小田急線小説 持永の恋4
ひろみさん、の本名が本当にひろみさんなのか、
彼女が本当に千葉県の四街道市に住んでいるのか、
半信半疑ではあるが、ココロミルのアプリ内で
やり取りをしている限り、
彼女は感じのよい女性だった。
ひろみさんに行き着くまで、何人かの女性と
アプリ内でやり取りしてみたが、
しばらくすると「違う」「無理」と
やり取りを続ける気にはなれなかった。
もちろんこちらから「いいね!」を押したのに
返事がなかった、ということもたくさんあった。
ココロミルでも10人中7人くらいは
あやしい商売の人なので
……それはメッセージやプロフィールを読めば
すぐにわかる……、あやしくない人はおそらく
競争率が高い。出会い系アプリ内でも
選ぶのは女で選ばれるのは男なのだと実感した。
そんな持永が、せっかく特定の女性とやりとり
できたというのに、「違う」「無理」と
思った具体的な理由は以下である。
まず「こんにちわ」「こんばんわ」と
「わ」を使う人は違うと思った。
細かくて申し訳ないが
「こんにちは」「こんばんは」と「は」を使う人
じゃないと俺は無理だと思った。
そしてその「わ」の人は、年齢はおそらく
そんなに違わないはずだが
ひらがなの使い方がおかしかった。
ときどき、「おやすみぃ」「そゆこと」など、
うちの娘たちが使うような言い方(書き方)を
してきて、持永も最初はあまり気にせずに
「おやすみ」「そだよ」と相手に
合わせてみたのだが、非常に疲れた。
この人とはきっと続かないだろうと思った。
それから海外旅行が趣味、という女性がいて
彼女は持永と会社の場所も近く、
楽しくて賢そうな人だったので
最初はとても好感を持った。しかし
3回目の話題も海外旅行話で、
ほかの話はないのか?気遣いってものはないのかと
ややうんざりした。
持永は月に一度の贅沢として
三軒茶屋のカフェに行くけれど、
それ以外、昼ごはんと夕方の小腹が空いたとき用の
パンは「まいばすけっと」だし、海外は
出張で行ったコロナ前の台湾が最後だ。
生活パターンが違いすぎる人は無理、と悟った。
ココロミル、は写真を添付できるものの、
写真なしでも登録できるアプリだ。
写真なんて加工ばかりでまったく当てにならない
ことがわかったので、持永は写真なしで
相手を探そうと思った。このようなサイトに
自分の写真を添付するなんてあまりに危機管理が
なってない。写真を添付しない人にこそ
理知的な人がいるような気もしてきた。
写真なし、文章は常識的、年齢は持永より少し下。
それが四街道市のひろみさん。
本当は小田急線沿線の、路線は一緒だけど
ちょっと遠い、くらいの人がよかったのだが、
ひろみさんがよさそうと思ったら
もう千葉でも埼玉でも場所は関係なかった。
というわけで・持永は東京駅を上って
新丸ビルの方に向かう道の横にある
ディーンアンドデルーカの前に立っている。
待ち合わせまであと15分ある。
緊張のあまり早く着きすぎてしまった。
持永の家族は持永以外皆女性だが
あの人たちは女性ではなく家族だ。
ある特定の女性と待ち合わせするなんて
何十年ぶりだろう、と持永は思った。
(続く)
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