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星に願いを feat.ベルベル人

ふーっと息を宇宙に吐き、「夢が叶った…」とつぶやく。

私は、サハラ砂漠と満天の星空の間にいた。

気温は5℃。風はほとんどなく、真空状態のよう。自分の息だけが聞こえ、呼吸に全神経が集中する。

空には、夥しいほどの星が生きていて、今にも落っこちてきそうだ。

しーん…という音が聞こえてきそうなくらい静寂に包まれていて、視界は星でぎゅうぎゅうで、押しつぶされそうだった。

地平線の上に、星が乗っている。360度、見渡す限りの、星屑。

半球のど真ん中で、味わったことのない圧力を感じ、それと同時に私はからっぽになった。この感覚が初めてだったので、どう言葉にしていいかわからない。でも、たしかに空っぽになったのだ。宇宙に飲み込まれる、とはこういうことか。

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砂漠の奥に来るまで、ラクダに乗ること90分。映画1本分くらいの時間、ずっとラクダに揺られていた。腰まわりに効きそうな乗り心地だった。いいエクササイズになった気がする。そのラクダたちを率いていたのが、ベルベル人。

モロッコに住んでいる人はみんなアラブ人だと思っていたけど、実は国民の3割以上をベルベル人が占めている。アイデンティティに誇りを持って生きている彼らの祖先は、マグレブ地域とサハラ砂漠の先住民族として、長い歴史を紡いできたんだって。何千年と。

彼らはモロッコの公用語であるアラビア語、フランス語、そしてスペイン語と英語に加え、ベルベル語を話すグローバル人材だった。観光客は世界各国から。日本語もちょっとだけ話せた。

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砂嵐が起きることもしょっちゅう。みんな砂から身体を守るために、こうやって布を巻いている。

案内してくれたベルベル人のひとり、名前は難しくて忘れちゃったんだけど、日が沈むとみんなにミントティーを出してくれた。

モロッコではミントティーが有名。とっても甘くて、でも飲んだ後はすっと鼻に風が通る。モロッコに旅行中、朝も昼も夜も、ミントの葉っぱがもりもり茂ったこの飲み物を飲んでいた。

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ベルベル人の彼はとてもフレンドリーだった。星の下で、ベルベル語を教えてくれたり、私は日本語を教えたり。仰向けになると星がよく見えるよ、というアドバイスをもらい、よいしょと腰を下ろした。

だんだん背中がひんやりと冷えていき、地球に体温が吸い込まれていくのを感じた。

深呼吸をすると、肺の中まで星が流れこんできそうだった。

その時、流れ星が空をなぞるようにすぅーっと弧を描いた。

「あっ、流れた!」

思わず声をあげて、目をつむって慌てて手を合わせる。

えーっと、願い事願い事!!うおおお!!

瞼の裏に流れ星の残像を映しながら、願い事をむにゃむにゃと3回つぶやく。つぶやききって空を見た私をベルベル人は横で笑って見ていた。

「こいつ、煩悩の塊だな」と思っていたのかもしれない。

毎日こんな星を見れるなんていいよなぁ、と思いながら、

「もし今流れ星が流れて、願い事ができるなら何を願う?」

と、横にいるベルベル人に聞いてみた。彼はどんなことを言うんだろう。砂漠での流れ星はもう見飽きてるのかもしれない。22歳って言ってたっけ。そんなに私と年は変わらないか。彼女欲しい!とか大学生みたいなこと言うんだろうか。

彼はちょっぴりフランス語訛りの英語で、話し始めた。

「願い事はしないよ。僕たちベルベル人は、明日死んでもいいように今日を生きているから。遠い未来のことは考えない。今を生きるのが、一番大事。願うことはないよ」


えぇ…徳、高すぎん…


「痩せる!痩せる!痩せる!」とつぶやいた自分が、情けなくなってきた。他力本願すぎる。全宇宙の星に今すぐ謝りたいです。すいません。

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ベルベル人は、何千年もずっとここで生きてきた。北極星に向かって何キロも歩いたり、ラクダに乗りながらオアシスを探したり。

砂漠という人が住めるような環境ではないところで、命をつないできたんだ。今日1日を生き抜く。それがDNAに刻まれているように感じた。

今の私には、もう願うことなんてないよ、だなんて言えなかった。

願いたいことは文字通り、星の数ほどあった。

死んだスコットにも会いたい。たぶんあの膨大な星の中に、キラッと瞬くスコットの星があったはず。もっといろんな世界を見たい。運命を狂わせるような言葉や人に出会ってみたい。社会人になって、わくわくしながら働きたい。死ぬまでに、自分が生きてる意味を見つけたい。サクマのいちごみるく食べたい。あのサクサク感がたまらないんだよなぁ。あったかいお風呂にも入りたい。綺麗なものを、綺麗だと言い続けたい。あぁ、でも一番はこれだ、絶対にこの景色を忘れたくない。

さっきまで自分の中がからっぽになったかと思ったら、今度は願い(というか煩悩)で身体は一気に埋め尽くされた。徳を積むのには、時間がかかりそうだ。

でも、どうしても最後に思った「この景色を忘れたくない」という願いは、絶対に叶えたかった。辛いことがあった時は、サハラ砂漠で眺めた星を思い出したい。写真ではなくて、きちんと記憶に焼き付けておきたかった。

その後、流れ星は気まぐれに何回か空をよぎった。

「この景色を、忘れませんように」

と、筆圧が高めの力強い星の尾を見た後、1回だけ言った。

目を閉じてみると、瞼の裏は、星でいっぱいになった。

横にいたベルベル人が、なんて言ったの?と聞いてきたので、英語にして伝えたら、「またサハラに来ればいいよ、星は逃げないから」って言われた。

宇宙にはこんなに星があるのに、見えない場所にいたんだなぁと思わされる。星を見たければ、星が見える場所に行けばいい。シンプルだな。そんなことを、感じた夜だった。

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ベルベル人の人、みんなかっこよすぎる。雑誌の表紙になれそう。

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砂漠のテントで一泊し、翌朝、朝日をあびるラクダたち。

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ラクダもいろんな色の種類がいるらしい。性格も基本的には温厚だけど、私が乗ってたラクダは、一つ前に繋がれているラクダのお尻に何度も噛み付いてました。笑 イライラしてるのかな。ラクダ流コミュニケーションのひとつなのでしょうか。

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星に願いをするとしたら。

あなたなら、何を願いますか?

あなたにとって、明日もいい1日になりますように!

#4本目

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