パラレルワールド 4

           ☆

街に朝の慌ただしさは感じられなかった。
というよりは夜の喧騒を未だにひきずっているような、そんな感じだった。

バーを探すのに苦労はしなかった。
ふと上げた視線の先に、バーを見つけた。

階段を上がり、少し力が必要なくらいに重みのある扉を開ける。

店にはカウンターに立つ、ライオンの覆面を被った男が一人。

「ようこそ。初めて見る顔だな。」

「ハムとレタスのサンドウィッチ。あとジャックダニエルをオンザロックで。」


「いいオーダーだ。スクランブルエッグはいるか?」

「ぜひ頼む」

ライオンの覆面を被った男は手際よく卵を割り始めた。

「雨の朝にはスクランブル・エッグが食べたくなるものさ。これから活動する、これから眠るに関係なくだ。」

僕はこのバーを「アジト」と呼ぶことにした。


           ☆

「トーキョーにはいつからだ?ビジネスか?」
バーカウンターに立つ、ライオンの覆面を被った男が尋ねる。

「さっき着いたばかりだよ。ここで軽い食事をとって、少し眠る。とりあえず予定はそれだけだ。ビジネスってわけじゃない」

「いつまでトーキョーにいるんだい?」

「ハッキリとしたことはわからない。雇われの身だからね。行けと言われてきた。戻れと言われれば帰るよ。」

もう一言付け加えれば説明は楽になったはずだ。

「フェスティバルのためにトーキョーへ」

それを言うべきなのか言わないべきか、少し迷ってとりあえず言わないことにした。

だいたいその「フェスティバル」が何のことかさえわからないのだ。
むやみに他人に話しても仕方ないだろう。


午前8時を少し過ぎたトーキョーには小雨が降り続けていた。
ジャックダニエルのオンザロックに口をつけると、まるでスイッチでも押したように疲れと眠気が込み上げてきた。

 
ライオンの覆面を被った男は僕を見て言った。

「少しと言わずゆっくり眠るといいさ。自分で思っている以上に疲れているだろうからな。」

ゆっくり、眠る。

そういう流れのようだ。

僕は流れに身を任せてみることにした。

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「記録の存在しない街、トーキョー」に送り込まれた一人の男。仕事のなかった彼は、この街で「記録」をつけはじめる。そして彼によって記された「記…

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