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胃カメラ

そういえば胃カメラを入れた。お腹の調子が悪いといったら、口からカメラをいれて、胃の中を観察しようとなった。少し思い切りがありすぎて大胆だけど、嫌いじゃない、そういう医者。いいよ、一緒にみよう、私の胃中。

到着すると、検査着を着た人たちが沢山いる待合室に案内された。空港のロビーみたいに、大きなテレビが一つあった。朝の情報番組が流れていて、スプレー塗料を使ったライブペイントをやっていた。向日葵畑を散歩する家族の絵を描いていた。ひまわりは黄色で空は青かった。これなら写真でいいじゃん、とお婆さんが呟く。

すぐに担当の看護師が来て名前と生年月日を確認した。手際がよくて、きっとこの人、私が初めてじゃないんだろうなと思ったし、自分以外の胃も見るんだろうなと思うと、前日の昼から何も食べないで行った自分が期待しすぎてたみたいで嫌だった。

担当の人が問診表に目を通しざっと格好を見て、「うん…そしたら着替えは…いっかな。荷物だけ預かります。」と言った。

たしかにおしゃれには疎いと思う。この日も、ファミマで買った黒いTシャツに、緩いジーンズだから。執着もない。中身だと思うから、どっちかっていうと、人は!でもまさかほぼ検査着と同義の格好してたなんて。まさか、そのまま胃にカメラ突っ込める格好して歩いてたなんて。

ゆったりとした椅子に座って採血や麻酔の準備をする。準備を終え、施術所に連れてかれた。そこには知らない看護師が2人いた。知っている看護師が2人だったら変な感じだったからよかった。もっというと、気の知れた中学の同級生2人とかだったら、すごい変な感じだったと思う。

中学の時に仲よかった同級生が2人いて。部活も帰り道も同じで、三鷹駅の駅ナカのベンチに座って夕方ただ時間を潰した。たべっこ動物をみんなで開けて形から動物を当てたり、菓子パンコーナーでカロリーが一番高いのを誰が買えるか勝負したり、本屋さんでアダルトヤングな雑誌を買って色気話のコーナーをきゃっきゃして読んだりした。ある日、その決まったベンチに「15分以上座らないでください」という案内が出た。そこに居座らなくなった。間も無くして中学3年になって、2人はすぐ帰るようになった。2人はそれぞれ受験をして、それぞれ違う高校に行って、それぞれになって、それからはそれぞれだった。

「じゃあ入れていきますねー」

マウスピースを口につけ、よだれを垂れ流す。呑み込めないから。違和感だけが微かにあって他は曖昧にボヤッとする。少し昔この手法を開発して、「胃カメラ」と名称付けた医者はずるい。そうやって、言葉巧みに私の中に入ってくる。私は胃の中を披露し終えて体を起こす。

目の前に胃の中の映像が映される。
こんな感じでした、と言われたので。

「あ、綺麗ですね」
と言った。
私服で、麻酔が抜け切ってないけど。

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