蘇生ノ夜

一人の女が眠っている。白い服。若い。

1「蘇民将来子孫門………(くりかえし)」(複数で口々に唱える)

1の台詞を口々に唱えながら、白い装束の一群が群がり出てくる。床も一面白い。

夢の中のように女を切る映像(アンダルシアの犬)が白い世界を一面に照らす。

一人の女を白い装束の一群が取り囲む。背後には少し丈高いものが立っている。

白い装束の一群、少し丈高いものからぐらぐらゆれる金物の類を手に取り、祈るように眠る女の腹に突き立てる、一人びとり。

2「アンヤオハンヤアンヤオハンヤ………(くりかえし)」

突き立てる、その間に他の者は2の台詞を繰り返し唱え続けている。一人、また一人と突き立てては去っていく。

一人の女の腹が次第に赤く染まっていく。

3「チ!

4「チ、

5「チ。

6「血!

7「地ーー

8「チッ

9「茅(ち)

10「チノワ

11「ちのわ

12「茅の、輪

13「血、の吾(わ)

14「(全員で)ミワ、ミワ、ミワ、ミワ………

白い一群は手に赤い蛇を巻き付けて再び集まってくる。いや、むしろ蛇が這う。それに尻尾のように付き従うのが一人びとり。

赤い蛇々は一人の女に絡まり付き、輪のようになる。残りの蛇々も少し丈高いものにまとわりついていく。

白い装束の一群は塊になる。手は蛇のように絡まり、一人の女につながれる。

15「災厄が

16「災厄を

17「おのずから

18「災厄から

災厄が起こる。一同、沈黙。そこに流れ続けるものをむしろ感じ取り続ける。

懐かしいような遠い未来のような、ノイズのようなメロディのような、不安でたまらないのにいつまでも聴いていたいような高周波が小さく小さく流れ始め、それに伴って、ひとり、ひとりとその場を去っていく。

19「はい、よってらっしゃいみてらっしゃい!

断ち切るかのように叩き売りの声。叩き売りは色とりどりの鳥の水笛を売っている。叩き売りの連れ合いが鳥の水笛などの笛を吹いている。水は入っておらず、乾いた甲高い響きを立てる。

周囲の者達は物見高く集まり、そこは一気に縁日の雰囲気に。皆、鳥の水笛を買って、鳴らし始めるが、全然鳴らない。何度か鳴らすが鳴らないので、皆首を傾げながら、

20「水が無い。

21「鳴らない。

20と21とを、それぞれが交互にくちずさみながら、水笛を少し丈高いものに掛ける。

再び叩き売り達の甲高い笛の音。

魂があふれ出てくる。いくつもいくつも、数え切れないほどの魂が生まれては消え、生まれては消えし、そこに夢の中のように女を切る映像が再び灯し出される。

白い装束の一群、再び眠る女の周りに集い、手を添え、ひとつの塊になる。ゆっくりとした時間が流れる。

しばし無言、無動作。

ゆっくりと何かが聞こえ始める。いき、だ。息、呼気、呼吸。白い一群のそれはゆっくりと大きくなって、深呼吸、やがて荒い息を吐き出すようになり、一人、びとり、花弁の舞い散るように女を手放し、床にゆっくりと着地する。

その「落花」に反比例するように、一人の女が目覚める。手には水。水をゆっくりと飲む。

その後ろで、いつのまにか、ふつふつと、水蒸気が沸き立つ。

世界は赤い花弁の映像に一面に照らし出される。

突然掻き鳴らされる大きな音と鳥の声。

白い一群は手に風車を持って、思い思いに散らばり、大きく息を吹く。

蘇生の夜。

【準備物】

・白い布(床一面)ビニールシートを下に敷いて防水

・金物(台所用品ただし包丁除く)

・赤いひも(人数分)

・鳥の水笛(人数分)

・シャボン玉用具(人数分)

・加湿器(電源一口、延長コード)

・ペットボトルの水(口はふさいで飲むふり)

・風車(人数分)

・映像2種

・音楽2種

(2016.1.13.執筆  2016.2.11.上演)



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