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⭐️大人のピアノとの向き合い方②〜編曲譜やコード譜、連弾で楽しむ

 本来クラシック作品の楽譜というものは、作曲家からの大切な手紙であり、また、作曲家を大変リスペクトするというクラシック音楽の特性からも、作曲家の書いた楽譜を難しいからと言って勝手に易しく編曲したりアレンジを加えて演奏するということを、クラシックの世界では良しとしていない。
 
 私の教室でもクラシック曲(特にピアノ曲)を発表会で弾く場合、オリジナルの楽譜で無理なく弾ける方には、フランスの作品ならフランスの出版社の楽譜、ドイツの作曲家ならドイツ系の原典版を使う等その作曲家の作品をより良く表現してもらうことをお薦めしている。そうした姿勢はクラシックを勉強する者には大切なことだと私は今も思っている。

 しかし、もう15年以上前になるだろうか。私には生徒さんに投げかけた言葉で今も後悔している言葉がある。
 ご主人を亡くし、しばらく経って私の教室の門を叩いて下さったその生徒さんは、ご自身の生きる姿勢から色々なことを私に教えてくれる尊敬する人生の先輩だった。

 ある日、その方が
「発表会でショパンを弾きたいのですが、今から1年くらい時間をかけたら弾けるでしょうか」と
質問された。そして、その時咄嗟に返した私の返事は次のようなものだった。
「ショパンを弾くには、そこまでの長い道のりがあって、そこをちゃんと歩いて初めて辿り着くのです。1年かけたからといって、途中の道を全部とばして弾けるというものではないです」

 聡明なその方は、私の言葉の意味は直ぐに理解出来ただろう。だが内心とてもガッカリしたと思う。

〝それでは、この方は憧れのショパンを
もしかしたら一生弾けないかもしれないではないか…“
後からそう気づいた。

子どもには長い未来があり、十分な伸びしろもある。けれど、大人は必ずしもそうではない。
〝今“が大切であり、
生徒さんの〝想い“が何より大事なのである。

ピアノ講師として未熟だったあの時の自分が
今も悔やまれてならない。

 現在は、意識して〝選択肢を提示“するようにしている。その際、メリット・デメリットも説明する。
 例えばこうである。
「この曲をオリジナルの楽譜で弾く場合、仕上がりは完全なものにならない可能性はあります。が、この曲を弾けるという夢が実現しますね!易しい編曲楽譜で弾くという選択肢もあります。十分に弾きこなせるでしょう。ただ、音楽性という点では物足りなさも感じるかもしれません。何年後かに、もっと実力をつけてからオリジナルで弾くという手もあります。」
といった具合である。

 大人のピアノは、子どもを指導する場合よりも意識して自己決定の場面を増やすのが良い。

 そのためには、オリジナルだけにこだわるのでなく、日頃からセンスの良い編曲譜を探す努力をしつつ、その人に合った楽譜を相談しながら選びたい。

 また時には、コード譜で伴奏したり、連弾や他楽器とアンサンブルで楽しんだりするのも良いと思う。

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