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夫の急死、それは地獄へのほんの序章に過ぎなかった。想像を絶する『不倫の真実』との闘いが始まった。Vol.4

 夫が数年前に脳溢血で急死しました。
 そして、夫に関する驚くような出来事が次々と明らかになりました。
 その事について、これから少しずつ投稿していこうと思います。

 これからお話しする事は全て、私の身に実際に起きた事です。
 私が自分に都合の良いように解釈していることや、記憶違いや勘違いもあるかも知れませんが、全て私の中での真実です。

 同じような経験をして苦しんでいる方に読んでいただいて、少しでも与えられる物や、何かの慰めになればと思っています。
 それ以外の方にも、「愛」や「結婚」、あるいは「不倫」というものが、どういうものなのかを考える機会にしていただけたら幸いです。

 ちなみに、全体のお話は『夫が死んでも、許せない。』(田代信子著)でAmazonで出版しています。
 全体を先に知りたいと思ってくださった方は、ぜひご覧ください。



第2章 発覚 1.手紙


 夫が死んでから3週間ほどが過ぎた。

 私は実家が経営する日本料理店で働いていたが、ずっと仕事を休んで家に居た。
 時折、夫の死を知った人が香典を持って訪れたりしていた。

 何かしていないと落ち着かない気持ちだったので、夫のパソコンが置いてあるデスクの周りを整理していた。
 すると、ある引出しから小さな封筒に入った手紙を見つけた。

 それを読んで、私は驚愕した。



K男へ

 いつもお仕事頑張ってるK男。

 あなたの体が心配だわ。

 いつもそばに居てあげられなくてごめんね。

 耳かきしてあげられなくてごめんね。

 離れていても、いつもあなたの事を思ってるわ。

 会えなくても我慢するけど、どうしても会いたくなったら会いに行くわ。

 ヤックルに乗って……



—— これは一体なんなのだろう…… 

 名前は書かれていない。この内容からして特別な関係に違いなかった。
 生々しい内容に心臓がドキドキした。夫は耳かきをしてもらうのが大好きだったからだ。
 その時、ハッとした。

—— この内容。そして、このディズニーのリトルマーメイドの便箋。この字も何だか見覚えがあるような……

 その時、ある女性の顔が頭に浮かんだ。
 それは、息子の幼稚園時代からのママ友で、5年程前に夫を亡くしたA子の顔だった。
 夫が運ばれた病院に度々訪れ、私を励ましてくれたり励ましのメールを送ってくれたあのママ友だ。

—— そういえば、年賀状!

 震える手でもらった年賀状の束をめくると、A子からのそれがあった。
 宛名の所に夫と私と息子の名が並んでいて、『K男様』の字と、手紙の字がそっくりだった。

—— 彼女に間違いない! やっぱり彼女なのだ!

 それにしても、『ヤックル』とはいったい何だろうと思い、ネットで検索してみた。
『ヤックル』とは、ジブリ映画『もののけ姫』に登場する、主人公のアシタカという青年が乗っているカモシカのような動物の名前だった。

 心臓がドキドキし、体が震え、涙が溢れ、どうしたら良いかわからなくなった。

 そうこうしていると、児童館に行っている息子を迎えに行かなければならない時間になった。
 わけが分からないまま、児童館に向かった。
 車のハンドルを握る手が震え、涙で前が見えなくなりそうだった。

 児童館で会ったママ友に色々話しかけられたが、うわの空でまともに返事が出来なかった。
 そのママ友は少し怪訝な顔をしていたが、それどころではなかった。
 何も出来そうになかったので、息子の夕飯用にハンバーガーを買って帰った。

