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N高等学校が問いかけていること

 創立5年目を迎えようとしているN高等学校ですが、4月から加わる新入生の数が、なんと6,000人に達するという噂です。(ちなみに3月の卒業生は3000人強)

 2016年4月に、1学年およそ2,000人という規模でスタートしたN高等学校は、中途入学者が多くて中途退学者がきわめて少ないという「入超」状態が続くことで、昨年の後半には3学年で1万人を超える規模になり、さらに生徒数を増やし続けています。N高関係者によると、昨年の前半には全国の高校生のうち、300人に1人がN高生という状況になったそうですが、この勢いが続けば、全国の高校生の100人に1人がN高生になるということも絵空事とは言えません。「通信制高校(広域)・単位制」という制度を利用して創られた「未来の学校」が問いかけていることに、全日制普通科からの大学進学を「成功物語」としてきた学校教育のメインストリームの関係者は、しっかり耳を傾ける必要があります。

 N高等学校のことを初めて詳しく聞いたのは、2017年5月に行われた川上量生さんによる「ネットの高校N高の取り組みについて」という講演でした。

 当日の私の講演メモには、こんなことが書いてあります。

ネットの高校だから自分がやりたい勉強時間が増える。
そして、将来へつながる多くの経験ができるはず。
親も呼べる文化祭(通信制ではあるけれど)。
通信制学校が落伍者の学校であるというイメージを打破したい。
通っていることを友達にちゃんと言える学校にしたい。

 当時の私は、N高校登場の意味について、十分にわかっていたとは言えません。それでもこうした川上量生さんの言葉に、教育というフィールドにかけるパッションのようなものを感じたものでした。少なくとも、ネットの会社が教育で金儲けをたくらんでいるというレベルの話ではないですし、単なる思いつきでもありません。そんなふうに思った当時の私の直感は、どうやら間違っていなかったと言えます。

 その後、昨年の春あたりから代々木キャンパス、福岡キャンパス、御茶ノ水キャンパスに実際に足を運んで通学クラスの生徒たちの様子を見ました。そこでスタッフの方々の話を聞き、上木原孝伸副校長からN高校にかける熱い想いを聞きました。そして、これはもはや、日本の近代教育の150年近くの歴史の中でも、最も大きな地殻変動なのではないかと考えるようになりました。

 通信制高校の枠組みを利用してつくられた「未来の学校」というのが、N高校の基本的なコンセプトです。どうしても学校が始まる時間に起きることができなかった高校生も、午前11時にベッドから抜け出して端末に向かい、1〜2時間の課題をこなせば、学習指導要領に定められた最低限の学習を済ませ、高校を卒業することができます。課題を済ませれば、残りの時間は自由です。やりたいことをやりたいだけやることができます。

 たとえば、プログラミング、ダンス、eスポーツ、受験勉強、作曲、昆虫の研究、アニメ制作、将棋、フィギュアスケート・・・ etc.

 自分のペースで、やりたいだけ。
 一流の専門家の指導を受けながら、思う存分。
 何を学んでも、どんなふうに遊んでも、自由。
 ベンチャー企業で働いたり、NPO法人で活動したり。
 起業することだって可能。

 横並びの一斉授業で、何かと抑圧的な学校教育に適応できない高校生にとっては、福音とも言える学校です。

 通学圏内に自分に合った県立高校が見当たらない過疎地域の中学生にとっても、きわめて魅力的な選択肢になりつつあります。

 多数のキャンパスをかかえ、ウェブ空間で急速に広がっているN高校の全貌を知ることは容易ではないですが、「知らなかった」「面白そう」と思った方は、1年以上前、まだ全校生徒数が1万人に達していなかった頃のものですが、上木原孝伸副校長によるiTeacher's TVのプレゼン動画(前・後編)をまずはぜひご覧ください。

 全国の高校生の大半がN高生になるということはあり得ないでしょうし、全日制普通科の進学校が多数派を占める状況はそうそう変わらないでしょうけれど、今までとはまったく異なる「成功物語」が始まっていることは確かです。


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