン。このエプロン、持ってます。お気に入りだったんですが、先日、プールの塩素消毒がついて、ところどころ脱色してしまい、ガーンとなりました。何年か前に、園に出入りの業者から買いまして、また買いたいけどもう無いみたいで残念です。」

「『からすのパンやさん』というか、かこさとしさんが大好きで、ここ2年くらい、うちのカレンダーも『からすのパンやさん』です」

 わざわざカレンダーの画像まで撮って、一緒に送って来た。

 —— 怪しい。怪しすぎる…… まずは、なぜこんな夜更けにそんな事を尋ねてきたのかを訊くはずじゃないのか。それに、カレンダーの画像まで撮って送ってきて、説明がやけに長すぎる。

 私は気持ちを抑えきれず、続けてメールを送った。

「ひょっとして、そのエプロンは私の夫からのプレゼントでしたか? たまたまインターネットを見ていたら、夫が二年程前に通販で同じエプロンを購入していました。でも、家のどこにも見当たらないし、どこかで見たことがあるようだと思っていたら、あなたがいつも着ているのを思い出しまして」

「私、業者さんから買ったのですが」

 驚いた様子もなく、やけに短い答えだった。ますます怪しかった。
 普通なら、「本当ですか? 不思議ですね」とか、言うはずじゃないのだろうか。

「そうですか。あなたはもう買えないと言いましたが、そのエプロンは楽天などで、今でも普通に販売されてますよ」

「そうなんですね! 業者さんのカタログで買ったので、そこで扱ってないから無いのかと」

 私はもう我慢できずに切り込んだ。

「夫と特別な関係にありましたか?」

「私はとても尊敬していましたが、特別な関係ではないです」

 それ以上、私は何と返信して良いのか分からなかった。S子からも返信は無かった。

 信じられないような気持ちで、よく眠れぬまま翌朝になった。

 その日は、夫の四十九日法要が行われる日だった。
 この辺りの風習に従い、午前中に自宅の仏壇の前でS子の夫にお経を上げてもらい、その後、お寺に向かい、御本尊の前で読経と焼香があった。
 それから、実家の日本料理店で僧侶を交えて親族で会食をした。

 当然ながら、私は朝からずっとうわの空だった。
「元気がないね。大丈夫?」と皆に言われ、何も言わなかったが、感情を隠しきれなかった。

 会食が始まって少し経ったころ、S子がお店にやって来た。親族以外の人が会食の席に着くことはあまりないはずなのだが、義父がS子を会食に招待したのだ。

 S子は義父の大のお気に入りだった。
 息子が幼稚園に通っていた頃から、幼稚園のイベント等で顔を合わせる度に、「おじいちゃま、おじいちゃま」とS子に積極的に話しかけられ、義父も「S子ちゃん、S子ちゃん」と呼んで、たいそう気に入っていた。
 義父は私や夫にも「S子ちゃんは良い子だ。お寺の若奥様だからってツンツンしていないし、俺と気が合う」などと言っていた。

 夫が亡くなってからは、義父は仕事場にある夫が使っていた物を指して、「これ、幼稚園で使えるんじゃないか?」とか、「これ、幼稚園の子供達にあげたら喜ぶんじゃないか?」とか、「S子ちゃんに連絡してみるか」と、何かとS子の名前を口にしていた。

 夫の死後、夫の代わりに義父が息子を登校時の待ち合わせ場所まで車で送っていくと、S子は毎日のように義父の前で泣いたという。
 そこで、義父が私や義母に何の相談もなく、四十九日法要にS子を誘ったのだそうだ。

「いくらなんでも、普通は親族以外の人は誘わないし、彼女も迷惑だろうに……」と義母も呆れていた。

 S子は会食の席に着くと、ほとんど喋らずに大人しくしていた。
 しばらくすると、私は堪らなくなり、「ちょっといいですか?」とS子に声をかけ、店の応接室に案内した。
 義父やS子の夫は上機嫌で飲んでいたし、何かの 話で盛り上がっていて、皆、私達の様子にあまり注意を払っていないように見えた。

 私は早速、S子に尋ねた。

「夫と何かありましたよね? プレゼントを受け取っていましたよね?」

 S子は私と目を合わせず、うつむき加減で、やっと聞き取れるほどの小さな声で言った。

「私はご主人の事をとても尊敬していましたが、何もありません。どうしてご主人がそのエプロンを買っていたのかも分かりません」

 そんな風にしばらく押し問答が続いて、彼女はなかなか口を割らなかった。
 だが、私は二人の間に何かあったのだと確信していた。

 もし、私が友人にその夫との仲を疑われて、何もなければ怒るはずだと思った。『なぜ疑うのか』、『私の事をそんな人間だと思っているのか』と、烈火のごとく怒るはずだった。
 そして、私なら、夫を亡くした上に不倫で悩んでいる彼女を気の毒に思い、必死で疑いを晴らそうと、詳しい事を色々と聞き出して、それに対して説明をするはずだった。