 家に帰ると、息子は大喜びでハンバーガーを食べていたが、私は体の震えが止まらず、涙が出そうになり、それを息子に気取られまいと必死だった。

 いてもたっても居られず、A子にラインメールで訊いてみることにした。

—— A子じゃないかも知れない。何かの勘違いかも知れない。あるいはA子だとしても、何かのおふざけか、彼女の妄想とか…… 

 そうであって欲しいと、祈るような気持ちだった。

 私はまず、その手紙を画像で撮り、A子に送ってからメールをした。

「この手紙を書いたのはあなたですか?」

 すぐに既読になったが、しばらく返事が来なかった。そして十五分後に返事が来た。

「N子さん、私が書きました。」

—— やっぱりそうなのか……

 絶望的な気持ちになった。

「いつからですか?」

「子供達が幼稚園の年中組の秋頃から、私が地元に引っ越したあたりまでです。」

 めまいがした。子供達が年中組の秋頃といったら4年程前だ。
 そんなに前からそんな事があったとは、全く気が付いていなかった。

「詳しい話を聞きたいので、明日そっちに行っても良いですか?」

「明日は仕事がお休みなので、私がそちらに行きます」
 
 もう何も考えられなかった。とにかく明日、A子から話を聞くしかないと思った。

 その夜はやはり眠れなかった。

—— 神様は私から夫との思い出までも奪うつもりなのか。これは何かの罰なのだろうか……

 よく眠れないまま翌朝を迎えた。
 A子は午後から来る事になっていたが、相変わらず食欲は無いし、体調も悪いので、午前中はベッドに横になって過ごした。

 午後になると、A子がよく見慣れた車に乗って家にやって来た。
 彼女が車から降りる姿を窓から見ているだけで、涙が溢れて前が見えなくなった。

 私は玄関でA子を「どうぞ」と言って招き入れた。やっと絞り出した一言だった。

 リビングルームに案内して、丸い座卓に彼女と向かい合わせに座った。
 今まで、どれだけこの丸いテーブルを囲んで、A子を含むママ達と一緒におしゃべりを楽しんだだろう。
 この同じテーブルでこんな話をしようとは、夢にも思わなかった。

 私はジーパンにTシャツで、ノーメイクで、おまけに何度も涙を流して目を腫らしていた。
 だが、A子はバッチリメイクで、きれいなワンピースを着て、とても生き生きとしているように見えた。

 私はしばらく涙が止まらず、彼女の前でおいおいと泣いていた。
 彼女は小さな声で何度か『ごめんね』と言いながら、私が泣き終わるのを待っていた。
 私は泣き終わると口を開いた。

「こんな事が分かった以上、訳が分からずモヤモヤした気持ちではいられない。正直に洗いざらい話してもらいたい。全部真実が知りたい」

「分かった。全部正直に話すね。何でも訊いて」

 A子の話によれば、子供達が年中組の秋頃、我が家で夫と度々顔を合わせるようになってから、夫のことが気になり始めたという。
 それは約四年前のことで、A子の夫が亡くなってから1年も経っていなかったはずだ。A子の夫はその前の年の冬に亡くなっていた。

 A子の夫が亡くなった後、彼女の子供2人は同じ市内の別の保育園に移った。
 ひとり親世帯の場合、幼稚園より保育園の方が時間的にも金銭的にも都合が良いからだ。

 彼女の夫が亡くなった後、しばらくの間はママ友達で集まらずにいた。
 皆がショックを受けて、そんな気分ではなかったからだ。
だが、半年ほど経ってから、ある事でまた我が家で集まるようになっていた。

 きっかけを作ったのは夫だった。
 夫から、青年会議所の灯りのイベントで飾る灯りを、ママ達で手作りしてはどうかと提案されたのである。

 ママ友達に話をしたら、皆が面白そうだと快諾してくれた。
 私も、皆と作品を作ることは面白そうだと思った。
 それに、A子のことが頭に浮かんでいた。

 当時、A子は自分の夫が亡くなった事で、私を含むママ友達は集まることを遠慮しているように見えた。
 でも、A子もこの集まりに誘い、皆で作品作りに没頭すれば、自然に楽しくやれるのではないかと思ったのだ。

