人生哲学を問われる(映画『NOMADLAND』を観て)
うっかりすると忘れてしまうけれど、人は孤独であり、最後は一人で死んでいく。
リーマンショックの影響で、60歳にして夫と土地をなくし、広大なアメリカの自然の中をバンと季節労働で生きていく女性の話である。
映像がよく、アメリカの文化、思考、環境を自然体に理解できる、気がする。人間側の許容幅も、自然側の過酷さも日本とは違うなと思う。生活する環境のスケールの大きさは、そのまま器の大きさに比例するのかもしれない。
一方で、人である以上はどこまでいっても悩みのタネは変わらないことも事実である。人間側の許容の仕方も、自然側の無慈悲さも、それによって生まれる葛藤や悲しみや死も結局は同じだ。
そういう意味で、勇気をもらえる映画である。
60歳になっても今と大して変わらない課題を抱え続けるのか、と絶望しかけると人生は長いなと思う。しかし60歳になってやっとやりたいことを叶えても、人生は短いなとも思う。
ノマドライフと謳って生きていたとしても一発病気になって選択肢が狭まるようでは果たして自由といえるのかも疑問である。けれど人と人とのやりとりは軽妙で、そういうところにはノマド的生き方の身軽さは顕れているとも感じる。
今年は体調が悪い時期が多かったせいか、健康については妙に現実味を感じた。元気なうちに好きなことをやるしかないとも言えるし、好きなことをやって健康崩したら一巻の終わりでもある。
こうやってなんだかんだと御託を並べているうちに、いつの間にか平穏かノマドかという選べない二択に迫っていくのだろう。僕は両方を取りたい。
映画の話に戻る。
この映画は大きな事件や場面転換は起きない。
ただ静かに生活と表情と大自然が移り変わる。
当たり前のように出会いと別れがある。
物語としてはおもしろくはないのかもしれない。
けど日常ってそうだよな、という作品だった。好きな感じ。
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