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20210723 茜色に焼かれる

キネカ大森にて。
以前ユーロスペースでの舞台挨拶を逃してから自分の中で保留になっていた作品。今回は上映後に監督のトークイベントがあるということでようやく観に行くタイミングが掴めた。

■ストーリー
1組の母と息子がいる。7年前、理不尽な交通事故で夫を亡くした母子。母の名前は田中良子。彼女は昔演劇に傾倒しており、お芝居が上手だ。中学生の息子・純平をひとりで育て、夫への賠償金は受け取らず、施設に入院している義父の面倒もみている。経営していたカフェはコロナ禍で破綻。花屋のバイトと夜の仕事の掛け持ちでも家計は苦しく、そのせいで息子はいじめにあっている。数年振りに会った同級生にはふられた。社会的弱者―それがなんだというのだ。そう、この全てが良子の人生を熱くしていくのだからー。はたして、彼女たちが最後の最後まで絶対に手放さなかったものとは?


この作品は"客観的に鑑賞する"というスタイルでかかわることが難しい。
それはたぶん、本人達が自分の置かれた現状に対しての憤りをあまり表に出さないから。演じているから。だから、第三者のこちら側の方が怒りや悲しみ、やりきれなさでじっとしていられない気持ちになる。弁護士とのシーン、同僚のケイとの居酒屋のシーンでは特に。


全体を通じて尾野真千子演じる良子と同僚のケイの関係性がとても印象に残った。

職場の人って仕事だけの関係にもなり得るけど、普通の友達以上にお互いを深く知る関係にもなることができるんだよな。
昔、同じ職場の同期と帰りによく駅で立ち話をしていて、話が尽きないからやっぱりどこかお店に入ろうかってご飯食べて帰ったりしていたことを思い出した。あの時楽しかったなぁ。

今はコロナ感染防止のためランチタイムにみんなで喋ることも無くなったし、仕事帰りにご飯を食べて帰ることもできない。今の生活に慣れすぎて失われたことさえ忘れてしまっていた。また以前のような距離感を取り戻せるのだろうか。


最後のケイの選択。きっと「これからを生きる人に託したい」という彼女なりの前向きな選択でもあったんじゃないかな。
ギブアップしてはいけないなんてことは絶対に言えない。でも、生きる理由がないとか思わないでよと言いたかった。元同僚のことを思い出しながら。


良子はこれからも生き続ける。不恰好だけど彼女は絶対的にかっこいい。息子の順平は思春期真っ只中だけどそんな母親のかっこよさをちゃんとわかっているところがいいね。


重たすぎる雰囲気になってしまいそうな内容でありながらも、尾野真千子の天性の明るさによってどこか軽やかさも感じる。尾野真千子以外に誰が演じられるだろう。
ケイ役の片山友希さんという女優さんはこの作品で初めて出会ったのだけど、かわいらしさと危うさのバランスがケイそのものに見えてとても魅力的だった。パンフレットなどのインタビューでも彼女が本当に一杯一杯になりながら体当たりで演じたのが伝わってきて、今後の活躍がとても楽しみになった。

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