 だが、結局はそれが仇となってしまった。

 普通、平日の昼間に家でママ友達が集まっても、彼女達がその家の主人と顔を合わせることはあまり無いだろう。その家の主人は仕事で外に出ている場合が多いからだ。

 だが、私の夫は違った。
 夫の父親は自営で塗装業をやっていて、夫も一緒に働いていた。主な仕事はもちろん塗装をすることだった。
 だが、夫は美術大学を出ていて、看板などのデザインを頼まれると、自宅のパソコンを使って自己流でやっていた。
 それが好評で、数年前から、看板に限らず、会社のパンフレットやイベントのチラシなど、様々なデザインの仕事を請け負っていた。
 そのため、自宅のパソコンで作業をすることも多く、比較的、家にいることが多くなっていたのだ。

 夫は元々、女性達とすぐに仲良くなるタイプだった。
 ママ友達が我が家で作業をしている間も、灯り作りについてアドバイスをしたり、一緒におしゃべりをしたりしていた。

 そうして、A子は夫と顔を合わせるようになり、夫の事が気になり始めたそうだ。
 そして、夫が青年会議所での活動を載せるためにフェイスブックをしていることを知ると、フェイスブックの機能を使って、夫に個人的にメッセージを送るようになったそうだ。

 私も二人がフェイスブックでやり取りをしている事を知っていたが、夫が他にもたくさんの人と繋がっていたので特に気にしていなかった。

 そして、A子はある日、「あなたの事が気になって仕方がないのですが…」というメッセージを夫に送ったそうだ。

 夫からはしばらく返事が無かったらしい。
 だが、数日後、「絶対に妻にも周りにもバレないようにするという条件なら、付き合っても良い」という返事が返ってきたそうだ。

—— 頻繁に会っているママ友の夫を誘うとは、一体どういう神経なのだろう。

 夫もしばらくの間、迷ってはいたが、結局、誘惑に勝てなかったという事なのか。
 信じられない気持ちだった。

 そして、どのような付き合いをしていたのか尋ねた。

「月に1、2回位かな。子供達が寝た後で、ご主人に家に来てもらって…… 一緒にお酒を飲んだりとか……」

 わざわざ訊くまでもなかったが、肉体関係があった事は言うまでもないだろう。
 A子によれば、夫からA子に連絡が来ることはほとんど無く、いつもA子から会いたいと誘って、会っていたという。

 そんな関係が1年ほど続いたが、A子に他に好きな人が出来たという。
 それから夫とは男友達となり、今度は、新しく好きになった人の相談を夫にしていたのだそうだ。 

—— はぁ⁉︎

 急に馬鹿馬鹿しくなった。

—— 目の前にいる友人の夫に手を出しておいて! 1年後に別に好きな人が出来たから、今度は男友達として夫には相談相手になってもらってた⁉︎ いったい何なんだこの女は! 頭がおかしいのか。

 夫も夫だ。妻を裏切った上に、関係を持っていた女の次の恋愛の相談に乗っていたのだ。
 A子を都合の良いセックスフレンドだと割り切っていたとしても、馬鹿じゃないのかと思った。

 夫に最後に会ったのは、亡くなる1ヶ月程前だったという。
 A子が見たいテレビ番組があって録画したかったのだが、テレビとレコーダーを上手く接続出来なかったので、夫に家に来て接続をしてもらったそうだ。

—— はぁ⁉︎ そんな事で人の夫をわざわざ呼ぶなよ!

 我が家からA子の家までは、車で1時間半はかかる距離だった。次に付き合っている男になぜ頼まなかったのだろうかと思った。
 どうせまた不倫でもしていて、気軽に頼めないような関係だったんじゃないだろうか。
 それにしても、そんな所まで夫がわざわざ行って、テレビの接続だけで済んだはずがない。その後、お楽しみの時間があったはずだと思った。

「旦那さんと内緒で連絡取っててごめんね。旦那さんは私の事、可哀想だと思ってただけかもね。私もN子さんの事が羨ましかったのかも知れない」

—— 何なんだ! A子も夫も! 馬鹿じゃないのか!

