パラレルワールド 37 おじいさん編 4

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 そこからはあっという間の出来事だった。
 
 命あるものに永遠なんていうものはないのだから、それはもちろん決まりきったことなのだから・・だからこそその後のホスピタルのスタッフ達の動きは手早く、そして慣れたものだった。

 それでも、あんなふうに笑みを浮かべて向こう側へ旅立って行ったおじいさんの顔を見て、みんなが泣いていた。

 僕も、ナースも、ドクターでさえも。

 まったく・・プロ失格なんだよみんな。

         
               ☆
 
 僕は一向に見つからないタイミングを見はからってコーキを呼び出した。

 おじいさんからの、最後の「預かりもの」についての話をするために。


               ☆
 
 おじいさんからの最後の「預かりもの」。
 
 ーそれはおじいさんから孫たちへの、最後の「お小遣い」だった。

 
 その「お小遣い」を僕に託すおじいさんの顔は、まるで小さな子供がデザートを頬張るときみたいな顔をしていた。

 「僕の最後の晴れ舞台だから、ヨロシクね。」

 
 おじいさんの一世一代の冗談だ。
 泣くな。笑え。

 僕は自分自身にそう言い聞かせた。

 でも、涙は止まらなかった。
 その「お小遣い」は、僕にも用意されていた。

 僕は僕の名前が書かれた封筒を手に取りおじいさんに何かを言いかけた時、おじいさんは僕が言葉を発するより先にこう言った。

 「ちゃんとあるだろう?僕の孫、全員の分がね?」。

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 僕はコーキに、「初孫として、年長者としても、君がみんなにこのお小遣いを配るべきだ」と言った。

 するとコーキは「あなたが配るべきだよ」
 そう言った。

 コーキは僕に
 「僕もあなたから受け取りたいんだ。年長だからとかさ・・そんな、順番なんて関係ない。僕だって一人の孫として、おじいちゃんからの最後のお小遣いを受け取りたいんだ。」
 

 僕はまた、考えるより先に「わかった、そうしよう」と答えていた。

 そしてまた1つレコード・マンとしての仕事が出来た。

 孫たちへ手紙を書こう。
 おじいさんの代わりに。

 おじいさんは病室の中で全ての孫に向けて、たくさんの言葉を残していた。
 病室へ顔を出した孫本人が帰ったあとでさえ、その孫についての話は尽きることがなくて、僕はいつも「うんうん」と頷きながらその孫についての話を聞いていた。

 おじいさんがどんな思いで君たちのことを見つめていたのか、余すところなく伝えよう。
 
 僕というフィルターを通してなお、純度100%のおじいさんの言葉で、想いで。 

 出来るはずだ。
 レコード・マンなら、そしてあなたの孫ならば。


 僕は翌日のお別れの日に、孫たち一人ひとりへのお小遣いに添えて「おじいさんから孫たちへの手紙」を添えることを決めた。


 思うところあってこの仕事の間に通い続けた駄菓子屋にも顔を出し、事情を話してみた。
 店主は一瞬空を仰いで、僕にこう言った。

 「好きなのを、いくらでも持っていってくれ。お代は事前に頂いてるから」

 僕は店主に深く頭を下げ、みんなの大好物を一つずつ袋に詰めて、そしてもう一つだけ、僕の好物であるイカの干物に似せた駄菓子をその袋に入れて駄菓子屋を後にした。

 みんなで、楽しく頂きますね。
 ありがとう、おじいちゃん。

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