パラレルワールド 41

2019年10月 東京 下北沢


「今日応援いけます、頑張って! シンカイ」

メッセンジャーに届いた文章を僕は二回か三回読み返して、僕は歓喜した。
トキオのほかに僕を応援してくれる人が会場に来てくれるのだ。


ハッとして電車を降りる。あやうく下北沢を通り過ぎてしまうところだった。
アマチュア世界一を決めるバンドコンテスト、ビタージェンザ予選の会場は下北沢SEA。


小雨がパラつく中、僕は結構な重さの機材を担いで小走りしていた。
一刻も早く会場の近くまで到着したかった。
念願の、二枚目のチケットが売れた嬉しさを噛みしめる時間は残念ながらなかった。


普通に考えて、会場でのサウンドチェックの時刻まではまだに2時間近くあった。急ぐ必要などない。

でも違った。
入りの前に、会場となるライブハウスに一番近い(そして安い)カラオケ屋さんで、ウォーミングアップをしてから会場に入るのだ。1時間か、出来ればもう30分くらいは。

ずっとそうしてきた。だから今日も変わらずに、今日だからこそそのルーティンを実行するのだ。

そしてきっと今日のためにそのルーティンはあったのだ。


部屋に入るとストレッチをして、スマホでボイストレーナー・ケイトさんのyoutube動画を流して基礎練習。

そのあとは部屋の机を隅っこにずらして腕立て伏せ。
体を温めるのと、気持ちを高めるため。
床に手をついても大丈夫なように軍手を携帯している。
もっとスマートなやり方だってあるだろう。
どんなに不格好でも負けるもんか、こっちは雑草魂だ。

そして何曲かは普通にカラオケで歌う。
それはいちばん楽に出せる音域の曲からスタートして徐々にエンジンをかけていくという意味合いもあって、「歌い始め曲」の「亜麻色の髪の乙女(ヴィレッジシンガーズ)」とはわりと長い付き合いになっている(笑)

そして自分の曲よりもすこし高いかなというくらいの曲を何曲か歌った後で自分の曲の練習を始める。

いろんな考え方があるとは思うが僕は自分の曲は「7割」くらいの力で演奏したり歌ったり出来るのがよい。

そして一時間半はあっという間に過ぎて、会場に入る時間になった。

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