パラレルワールド 38 おじいさん編 5

                ☆     
    
 僕はおじいさんから預かった最後のお小遣いを孫たち一人ひとりに手渡しながら、それぞれについておじいさんが話していたことを伝えた。
 その内容は前もって紙に記していて、僕はそこに書かれた言葉を一字一句間違わぬように丁寧に読み上げることに注力した。

「手紙をおじいさんの代わりに読む」
そんな形を僕は選んだ。

 そうして少しずつ少しずつ、孫たちは涙を流すことよりも1つでも多く笑うことを選び始めた。

 「笑う」ということが出来てはじめて、流した涙がこんなにも美しいということが分かるのだと僕らは知った。

 コーキは孫たちを代表して言葉を振り絞った。

 手紙に書かれた言葉を聞いた孫たちの表情・・。

 そこに「音」としての言葉はなかった。
 きっと、「そこに言葉がない」ということが一番の正解なのだろう。
 それでもコーキは一人の大人としてその場にふさわしい言葉でその場を埋めようとした。

「ありがとう、レコード・マン。本当だったらこの言葉達は僕らの所へ届くことはなかった。

 きっと・・ここにいるみんなも同じ気持ちだ。」

 一瞬みんなの方を振り返った後で、コーキは両方の手で僕の手を強く握った。

 傍にいたシュウトも深く頷き、旅支度を終えた格好でここにいた。
 彼は今この瞬間から違う場所へ行くのだ。

 シュウトを必要としている場所は必ずある。
 この世界のどこかに。

 三角の世界を探すんだ。
 三角に生まれた君は、この四角い世界では生きられないのだから。

 周りを見渡して、それが見当たらないのならば探しに行けばいいさ。
 世界は広い。

  そしてこの広い世界の中で、おじいさんは君の・・シュウトのファンになったんだ。

 だからきっと、この世界のどこかにシュウトを必要としている人がいるよ。シュウトを必要としている場所があるよ。
 おじいさんによく似た誰かが。

 必要とされることで、人間は強くだってなるんだ。
 大丈夫、君なら大丈夫だ。

               ☆

 こうしておじいさんは旅立っていった。
 そして孫である僕たちもまた、おじいさんのいない新しい世界を歩き始めた。
 実を言うとまだ歩き始める・・とまではいかない孫たちもいるんだ。

 でも僕と、そしてほかでもないおじいさんの希望的観測としてこういう風に記録しておく。

 「みんな必ずまた歩き始めるだろう。
  少し時間のかかる子だっているかもしれないけれど」

 僕だってこうやって文章にでも残しておかないとさ、いまだに信じられないし、信じたくないんだ。
 おじいさんがもういないってことを。

 でも僕たちが大好きだったおじいさんは、悲しみに暮れてそこに留まる僕たちなんて決して望んでなんていないんだ。

 でも・・
 それでもどうしても・・

  この先、どうしてもダメだったら・・「もうダメだ」と思う時があったら、

 いつでもここに帰ってきたらいいさ。
 君たちとおじいさんが過ごした日々の記録は確かにここにある。

 君たちの、いや僕たちの背中を押してくれる「記録」はここにある。

 それが僕の、レコード・マンの仕事だ。

 
 だからまた歩きだそうぜ。
 あてのあるヤツもいれば、あてもなく歩くヤツもいるけどさ。

 未来でまた会おうぜ。

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