低予算映画とスタートアップ経営
アメリカには、インディペンデント・スピリット賞というインディペンデント系の映画を対象にした映画賞があります。インディペンデントとは、要するに小規模作品のことで、製作費が2,000万ドル以下の低予算長編映画のことです。
厳密にインディペンデント系に分類されるかどうかは把握してませんが、低予算ながらヒットした映画として個人的に好きなものとしては、「エイリアン」「ジョーカー」「ロッキー」「ONCE ダブリンの街角で」「ソウ」あたりが思い浮かびます。
こういった作品を改めて思い返してみると、とにかく作品のコアの世界観やストーリーを表現する点にフォーカスされている、というのが特徴なんじゃないかと思います。裏を返せば、強調する必要がないと判断された要素については徹底的に省力化されています。
むしろ、省力化せざるを得なかったのかもしれません。そもそも予算が限られている中で、どう予算配分にメリハリをつけて、強調するところは強調して、それ以外は目立たないようにして、作品として仕上げて、そして観客に届けるか。その見極めが秀逸かつシャープな作品が、低予算ながらヒットしているのではないでしょうか。
予算の範囲内でどれだけシャープさを保つかというのは、スタートアップ経営においても全く同じだなと感じます。もちろん、ランウェイをしっかり確保して「打席」をたくさん確保してPDCAを回すほうが合理的なのですが、むしろキャッシュが限られているほうが尖ったプロダクト(=作品)が生まれる可能性すら感じます。
押井守氏は、「エイリアン」について次のように評価します。「サー」とは監督であるリドリー・スコットのことを指しています。
『エイリアン』の場合、実際の製作費はたかだか八百万ドル程度で、いまのハリウッド映画の基準で考えると異常な低予算。そのうえで、……見せたいものは徹底的に見せるけど、見せる必要がないもの、あるいは予算の限界で十分に見せられないものはまったく見せない、という判断の的確さです。……できないことや無駄なことはいっさいしないというクレバーな判断力がサーのすごさですね。……決められた条件のなかでいかに最高の仕事を成し遂げるか、ということが監督にとってもっとも必要な才能だと僕は思います。
確かに、「エイリアン」の世界観や緊迫感は強烈なのですが、(舞台が宇宙であるにもかかわらず)閉鎖的な空間を中心に撮影しており、特段スペクタクル的な要素はありません。「ゴシック系ホラー映画の宇宙版」というシャープなコンセプトを打ち立て、これにフォーカスして無駄を削った結果、低予算ながら奥行きのある世界観が描けており、それゆえ名作として語り継がれる作品になったのではないでしょうか。
スタートアップの初期フェーズにおいても、予算が限られているからこそ、どの要素を徹底的に強調して、どの要素については戦略的に省くか、という見極めが大事なのだなと、「エイリアン」を観ながら改めて再認識した次第です。
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