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ティダアパアパ〜インドネシア忘備録①〜

未知の国

 2018年3月23日、0時を少し回ったくらい。わたしは、離陸前の飛行機の窓から見える空港の光を眺めていた。窓の外を見ながらも、未知の国への出発に怯えと期待でそわそわと手を組んだり、ほどいたり、隣の人の顔を盗み見たり。持ち前の落ち着きのなさを発揮していた。NH871便は、インドネシアに向かうANAの直行便だ。今では考えられないことだが、見知らぬ異国の地に行くのだから直行便でなければ不安だった。旅行には慣れていたものの、インドネシアに着くまでは何の不安もなく到着したかったのだ。

 そのころ、イスラム教徒によるテロのニュースが時折話題に出た。Wikipediaによるとインドネシアは世界最大のイスラム国家。ムスリムの女性が頭に巻く「ヒジャブ」を付けていなかったら異教徒扱いされ、迫害を受けるのではないだろうかと杞憂したわたしは、頭に巻けそうな布を鞄に忍ばせていた。日本に住むイスラム教徒の友人が居たので、誰もが過激な思想を持っているわけではないと知っていたが怖かった。無知故の恐怖だ。

甘味大国インドネシア

 早朝、首都であるジャカルタに着くと不思議な匂いがした。外国に行くと感じる、その国独特の匂いだ。ぐぅっと匂いを吸い込むと、気持ちが落ち着く。旅行の開放感が、突然押し寄せ「わたしは自由だ」と、ぼんやりと思った。甘い匂いの元は、タバコ。クローブなどの香料がタバコに含まれているため、甘い匂いがするのだ。それらのタバコは「クレテック」と呼ばれ、吸うとパチパチとした音がし、ふわっと甘い匂副流煙を出す。しかし、その匂いにごまかされてはいけない。パッケージを見ると、日本のタバコの何倍ものニコチンやタールを含んでいるので驚く。

 タバコと同様に、インドネシアの人は甘いものがとにかく好きだ。ほとんど全てのお茶には、砂糖が入っている。一度、「砂糖を入れないで」とカフェで頼み、砂糖抜きのお茶を頼んだものの隣の席に座っていたおじさんが「お茶はこうしたほうが旨いんだ! ほら、こうして……」と、100%の善意でスプーンいっぱいの砂糖をザァッと入れられたことすらある。彼らは、砂糖入りのお茶にさらに砂糖を入れたりするのだ。「うまいだろ!」と、満足げなおじさん。一口飲むと、強烈な甘みが口内に広がった。

 しかし、今ではわたしも砂糖入りの激甘お茶が大好き。辛い食べ物が多く、一年中暑いインドネシアでは、甘いものがとにかく体にやさしく染みる。温かいお茶に、たっぷりの砂糖を入れて、ゆったり椅子に座ると「ティダアパアパ」なんとかなる、という気持ちになってくる。

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