福井のアイドル、せのしすたぁみかさんと、とある女オタの思い出のようなもの


はじめて会ったとき、みかさんはステージの上で泣いていた。

その日、2015年3月29日は地元福井でのみかさんの生誕ライブの予定のあった日。土日休みの取りづらい業種に就いている私はちょうど転職する合間の休暇でずっと在宅だった現場、それも推しの生誕に初参加できるのを心待ちにしていた。ところが急遽3日前に生誕中止の発表。ライブはみかさんの所属するせのしすたぁの母体グループ、アミーガスの周年記念ライブへと変更になった。みかさんの出演があるのかもわからぬまま、不安と疑問符でいっぱいになった私はそれでも福井へ向かった。

ライブの始まり、壇上に整列したメンバー。 中央にはうつむいた推しの姿。運営の森永さんから告げられた生誕中止の理由はオタクとの繋がりの発覚というものだった。個人的にはアイドルだって誰を好きになっても、どんな人と付き合おうと構わないと思っている。けれど発覚したらどうなるのかわかっていてタブーを犯したこと、アイドルを捨ててもいいやって思ったのだろうことはやっぱり深く悲しかった。

ライブ本編にみかさんの出演はなかった。ライブ中盤で披露された「アイドルなんてなっちゃダメ!ゼッタイ!」はせのしすたぁの持ち曲でアミーガスでは普段やらない曲。皮肉たっぷりな歌詞に現場はやけになったみたいに盛り上がった。

物販も終わり、ライブハウスの出口では本来晴れ着になるはずだった生誕記念Tシャツの受渡しが粛々といった雰囲気で行われていた。言葉少なに挨拶を交わすオタクたちのところへみかさんがこっそり顔を出してくれた。初対面の私のこともみかさんは認知していてくれて、何度も何度も謝りながら泣きじゃくるみかさんにつられて私も泣いた。


みかさんを好きになったきっかけは、みかさんが個人アカウントで自室から配信していたツイキャス。せのしすたぁのことはまおさんのパフォーマンスで知り、みかさんのツイッターも一緒にフォローしていた。ある晩、何気なく見た配信。福井訛りで飼ってる猫だとか見てるドラマだとか何気無い話をするみかさんは写真で見るより5倍くらいかわいく「みかさんかわいい」とツイートしたらすぐにファボがきてちょろいオタクはまんまと釣られた。みかさんは日に日にあざとく自撮りの腕を上げどんどんかわいくなっていった。会いに行くことの叶わない私はただファボる毎日。それでもみかさんのことをツイートすればファボをくれて、弱い在宅のことも忘れないでいてくれた。


ステージに立つみかさんを見られたのは初対面から約半年後の10月。仕事をなんとか抜け出して名古屋の現場まで向かう電車の中であの日着られなかった生誕Tシャツに着替え、普段しない化粧をして会いに行った。推しに会いに行くときが誰に会いに行くよりいちばん、どうにかましな姿でありたいと思う。

対バン相手のファンも味方につけて煽るまおさんに、美しい顔をくしゃくしゃにして楽しそうにはしゃぐゆーたん。メンバーからアイドル担当と言わしめるみかさんはその日もほとんど唯一きちんと振り付け通りに踊り、後ろの観客にもレスを配りアイドルをしていた。みかさんはとびきりの美少女というタイプではなかったし、歌やダンスも特別うまいとはいえなかった。これといった武器があるわけじゃないまさに「ワタシアイドル」の主人公像そのままのような女の子。けれどツイッターのプロフィールに「だれかの大好き、元気、癒しになりたい」と書いていたみかさんはアイドルであろうとする姿勢はメンバー随一だった。ステージで歌い踊る推しほど尊いものはない。みかさんのダンスはちょっと色っぽくコケティッシュで表情の愛らしさに本当に「かわいい、、、」と声に漏らしていたと思う。