 呆気にとられていた。力が抜けて、もう何も言う気が無くなった。
 何も言わなくなった私の態度を見て、A子は自分が許されたと思ったのか、態度を変え始めた。

「そういえば、夫が無くなると色々と大変でしょ? 役所の手続きとか。何か分からない事があったら、私に何でも聞いて。私に出来る事があれば何でもするから」

—— この女はいったい何を言っているんだろう。人に何かして欲しい事があったとしても、お前にだけは絶対に頼まない。

 共に夫を亡くした者どうし、あるいは同じ男を愛した者どうし、気持ちが通っているとでも思ったのだろうか。
 ある国の国王の第1夫人と第2夫人の和解の場面でもあるまいし…… とますます馬鹿馬鹿しくなった。
 A子がなかなか帰る様子がないので、私はうんざりして言った。

「もう分かったから、帰っても良いよ。もう会う事は無いと思うけど、じゃあね」

「えっ⁉︎ あっ、そうか。そうだよね……」とA子は意外そうな顔をした。

—— はぁ⁉︎ 今まで通り友達でいられるとでも思っていたのか! 普通にママ友達とも、これからも集まるつもりでいたのか!

 あまりに呆れて、何も言い返さなかった。

 最後に夫にお線香をあげてから帰りたいと言うので、もうどうでもいいやという気持ちになり、A子を祭壇に案内した。

 チーンと、彼女が鈴を鳴らす音が響いた。

 葬儀場に飾った数枚の家族写真がそのまま仏壇のある部屋に飾ってあり、それを見て彼女が言った。

「この写真、お葬式の時にも見たけど、どれも本当に良い写真だよね! 素敵なご家族だったよ!」

—— その思い出も全てぶち壊したのはお前だろ!

「二人で旦那さんの分まで長生きしようね。旦那さんは本当に素敵な人だったよね。イベントを色々やったりして、たくさんの人を幸せにしたよね」

—— お前のことも、さぞかし幸せにしたんだろうね!

 そう言い返してやりたかったが、言わなかった。

 玄関のところで、A子は私に「最後にハグして良い?」と言った。

「それは、ちょっと……」と私が言ったが、

「お願い!」と言って、A子は手を広げてきた。

「本当に嫌だから……」

—— 本物の馬鹿なのだろうか…… ハグをしたら友達に戻れるとでも思っているのか。

 A子は口を少し尖らせて、肩をすくめるような仕草をした。
 そして、「じゃあね!」と言って、キラキラした笑顔を見せて帰って行った。 

 私はその後、しばらくベッドに入って寝込んでしまった。

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主な登場人物

(年齢等は2019年6月時点)


・N子(主人公であり、著者) 
 47歳の主婦。結婚15年目。
 実家が営む日本料理店でパートタイマーとして働く。
 背が高く、ツンとすましているように見られがちだが、おしゃべりでおっちょこちょい。
 20年近くパニック障害を患っているが、理解ある夫と可愛い息子に囲まれ、念願の一軒家にも住み、悪くない人生を送っていると思っている。

・K男
 N子の夫。N子より三歳年下の44歳。
 父親が経営する塗装業の会社に勤務。離婚歴があり、前妻との間に娘がいる。
 背が低く、ぽっちゃり型。細いタレ目でいつもメガネをかけている。
 街づくりに積極的に参加し、器用で知恵や行動力もあり、人に頼られると張り切る性格。 

・A子
 N子のママ友。 五年前に夫を心不全で亡くす。
 中肉中背。美人ではないが、女子力が高く、色気があるタイプ。
 夫を亡くして他の保育園に移った後も、N子を含むママ友達と交流が続く。
 2年前に50キロほど離れた自分の地元に引っ越す。

・S子
 N子のママ友であるとともに、N子の息子が通った幼稚園の副園長。
 小柄で細身だが、丸顔で、笑うと両頬に出るえくぼが可愛い。
 N子とは、小学校でも息子同士が同じクラスで、関係が深く、仲が良い。

・S子の夫
 婿養子。寺の副住職。背が高く体重もあり、体格が良い。
 K男に家のリフォームを頼むなど、N子やK男と家族ぐるみで仲が良い。



登場人物相関図

(年齢等は2019年6月時点)

相関図(note)


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