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人の好みはそれぞれです【夫婦のこと】

金曜の夜、妻がレーズンパンを持って帰ってきた。ミニ食パンサイズで5枚くらいに切られていたでしょうか。昼ご飯に買ったものの余りだそうです。

「ご飯前だけど小腹が空いたからコレ1枚食べるね。」
と言いながら一番端のレーズンパンを手に取る妻。俗に言うパンの耳という部分です。ミニ一斤の両端の片割れなので反面が全て耳のアレです。

「ゴメン、ひとかけでいいから味見させてくれる?」
珍しくほんの少しだけ食べたくなった私がお願いする。
「えっ、珍しいねぇー。せっかくだから真ん中の柔らかい方をちぎってあげるよ。私も仕方がないから食べるのはその残りにしとく。」
妻が端のパンから真ん中の1枚に取り替えて言う。晩ご飯前にて1枚しか食べない。美味しい部分に替えて分けてくれようとする優しい妻。なのに妙な違和感を感じてしまう私。

「ねぇ、それってホントに僕のため?パンの耳を残したかったんじゃない?」
「ちっ、違うよ。本当に美味しい部分をあげようと思ったもん。耳、好きじゃないでしょ。白いところの方がいいだろうと思って替えただけだよ。」
いつになく真顔の妻が可笑しい。これは絶対におかしい。もっとリラックスして否定してほしい。ともすれば鼻がヒクヒクしているようにすら見える。妻は大のパンの耳好き。見れば見るほどに図星くさい。

「いや、やっぱりおかしい。確かに耳より白いところの方が好きだから有難いけど言い方が気になるわー。本当は耳を全部食べたかったんでしょ?レーズンパンはよくても耳だけはひとかけもあげたくなかったんでしょ?それなのに、さも僕のためのような言い方にすり替えたよね?パンの耳は全部食べてくれていいから正直に言ってみ。」
「だってさぁー、見てよ、耳、こんだけしかないんだよ。ただでさえ少ないのに食べたいじゃん。それに耳好きじゃないでしょ。いいじゃん、そういうとこに気がつかなくても。美味しい白いところをあげるって言ってるんだから、わざわざ見透かさなくてもいいじゃん。何もあげないよー。」

妻の言う通りです。
素直に優しさだけを受け取って美味しく食べておけばいいんです。なのに我慢が出来ない。妻も自覚していない隠し事をわざわざ暴いてはしたり顔をしてしまう私の性格の悪さです…

ソファーで二人ならんでレーズンパンを頬張る夫婦。
「このレーズンパン、凄く美味しいでしょ!」
と先ほどのやり取りを気にした様子もなく、妻が笑顔で私に聞く。
私の妻はパン好きで耳好きの物好きです。

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