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BBは凄いナチュラルなんだ。ハイテンションにもならず、ダウンもしない人だ──藤田正他『THE DIG Special Edition B・B・キング』

今年89歳でその人生を追えた偉大なミュージシャン、B・B・キングを追悼したMOOKです。どれもこれもB・B・キングへの深い愛情に満ちた文章が集められていますが、宇崎竜童さんがインタビューでこんなことを話しています。B・B・キングのアルバム(!)『GUESS WHO』に触れて

「これで完璧に彼はぼくにとって、ブルースマンのBBじゃなくて、凄いアーティスト、になった。万人に開かれた歌を作る「ブルースの手法を使った歌謡曲を作る人」になった」
「でも多くのブルース愛好家は『ゲス・フー』や「ザ・スリル・イズ・ゴーン」なんかを(略)コマーシャルで、誰にでも分かりやすくて、いくぶん白人に媚びている音楽、という。当時のぼくの気持は「それがどうした!」だった。世界中の人たちの耳をそばだたせた音楽を作ったんですよ。仮にブルースの王道パターンだけで歌ってたら、その後のB・B・キングはなかったはずです」

確かに当時の頑固な(?)ブルースファンからは、「ストリングス入りなんて軟弱だ。やっぱりBBは「スリー・オクロック・ブルース」とか「スイート・シックスティーン」だ」とか「いやいや久々の本格ブルース「ドント・アンサー・ザ・ドア」がサイコーだ」なんて声もありました。
もちろんそれらも名曲・名演であることは間違いありません。
でも「ザ・スリル・イズ・ゴーン」がB・B・キングにもたらしたものは大きかったと思います。
この本の年表を見てみると、B・B・キングの人生のほぼ半分の時点(44歳)でこの「ザ・スリル・イズ・ゴーン」が生まれています。
この曲でのグラミー賞の受賞がブルースという音楽をより広めたこともありますし、この曲があったからこそクルセイダースとの2枚のアルバム『Midnight Bliever』『Take It Home』ができたのだと思います。さらにジョン・ランディス監督、ジェフ・ゴールドブラム、ミッシェル・ファイファー主演の映画『眠れぬ夜のために』の主題歌を歌うことにもなったのだと思います。ジョン・ランディス監督は熱心なB・B・キングのファンだったそうです、なにしろ『ブルース・ブラザーズ』撮った人ですからね。

豊穣でタフなミュージシャン、エンタテイナーであったB・B・キングへの追悼の言葉がこの本に収められています。エリック・クラプトン、キース・リチャード、ミック・ジャガーにオバマ大統領と……。そのなかでもスティービー・ワンダーの言葉がとても心に残ります。
「世界の音楽旗は半旗として掲揚しなくてはならない。世界の中で、真の意味で最高のギタリストであり、ブルースの王が死んだのだから。私は彼を大切に思ってきました。また彼を知り、愛した世界の人も彼のすべての仕事を大切にしてきました。私たちの心が痛みを感じるのなら、私たちは彼の音楽と、演奏スタイルと、その歌が永遠に続くであろうことを祝わなくてはなりません。B・B・キングの魂よ、永年なれ」

この本は来日時の写真をはじめとする演奏シーンのショット、名曲紹介、アルバム選評等を収録したとても充実したMOOKです。先の宇崎さんをはじめ近藤房之助さん一瀬啓永さん、ゴトウゆうぞうさんインタビューに溢れている敬愛の念、どの寄稿文もB・B・キングへの愛情、尊敬、敬愛と心からの皆さんの思いが一杯の一冊です。

もちろん偉大なブルースマンはB・B・キングだけではありません。サン・ハウス、ロバート・ジョンソン、マディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフ、リトル・ウオルター、最後までカントリ・ダンディだったジョン・リー・フッカー等、数え挙げたら切りがありません。
でもこのような追悼の本が作れるのはやはりB・B・キングだからでしょう。
根強いファンはいたけれど、決してメジャーとは言えなかったブルースという音楽世界を大きく私たちの前に広げてくれた〝ブルースの大使〟B・B・キングの功績ははかりしれないものがあると思います。

宇崎さんはB・B・キングのステージを見てこんなことを感じたそうです。
「BBは凄いナチュラルなんだ。ハイテンションにもならず、ダウンもしない人だと、この時に直観しました」
それは収録された初来日時のB・B・キング本人のインタビューでも感じられます。
この本を読むとすぐにでも聞きたくなると思います、彼の声とギターの声を!

若い頃、ビール・ストリーターズでともにバンドを組んでいた、やはりモダン・ブルースのキングの一人ボビー・ブルー・ブランドも2年前に世を去りました。今は、ロスコー・ゴードン、ジョニー・エイス(ロシアン・ルーレットで事故死!)、アール・フォレストと天国でビール・ストリーターズを再結成しているのかもしれません……。
B・B・キングの音楽は彼の死を超えていつまでも聞き継がれて行くに違いありません。
レビュアー近況:中国の抗日戦争勝利70周年パレード、警備には犬、猿、鷹の動物も動員されたそう。雉だったら、鬼にも勝ったかもしれません。

[初出]講談社BOOK倶楽部|BOOK CAFE「ふくほん(福本)」2015.09.03
http://cafe.bookclub.kodansha.co.jp/fukuhon/?p=4008

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