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Freespira -パニック障害/PTSD DTx-

治療用アプリ(DTx, digital therapeutics)開発企業探訪、その①。

企業概略

企業名: Freespira / Palo Alto Health Sciences (米国)
設立: 2013年
URL: https://freespira.com
対象疾患: パニック障害、PTSD
規制当局承認: 2013年 パニック障害 [FDA, K131586]
                        2018年 PTSD [FDA, K180173]

Freespiraは、パニック障害ならびにPTSDに対する治療用アプリを開発する米国の会社です。社名については、おそらくspiraが「螺旋・悪循環」を意味し、パニックや外傷後ストレス障害(PTSD)の症状の悪循環から開放(Free)することを目的に付けられたものと推察します。なお、上記のURLから企業と製品の詳細が書かれているWhite Paperをダウンロード可能であり(登録が必要です)、本記事の参考にもしています。

背景

パニック発作は米国で1年間に2700万人が経験し、PTSDは870万人が罹患しているとされ、特に退役軍人の間で大きな問題となっています。またパニック発作でよく見られる胸痛や呼吸困難といった症状は、緊急性を要する心血管・呼吸器疾患の症状とよく似ています。そのため、発作を起こすたびに救急外来を頻回に受診して様々な検査をせざるをえず、結果的に医療資源・医療経済的にも良くない影響を与えています。

さて、パニック障害やPTSDにおけるパニック発作には、「吸気中の二酸化炭素への過剰な反応(CO2 hypersensitivity)」が関係しうることが示唆されています(一例: Kellner M, et al. J Psychiatr Res. 2018 Jan;96:260-264. PMID: 29128558.)。つまり、パニック障害やPTSDに罹患した方は、罹患していない方と比較して、吸気中のCO2の変化に敏感に反応してしまい、その結果として呼吸回数が不必要に増加→胸痛や呼吸困難といった症状が出てしまう、というものです。

現在のパニック障害やPTSDの治療は、このような呼吸生理やCO2 hypersensitivityを考慮したものにはなっていないことに目をつけ、Freespiraはこの「吸気中の二酸化炭素に対する過剰反応」をアプリと専用のIoT機器を用いて正常化する、具体的には呼気CO2濃度と呼吸数を正常範囲に維持する訓練を繰り返すことで、パニック障害やPTSDにおけるパニック発作を抑えることを目的としています。

治療用アプリの概要

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(図はWhite Paperから抜粋)

DTxの名前は、2013年当初はCanary Breathing Systemという別の名前だったようですが、現在は企業名と同じく"Freespira"となっています。

このDTxは、
 ・呼気終末CO2(ETCO2)濃度センサー
 ・鼻カニューレ
 ・タブレット端末
からなる、モバイルアプリ+IoTデバイス型です。タブレット端末には呼気終末CO2濃度センサーを介して鼻カニューレが接続され、鼻からの呼気終末CO2濃度と呼吸数がタブレット端末にリアルタイムでグラフで表示されます。この呼気終末CO2濃度と呼吸数のグラフをみながら、1日2回、1回17分程度の呼吸セルフトレーニングを28日間行います。またこの期間に、遠隔での対人トレーニングも提供されるようです。

臨床データ

①パニック障害
Meuret, A. E., Wilhelm, F. H., Ritz, T., & Roth, W. T. (2008). Feedback of end-tidal pCO2 as a therapeutic approach for panic disorder. Journal of psychiatric research, 42(7), 560–568. https://doi.org/10.1016/j.jpsychires.2007.06.005

Meuret A.E., Rosenfield D., Hofmann S.G., Suvak, M.K., Roth, W.T. (2009). Changes in respiration mediate changes in fear of bodily sensations in panic disorder. Journal of Psychiatric Research, 43: 634-41

②パニック障害+パニック発作 (最近のデータ)
Tolin, D.F., McGrath, P.B., Hale, L.R. et al. A Multisite Benchmarking Trial of Capnometry Guided Respiratory Intervention for Panic Disorder in Naturalistic Treatment Settings. Appl Psychophysiol Biofeedback 42, 51–58 (2017). https://doi.org/10.1007/s10484-017-9354-4

Kaplan, A., Mannarino, A.P. & Nickell, P.V. Evaluating the Impact of Freespira on Panic Disorder Patients’ Health Outcomes and Healthcare Costs within the Allegheny Health Network. Appl Psychophysiol Biofeedback 45, 175–181 (2020). https://doi.org/10.1007/s10484-020-09465-0

③PTSD
Ostacher MJ, Fischer E, Bowen ER, Lyu J, Robbins DJ, Suppes T. Investigation of a Capnometry Guided Respiratory Intervention in the Treatment of Posttraumatic Stress Disorder. Appl Psychophysiol Biofeedback. 2021 Sep 1. doi: 10.1007/s10484-021-09521-3. PMID: 34468913.

私見

夜間の救急外来などでは、パニック発作を起こして運ばれてくる患者さんはよく見かけ、みなさん顔面蒼白で過呼吸で手がしびれて...といった過換気症候群の様相を呈することが多いと主wれます。これは過呼吸に伴い過剰にCO2が体外に排出されてしまい、動脈血ガス検査をすると血中のCO2分圧が大きく下がっており、pHが上昇する(呼吸性アルカローシス)結果として手足のしびれが生じます。もちろん生命に関わるような疾患の除外は行うのですが、パニック発作/過換気症候群の可能性が高いとなった場合は、声掛け等によって何よりもご本人に落ち着いていただくことが治療となります。ただ非常に忙しい救急外来で、しっかりと時間をとって対応する余裕がある場面は限られており、このようにセルフトレーニングによって発作が抑えられる、そしてその指標として呼気終末CO2(≒血中CO2分圧と相関する)というのはとても画期的かと思います。また、治療期間が28日間であり、飽きがくる前に治療が終了するのも良い点かと思います。既に最初のFDA認可から8年、臨床研究の裏付けを行いながら適応疾患や対象年齢を拡大しており、今後も注目していきます。

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