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美味しい食事・抗うつ薬・アンド・ロックンロール

いわゆる「人間の三大欲求」というものが広く知られている。食欲・睡眠欲・性欲。何となく、そういうものなんだ、と特に疑いもしないまま受け入れてきた用語だったけど、実はこれは学説として確立されている概念ではなく、科学的な根拠も何もない、日本だけで言われている「俗説」に近いものらしい。50歳もとっくに過ぎたつい最近になってこれを知って、ああなるほど、確かにそりゃそうだよな、と思ったのだった。食事と睡眠は1週間も欠かしてしまえば人間として相当危険な状態になるが、最後のやつはどうだ。もちろん個人差が大きいだろうけど、少なくとも今の自分にとっては何年欠乏しようが生命の存続に影響するとは到底思えない。最近はアセクシャルという性質を持った人たちの存在も広く知られるようになって、「三大欲求」なんて言ってしまうとそれを否定することになってしまう。こうやって、あまり深く考えずに鵜呑みにしている無根拠な通説はまだまだ自分の脳内にたくさんあるんだろうな、と反省させられた。

自分が子供の頃から愛してきたロックという音楽は、生まれたての頃は「反体制の象徴」と呼ばれてきた。古くさい秩序を押し付ける大人やエスタブリッシュメントに反抗する若者の音楽。50年以上も昔の話である。21世紀にもなると、ロックは「親世代に押し付けられて若者に嫌がられる」ものにまで変質してしまった。ずいぶん前だけど、NHKの教育番組で、子供が別にやりたくないロックバンド活動をやるように親から押しつけられて、自分の本当にやりたいことって何だろう……と悩むというテーマのドラマをやってて、ロックって今やこうなのか、と驚いた記憶すらある。ビートルズのメンバーも、当時からのファンも今や高齢者なのだから、仕方がないことだ。それはそうとして、2020年代、新たな世界大戦や環境破壊による人類滅亡の脅威が年々高まっている近年になって、半世紀以上も前に作られたロック名曲の歌詞が、自分にとっては新しく切実な意味を持って響くようになっている。近年のロックが世界の現状に対して訴えるメッセージを持っているのか、自分はあまり聴かないのでよく知らない。もし耳に入ってくればここでも取り上げたいが、知らないのだ。とりあえず、自分はよく知っているものをいつまでも大切に聴き続ける。

何だか、書いているうちに最初考えていた方向からずれてきたようだが、つまりその、反体制バリバリ、違法薬物むしゃむしゃ、逮捕上等でやっていた時代のロックが掲げていたスローガンみたいなものが「セックス・ドラッグ・アンド・ロックンロール」だったわけで、当時のロッカーにとってはこれがリアルな「三大欲求」だったのだろう。そして、小学生時代から数十年にわたってほぼ毎日ロックを聴き続け、何かしら思い続けている自分だって、ロックンロール!って言ったって問題なかろう、自分こそが世界最高にロックである、と書いたって全然いいじゃないか、とけっこう真顔で考えている。既成のロック観からすれば相当に非ロック的な自分ではあるけど、その核にあるものに自分は頭をやられ、全身をやられ、ここまで生きてきた。今後も生き続けるためには、自分こそがロックである、と言い続けなければならない。

まず、先に書いたロックなスローガンは自分からは遠すぎるので書き換えよう。とりあえず、今生きている上で一番の快楽は美味しいものを食べる、これに尽きる。不味い食事を三日も続けたら、もう立ち直れないだろう。違法ドラッグはもちろんやっていないが抗うつ薬は毎朝飲んでいる。抗うつ薬とは早くおさらばしたいが、アンド・ロックンロールの部分だけは死ぬまで不変でありたい。すなわち現状の自分は、美味しい食事・抗うつ薬・アンド・ロックンロール!である。

To be a rock, not to roll.
こんな状態でありながらロールしない不思議なロック。20年前、南インド旅行にて撮影。
「クリシュナのバターボール」と呼ばれる巨岩である。ハレクリシュナ。


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