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敗戦後70年の日本、この〝荒廃〟をもたらした原因はなんだったのでしょうか!?──白井聡 カレル・ヴァン・ウォルフレン『偽りの戦後日本』

『日本/権力構造の謎』『人間を幸福にしない日本というシステム』『アメリカとともに沈みゆく自由世界』等の著作でしられるオランダ人ジャーナリストで政治学者のカレル・ヴァン・ウォルフレンさんと『永続敗戦論』で注目される政治学者の白井聡さんが敗戦後70年の日本の歩みを検証した対談です。

半世紀以上に渡って日本をウォッチしてきたウォルフレンさんの目に今の日本はどのように映っているのでしょうか……。
「日本人が次第に不幸になっているようにも感じます。「格差社会」が進行し、多くの人々の暮らしは年を追うごとに苦しくなっている。かつての高度成長を支えた終身雇用制度は事実上崩壊し、非正規労働者が急増しています。なぜ、こんなことが起きたのか。私は小泉純一郎、竹中平蔵コンビが導入した構造改革、いわゆる新自由主義の弊害だと考えています。そしてこの路線が、安倍政権の進める「アベノミクス」にも踏襲されている」(ウォルフレンさん)のです。

さらに新自由主義は「「見た目」ばかりを重視する」(白井さん)空気をもたらしました。「「現実」がどうであれ、「見た目」に問題がなさそうであれば許されてしまう。検証など敢えて要らない、とする考え方が広がっているのです」(ウォルフレンさん)と。この〝見た目重視〟というものは政治家や官僚たち、経済界だけでありません。なく、あのSTAP細胞騒ぎにも白井さんは言及しています。
「小保方さんの問題は、日本社会がすっかり「中身」を吟味する力を失い、「見た目」に弱くなってしまったことの象徴です。しかも、問題が自然科学の分野で起きたという意味は小さくない(略)日本社会全体の劣化の影響をモロに受けている」ものとして。

この「現実無視」は、一方で、権力者、為政者に自分たちの都合のいい〝現実〟を主張させることにつながっていきます。
「日米関係の揺らぎ」(白井さん)、アメリカの変貌に気づかず対米従属を続ける日本、それは白井さんの言う「永続敗戦状態」を続けるということ、〝戦後レジューム〟を維持することにほかなりません。つまり安倍首相の〝戦後レジューム〟からの脱却は「現実無視」どころか、自己矛盾したものなのです。もちろん「新自由主義にしろ、日本の対米従属の一部」(ウォルフレンさん)であることはいうまでもありません。
もっとも「安倍さんに何かを「理解しろ」というのは酷な要求ですよ。その能力がないのですから」(白井さん)と言っていますが、それは見過ごすことはできないものです。

このような権力者が主張する「積極的平和主義」とはどのようなものなのでしょうか。
「「消極的」の方は、できるだけ戦争をしない、あるいは戦争から距離を置く。そのことによって自国の安全を守るという考え方です。一方で「積極的」なやり方もある。敵を名指しして、武力を用いて攻撃して自国への危険を除去する。こうした姿勢を貫いてきたのがアメリカです。安倍さんが「積極的平和主義」へと転換するというのは、要するに日本をアメリカ的な安全保障のやり方に改めることを意味している。そのためには、戦争に強い国でなければなりません」(白井さん)
これが過不足ないところではないでしょうか。

「安倍さんは自らを「愛国者」だとアピールしていますが、実際には全く違います。彼らは単なるナショナリストに過ぎません。(略)愛国者は純粋に「国を愛する人」を意味している。一方、ナショナリストは「自分の国が他国より優れていると
考える人」のことを指す。ナショナリズムはイデオロギーですが、愛国心はそうではない」「自分の国を愛することは大切で、別に他国を傷つけるものではない。問題はナショナリズムであって、安倍さんはまさにこの「ナショナリスト」なわけです。(ウォルフレンさん)
「今の日本の状況を見ていて私が心配するのは、ポピュリズムの台頭です。将来への漠然とした不安が高まっているというのに、政治が答えを見出せていない。これはポピュリズムにはもってこいの状態です」(ウォルフレンさん)

効率重視の「新自由主義」に支えられ、ひた走る歪んだ日本。
「『効率』よりも、目標を達成するための『効果』が重要」(ウォルフレンさん)であった日本はもうなくなってしまったのでしょうか……。

この本でのお二人の対談のトーンは少しも明るいものではありません。
「国民が〝仕方がない〟と諦めてしまう時代に逆戻りしてしまった」(白井さん)
そして「疲れてしまいました」と漏らしているウォルフレンさんの心にあるものはどのようなものなのでしょうか……。白井さんが言っているように「公正な精神」で日本を語り続けてきたウォルフレンさんの「この言葉には重いもの」を感じてしまいます。
「現実」を見極めるためにも、吹き荒れている「反知性主義」に陥ることなく、私たちはお二人があぶり出した「問題の根源を見据えて」(白井さん)一つ一つ考え、解決し、進まなければならないのではないでしょうか。そんなことを考えさせてくれる一冊でした。

書誌:
書 名 偽りの戦後日本
著 者 白井聡 カレル・ヴァン・ウォルフレン
出版社 KADOKAWA/角川学芸出版
初 版 2015年4月25日
レビュアー近況:先程、お打ち合わせが新宿でありましたが、音羽から電車に乗って出向くだけで汗だく。ふくほんレビュアーの堀田純司センセイは、何時もの通り中央総武線数駅を自転車ですっ飛ばしてお越しになられました。どうぞ道路交通に加え熱中症にもお気を付けの帰路を。

[初出]講談社BOOK倶楽部|BOOK CAFE「ふくほん(福本)」2015.07.14
http://cafe.bookclub.kodansha.co.jp/fukuhon/?p=3751

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