注:この日のみかさんは眉毛のメイクが濃いめでいつにも増してかわいかった。


翌年3月、1年越しに見たオレンジ色のサイリウムの波。推しにケチャできるよろこび。初参加の推しの生誕はせのしすたぁらしい楽しさに溢れたステージだった。ライブの最後に演る定番曲「ラストチューン」サビ中ずっとイエッタイガーと叫びながらのモッシュが起こる中、入り乱れるオタクの合間を縫い前に出て、指差しの振りコピをみかさんに向けてするとレスを返してくれた。目線をぴったり合わせてくれるみかさんのレスはいつだって最高。ライブではいつもこの曲でレスをもらいにいくのが好きだった。レスをくれるみかさんのとろけるような笑顔が大好きだった。


2017年2月。卒業発表。みかさんが大学を卒業してちょうど1年。ずっと芸能界でやっていきたいというわけではないんだろうことは知っていた。そんな日が来ることはどこかでずっと想像していて、でもまだ少し先だと思っていた。

みかさんの最後のステージは最後の生誕でもあった。そのいちばん大切な現場に私は行くことができなかった。そんなことは何の意味もないことだけれどその日は生誕Tシャツを着て働いた。

家に着くまで待てずに開いたツイッター。ことさらエモーショナルにならないように楽しそうに振る舞うみかさんと推しへの愛しかないオタクたちに少し笑って、道の端でこらえきれずに少しだけ泣いた。一日中、ぎゅっと潰れたみたいに胸が重苦しかったけれど、好きという思いだけでただひとりの女の子を思って泣くことができるのは悪くないように思えた。

手元に残されたみかさんのチェキはすぐに数えきれてしまうくらいの枚数。振り返るとたったこれだけしか会いに行けなかったんだなと思う一方、一緒に写っている私はどれもどうしようもないくらいの笑顔で、みかさんと出会えてよかったことを証明してくれている気がする。

疑似恋愛をしづらい同性が女性アイドルを好きだというと不思議がられることがあるけれど、女オタが女の子のアイドルを好きになるのは、男性が同性のスポーツ選手のファンになる心理に近いのかもしれないと思ったりする。どちらも対象に今の自分には果たすことのできない「夢」と呼べば聞こえのいい何かを託している。

みかさんはふんわりとした自然体なかわいらしい雰囲気の内側に芯の強さや普通の女の子らしい生身さが透けて見えていて、そのバランスがみかさんを特別な女の子にしていた。みかさんがそのままでかわいくいてくれることは、リア充にもサブカルにもヤンキーにもなれなかった私にとってひとつの希望だった。普通の女の子だったみかさんが約4年の間アイドルでいるという簡単でないことを選択し続けてくれたことがうれしかった。

またどこかでみかさんに会えたとしても、それはもう私が好きなアイドルのみかさんではない。そのことは寂しいけれど、うれしく思いもする。生身のみかさんは福井に暮らす本当に普通の人として幸せにも不幸せにも自由に生きている。無理にアイドルを続けてくれるより、みかさんが今の生活を自らの意思で進んでくれているだろうことが私にとって新しい希望だ。


2018年元日。恒例になりつつあった正月の福井現場へ向かって、気がつくとなぜだか今年も電車に揺られていた。福井の小さなショッピングセンター、アルプラザ・アミ。みかさんがアイドルを始めた場所。去年も一昨年もここでみかさんの生誕アルバム用のチェキを撮ってもらったな。去年ここで会ったのがみかさんに会った最後だった。今年は当然そこにみかさんの姿はない。それでも少しだけ最後に行けなかった気持ちに区切りがついた気がしてこれを書いています。


最後に。みかさんへ。

アイドルになってくれてありがとう。これからもずっと、大好きです。

みかさん推しのオタク、せのしすたぁのオタク、みなさんのおかげで安心して在宅でいられました。あらためてありがとうございました。

※このテキストは2018年4月6日にブログにアップしたものの転載です。
https://lineblog.me/biscotti_2/archives/1058532.html