 彼女がそうしないのは、絶対に二人の間に何かがあったのだと確信していたが、私はそれ以上、何と言って彼女を攻めたら良いのか分からなかった。

 そこで、私は彼女の心を揺さぶるためにある事を言った。

「実は、夫はA子さんと関係を持っていたんです。夫はそういう男でした。だから、あなたとも何かあったんじゃありませんか?」

 うつむいていたS子が急に顔を上げて目を見開き、驚いた様子で私に訊いてきた。

「えっ! 本当ですか⁉︎ ちょっと待ってください! 私、頭がパニックになりそうで…… それは、いつからいつまでですか⁉︎」

「子供達が年中の秋頃から、1年くらい関係を持っていたそうですよ。でも、彼女が地元に帰ってからも、たまに彼女の家に行ったりしていたそうです。本人に問いただして聞きました」

「そんな……」

 S子はショックを受けているようだったが、それ以上は何も言わなかった。
 そして、いつまでも彼女を引き留めておくことは出来なかったので、二人で席に戻るしかなかった。

 会食の席に戻ると、S子の夫を中心にして話が盛り上がっていた。
彼はいかに幼稚園のパパ友ママ友達が仲が良かったかを力説していた。また皆でバーベキューをやりたいとも話していた。
 私はなんと哀れなのだろうと思いながら、その話をただ聞いていた。
 S子は夫とA子の話をきいてショックを受けているのか、その後もほとんど喋らなかった。

 皆が帰ると、母と姉は私に「本当に様子がおかしいけど大丈夫?」と訊いた。
 そして、私はついにエプロンの話をし、夫とS子が深い関係だったようだと言った。
 だが、母も姉も「まさか!」と言って信じなかった。
 無理もない。彼女のような立場の人間がする事だとは誰も信じられないはずなのだ。

 そこで、私はその前日のS子とのラインメールのやりとりを母と姉に見せた。
 それを見た姉はすぐに表情を曇らせた。

「確かにこれはおかしい! 『特別な関係でしたか?』と訊かれたら、『特別な関係とはどういう意味ですか?』と逆に聞き返すのが普通じゃない⁉︎ これは何かあったね!」

 母はそれでも信じなかった。

「まさか! お寺の人間であるS子さんがそんなことする訳ないでしょう⁉︎ K男さんがS子さんに一方的に恋心を持っていたとか。そういうこともあるんじゃないの? それくらい許してあげたら?」

 そのままなす術もなく夕方になり、息子を迎えに行く時間になった。
 息子はその日、体育教室に行っていた。体育教室は息子が幼稚園に通っている時から続けているもので、S子の幼稚園の体育館で毎週水曜日に行われていた。

 私は早めに幼稚園に行くとS子を探した。ますますS子を問いたださずにはいられなかった。
 S子が2階にいるのが階段の下から見えた。階段を駆け上がり、辺りを見回すと、運良く誰もいなかった。
 S子に駆け寄って声をかけた。彼女はギョッとした顔で振り向いた。

「K男さんと何かありましたよね⁉︎ 昨日のメールと今日のS子先生の態度で、私はもう確信していますよ。いい加減に認めてください! 認めてさえくれれば誰にも言いませんから。でも、認めないなら檀家を辞めさせてもらうしかないです。そうなったら困りますよね⁉︎ どうして檀家を辞めたのかをご両親に話すしかなくなりますよ」と言った。

 だが、S子は私と目を合わさず、俯いたまま言うだけだった。

「本当に何も無いものは、何も無かったとした言いようがありませんので…… 」

 その様子を見て、私はさらに確信せざるを得なかった。

「私だったら、疑われたことを怒りますよ!」

「でも、N子さんはご主人を亡くされたばかりなので、責める事はできません」

 こんなにとんでもない事を、彼女が簡単に認めるわけがないと思った。
そして、私はそれ以上、どうやって追い詰めたら良いか分からなかった。

 

 夜になり、私はS子にまたメールを送った。

「S子先生、今回のことは旦那さんにすぐに話しますよね? あらぬ疑いをかけられて、檀家を辞めると言われたら大変な事なので、何も無いならすぐに旦那さんに相談して、どうしようかと言う事になりますよね? あるいは、ママ友の誰かに話して、見に覚えのない疑いをかけられて大変な事になっているから、どうしたら良いかと相談したり、説得してくれないかと頼んだり、普通はしますよね?」

 彼女からしばらく返事は無かった。私はまたメールをした。

「私は夫とS子先生が特別な関係だったと確信しています。すぐに全てを正直に話してくれたら、私だけの胸にしまって、我慢して檀家を続けます。でも、話してくれないなら考えがあります。どうしますか? 私がS子先生にこんなメールを送らなくてはいけないのがどんなに苦しい事か分かりますか⁉︎」

