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「言論の自由が、人びとの自由を保証し、前進させる、いちばん根本的な自由になるのです」──橋爪大三郎『面白くて眠れなくなる社会学』

「その昔、社会学の教科書を、ひと通り読みました。私には使えない言葉が並んでいました。そこで、そういう言葉を使うのはやめ、自分で納得した言葉だけを集めて磨き、自分の社会学をいちから築くことにしました」

橋爪さんのこの言葉がジーンと浸みてくる一冊です。
〝言語〟から始まり〝幸福〟で終わる16編の項目、いえ項目というよりテーマが、人間というもの、人間が背負わざるをえない社会というものの不可思議さを浮かび上がれせてくれます。

不可思議さとはたとえばこんなところにうかがえます。
「カースト制には持続可能性があります。なぜ持続的かと言えば、人びとの生活の最低条件をつくりだす力があるからです。奴隷制は、持続可能性がありません。ですから歴史の舞台から消えてしまいました」
もちろん「カースト制の問題点は、差別的であること、そして、社会の変化に柔軟に対応できないことです」という指摘も忘れてはいません。
けれどなぜカースト制が生まれたのか、そこにはアーリア人の侵略がありました。そしてヒンズー教がと深い関わりがあること、カースト制には奴隷制に比べてはるかにましな点があること、このような語りにくいことを、自分の言葉で語ったものはそうはありません。

だからこそ
「北一輝のプランと、占領下でGHQが行なった戦後改革とは、そっくりです。北一輝は、戦後の日本社会のあるべき姿を預言した、すぐれた思想家だということになります」
ということが公正にいえるのではないでしょうか。

納得した言葉で
「人間が社会を生きていくとき誰もがぶつかる問題を、社会学は、残らず正面から受け止めるということです。そうすると、あまり、きれいに法則を取り出せません。そのかわりに、社会を生きる人間の真実のすがたの、いちばん深いところまで考えることができます」
と編まれたこの一冊は、アランの『プロポ』を思わせるところがあります。
強い意志の人であり、社会への問いを忘れずに思索したアランが『幸福論』にいたりついたようにこの本も〝幸福〟についての考察で終わります。
「社会学者は、一段高いところに立たないで、観察する自分と、観察される人びとを、区別しません」
橋爪さんのそんな姿勢にもアランと同じようなものを感じてしまいました。

「より正しい、より進んだ法律を持つ社会は、より自由な社会になります。だから、言論の自由が、人びとの自由を保証し、前進させる、いちばん根本的な自由になるのです」
そしてその下で生き、
「幸福とは、どんな状態かと言うと、自分はこれをやるために生まれてきたんだ、と思えることです。もし思えたら、それはとても充実している状態です。それは、幸福です」
それを求めて
「どうかあなたの、あなただけのひと筋の道を、社会にくっきり描いて生きて下さい」
と結ばれるこの本は滋味あふれる、なんどでも繰りかえし読みたくなるものだと思います。
ところどころにちりばめられたユーモアも感じ取ってください。

書誌:
書 名 面白くて眠れなくなる社会学
著 者 橋爪大三郎
出版社 PHP研究所
初 版 2014年12月4日
レビュアー近況:コパアメリカ、セレソン敗退で大分気が抜けてしまいましたが、久々にキレキレのロビーニョを観れて、嬉しかったです。

[初出]講談社BOOK倶楽部|BOOK CAFE「ふくほん(福本)」2015.06.29
http://cafe.bookclub.kodansha.co.jp/fukuhon/?p=3689

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