格差大国・日本の国家百年の大計を考えるために──眞淳平『地図で読む「国際関係」入門』
眞さんが言うように「現在の国際関係を構成する(略)基礎情報を提供することを目的に書かれています。そこでは、関連地図も多数紹介していきます。国際情勢・国際関係においては、地図を見ることがその理解を促すことが多いからです」
と紹介された数多くの図説……。
「不安定な孤」という「これは、パワーバランスの変化や、政府が強い統治能力を持たない国家の存在などによって、紛争や戦争の起きやすい地域のこと。具体的には、アフリカや北東部から中東、南アジア、東南アジアを経由し、朝鮮半島にいたる帯状の地域を指しています」の解説から始まり、ISがどのように生まれてきたのか、核兵器保有国の実態まで、多面的な世界像を示してくれます。
けれどもまず知っておかなければならないのは日本の実態です。
「経済規模で世界第三位。人口で世界第一〇位(二〇一三年。国連・中位推計)。防衛予算で世界第七位(二〇一三年。ドル換算)。面積は、世界全体の三分の一より少し上の第六〇位(デンマーク領グリーンランドを入れると六一位)ですが、領土と領海に、広大な排他的経済水域を加えた面積は、なんと世界第六位」
という眞さんの一文が巻末近くに記されています。
まずは正確な 日本認識を持ってからこの本を読まれるといいと思います。
そしてこの日本が先の「不安定な孤」のすぐ東に隣接しています。そこに位置する日本にある米軍基地の状況も図示しています。沖縄では「本島の約18.4パーセントを占める」米軍基地が集中して存在している様子が一目で分かります。この異常なさまをどのように解決していくのかは喫緊の問題です。
また、一方でアメリカの「米軍のプレゼンスが減少した地域では、同盟国や友好国になどにその地域の安全保障を一部肩代わりしていもらおうという「オフショア・バランシング」と呼ばれる戦略」によって、「日米防衛協力の範囲」が拡大する懸念も眞さんは冷静に指摘しています。
政治・外交問題を冷静に示すことは案外難しいのではないでしょうか。同じ事象であっても解釈の余地がある限り、論者の立ち位置によって違った意味を持たされることも珍しいことではありません。眞さんのこの本ではできる限り一方的な解釈を避け、数字等の事実に語らせたことにあると思います。たとえば大国化し続ける中国での人口動態での落とし穴(急速に進むであろう老齢化)、同じく躍進著しいインドには教育の不備という落とし穴が潜んでいるということなど、ひとつの国に対しても複合的な視点を持ってアプローチしていることが見てとれます。
アメリカの分析にもその視点が見られます。単に経済力、軍事力の分析だけでなく、広がる一方の経済格差、さらには都市と田舎、これは宗教への関心度と結びつくものですが、移民の問題等とアメリカの抱える問題、中東問題という国際的な課題だけでなく、アメリカ国内にどのような課題が潜んでいるのかも明示しています。
中国、ロシア、EU、ブラジル、発展途上国も同様な視点で私たちの前に明示していきます。
そして最後に日本の抱える課題を問いかけてこの本を閉じています。どのような課題が私たちに課せられているのでしょうか。
国際的には東アジアの安定に寄与し、周辺諸国との関係改善を目指すことです。と同時に日本は大きな国内問題を解決しなければならなくなっています。ひとつは超高齢化社会にどのように対していくべきか。さらに大きな課題は格差拡大による「貧困の連鎖」を断ち切ることです。「日本が、先進国の中で格差大国になりつつある」ことからいかに脱却するか。
「収入格差と教育格差の問題は、子どもたちにとっても、社会にとっても、深刻な影響をもたらします」
「国家百年の大計」はここにあるのではないかとあらためて感じさせてくれる一冊でした、多面的な世界のありようを教えてくれるとともに……。
書誌:
書 名 地図で読む「国際関係」入門
著 者 眞淳平
出版社 筑摩書房
初 版 2015年8月10日
レビュアー近況:ふくほんはtwitter(@bookcafefukuhon)やfacebook(www.facebook.com/fukuhon)でも更新情報をお伝えしております。ふくほんfacebookページが700「いいね!」を突破しました。ありがとうございます!
[初出]講談社BOOK倶楽部|BOOK CAFE「ふくほん(福本)」2015.10.05
http://cafe.bookclub.kodansha.co.jp/fukuhon/?p=4230
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