 夜遅くなってから、やっと返事が来た。

「お返事が遅くなってすみませんでした。N子さんの辛いお気持ちはよくわかります。でも、私とご主人とは本当に何もありません。仕事が出来る方なので、色々と相談したり、力になっていただいたり、頼りにしていたのは事実です。」

「夫にも話しました。『誤解されるような事をしたおまえが悪い』と言われました。子供達が寝てから話したので遅くなり、すみませんでした」

 やはり、認めるつもりはないらしい。
 それよりも、認めてほしくてカマをかけただけなのに、夫に話してしまったとは、面倒なことになったと思った。 

 翌日、母や姉にS子とのメールのやり取りを話した。
 姉は完全にS子を疑っていたが、母は「そんな事があるわけない」と相変わらず信じなかった。

 その時、急にある事を思い出した。
 数年前のある朝、息子と一緒に幼稚園に着いたら、玄関で園児達を迎えていたS子が話しかけてきた。

 「そのスウェットパーカー、私とお揃いですよね。私もそのブランドの服、好きなんですよ」

 よく見てみると、その時に息子が着ていた上着とS子が着ていた物が、サイズ違いで色違いの同じ商品だった。

「あ、本当ですね。全然気付かなかった」と私は言い、深くは考えなかった。

 そのスウェットパーカーは、夫が自分とお揃いで息子にも買ってあげた物だった。
 という事は、夫とS子もお揃いの服ということになる。

 私はハッとして、夫のパソコンでそのブランドのサイトを見た。
 購入履歴のタブを開くと、今まで夫が購入した物の一覧が出てきた。
 夫はそのブランドの服がお気に入りで、息子や私の服まで色々と購入していた。

 一番下までスクロールしてみると、夫がそのサイトで最初に購入したものが表示された。
 それは、夫とS子が着ていた2着の色違いのスウェットパーカーだった。

 ーー これで、証拠がとうとう出てきた!

 彼女とお揃いではまずいと思ったのか、後になってから息子の分も追加で購入していた。
 それから、見たことの無い女性用のTシャツとワンピースも購入していた。
 これらもS子へのプレゼントに違いなかった。どちらも彼女が着ていたのを見たことがあるような気がした。
 これで間違いない。これだけ色々なプレゼントを受け取っていて、S子が私に黙っていたのはおかしいからだ。

 それから、楽天のサイトの購入履歴も見てみた。その中にも、幼稚園の先生が着るようなキャラクターの他のエプロンと、見たことの無い水玉のマフラーがあった。
 
 私は泣きながら姉に電話をした。姉は激怒した。

「あんたが問い詰められないなら、私がやってあげる! 今からS子を呼び出して白状させるからね!」

 そしてその夜、本当に姉はS子を呼び出し白状させた。

 私は息子と家に居て、同席しなかった。
 姉の話によれば、S子はなかなか白状せず、2時間もかかったのだという。
 そして、S子は何度も頭を下げて、私に一生かけて償うと言ったそうだ。
 だが、姉が見たところ、彼女は泣いているふりをしていて、全然涙が出ていなかったらしい。

「相当の女だ! 一生かけて償うって、どうやって償うつもりなのか! 口先だけに決まってる! 絶対に示談金を請求した方が良い!」と姉は憤慨していた。


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主な登場人物

(年齢等は2019年6月時点)


・N子(主人公であり、著者) 
 47歳の主婦。結婚15年目。
 実家が営む日本料理店でパートタイマーとして働く。
 背が高く、ツンとすましているように見られがちだが、おしゃべりでおっちょこちょい。
 20年近くパニック障害を患っているが、理解ある夫と可愛い息子に囲まれ、念願の一軒家にも住み、悪くない人生を送っていると思っている。

・K男
 N子の夫。N子より三歳年下の44歳。
 父親が経営する塗装業の会社に勤務。離婚歴があり、前妻との間に娘がいる。
 背が低く、ぽっちゃり型。細いタレ目でいつもメガネをかけている。
 街づくりに積極的に参加し、器用で知恵や行動力もあり、人に頼られると張り切る性格。 

・A子
 N子のママ友。 五年前に夫を心不全で亡くす。
 中肉中背。美人ではないが、女子力が高く、色気があるタイプ。
 夫を亡くして他の保育園に移った後も、N子を含むママ友達と交流が続く。
 2年前に50キロほど離れた自分の地元に引っ越す。

・S子
 N子のママ友であるとともに、N子の息子が通った幼稚園の副園長。
 小柄で細身だが、丸顔で、笑うと両頬に出るえくぼが可愛い。
 N子とは、小学校でも息子同士が同じクラスで、関係が深く、仲が良い。

・S子の夫
 婿養子。寺の副住職。背が高く体重もあり、体格が良い。
 K男に家のリフォームを頼むなど、N子やK男と家族ぐるみで仲が良い。



登場人物相関図

(年齢等は2019年6月時点)

相関図(note)


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