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ジャケット【日々のこと】

先日、初めてジャケットという物を買った。
職業柄、スーツすらあまり着たことがなく、畏まった服が苦手な私。何かを羽織るという感覚も乏しいので、店先でジャケットを手にしたことさえ過去にほとんどありませんでした。

しかし秋前、少し服装を気にした方が良い会食がありまして途方に暮れる。双方の話し合いであまり畏まらないようにしましょうと取り決めはしたものの、相手の出方が解らないので、フォーマルとカジュアルの境目を狙わねばならないというファッションに疎い私としては、ものすごく難易度の高い服選びをしなければならない状況に陥りました。

ひとまずは持ち服で、妻を相手にファッションショー。
当初「何着ても、大丈夫だよー」と楽観的に応えていた妻の顔が曇る。
パターン①、パターン②、ちょっとカジュアルすぎるけどパターン③。
曇る、曇る、ドン曇り…
「パターン①のパンツ変えたら変わる?」
「パターン②でシャツはインしないとダメだよね?」
色々聞いて、色々試すが、一向に晴れない。
私の目から雨が降りそう・・・

「なんかしっくりこないね…、やっぱり昔とは違うのかなぁ。」

私の妻は、私を過大評価してくれる。いつもいつも、3割増しで褒め称えてくれている。そんな妻が、言葉を選んで言葉を出せずに私が老けたと言っている。3割増しで見て老けたなんて、実際はどうなっているんだ。
しばらくの間、妻に背を向けて大雨。

独りで姿見のある部屋へ行き、初めて妻から真っ当な評価を下された男を眺める。太ってはいない、ちゃんと痩せてる。でも、痩せ方が昔と違う、フォルムが全然違う。重力に負けた体を重力に負けた顔の男が、重力に逆らった方向に口角を上げて、でも重力の方向に下がった目尻で眺めてる。
そんな目尻から豪雨。そして夕立の如く切替える。

とにかく、持ち服では対処できない。
とはいえ、一式揃えるほど今後の機会も見込めないので、パターン②にジャケットで体型隠して済まそうと。
というわけでの買い物、店先で初めてジャケットを羽織る。これまでの悩みが嘘のように消えてなくなる。ジャケットの意義と有難みをこの歳にして初めて噛み締める。

お手頃かつシンプルなものを購入しての帰り道、ジャケットを羽織った若者を見て思う。
”君の方が似合ってるが、私の方が見合ってる。”

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