パラレルワールド 40

               ☆

 33枚目のメモを眺めた後で僕はコーヒーのお代わりをオーダーした。

 レコードマンを始めて以来、僕は「どこからどこまで」が「仕事」でどこからどこまでが「仕事ではない」のかの境界線が曖昧になっていくのを感じていた。

 特に今日なんかは、僕は自分がどういう心持で彼らを見届ければいいのかよくわからなくなっていた。

 そう・・ついにこの日が来た。
 田舎町から出てきたタイシノムラが二人の仲間を連れて挑むコンテストの予選、その当日だ。
 ・・まあだからといって僕が彼らの行く末をどうこう出来るわけではない。
 僕にできることは見届けて、記録に残すことだけだ。

 あらためて手帳を開いて今日の日付を確認する。
 Decenber 19。
 そう・・タイシノムラがこのトーキョーにかけた時間圧縮は解除されていた。

 時間は再び前に進むだけのものへとその姿を戻していた。
               ☆

 カフェのテラス席から見上げる空はとても澄んでいて綺麗だった。
 今日はタイシノムラ一味が挑むコンテストのため、僕も丸1日予定を空けていた。

 事前にポケットマネーで購入していた今日のコンテストの観覧チケットが財布に入っていることを確認し、僕は部屋を出た。

 コンテスト自体は日が暮れてからだから、僕はレコード・ショップ巡りをしたり、カフェに入ってトーストをかじりながらコーヒーを飲んだりして昼間の時間を過ごしていた。

 テーブルからふと視線をあげるとベースを背負ったトキオと自前のスネア・ドラムを抱えたタケルが会場となるライブハウスへ入っていくのが見えた。

 これからリハーサルなのだろうか?
 時計をみるとそろそろそんな頃合いかなという時間だった。

 しかし肝心のタイシノムラの姿はない。

 ・・あいつ遅刻か。

              ☆

 レコード・マンの次の仕事はまだ決まっていなかった。
 この機会にしばらくのんびりするのも悪くない。

 ちょうど今が「流れ」の変わり目なのかもしれない。

 ほどなくしてギターを担いだタイシノムラがダッシュでライブハウスに入っていくのが見えた。

 やれやれ・・もう少しくらい落ち着いて動けないのかと思う。

 まあ緊張だってしているのだろう。
 ギリギリで駆け込むくらいで丁度いいのかもしれない。
 その方が余計なことを考えずに済むからね。

 時間圧縮を使い、「勝てるまでやる」という逆に単純極まりないともいえるそんな心意気がどこか憎めなくて、だから僕は今日のチケットをポケットマネーで買ったのだ。

 僕はいつもの手帳を閉じて軽く伸びをした。

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「記録の存在しない街、トーキョー」に送り込まれた一人の男。仕事のなかった彼は、この街で「記録」をつけはじめる。そして彼によって記された「記…

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