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『砂の女』と僕らの日常

今、アイルランドで留学しているのですが、アイルランド人の友達と日本のカルチャーについて話す中で、安部公房の『砂の女』のストーリーを紹介しました。私が大学生の時に読んで、なかなか衝撃を受けた作品です。

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家庭と職場にストレスを抱えたある男が、唯一の趣味である昆虫採集のために砂地の村を訪れます。そこで村人に騙されて、砂穴の中にある家に閉じ込められ、穴に崩れ落ちてくる砂を掻き出す労働を命じられます。男は様々な方法で脱走を企て、何度も失敗しますが、諦めません。そこにはもう一人だけ女の人が住んでいましたが、その生活に完全に順応している様子に男は苛立ちを隠せませんでした。

しかし、次第に、二人は夫婦のような関係性になり、男も、「溜水装置」という砂中から湧き出た水を溜める装置の研究に勤しむなど、その生活も変容していきました。

ある日、女が妊娠し、出血を起こしてしまったので、村人が女を穴から連れ出し、病院に連れて行くということがありました。その際に、穴にかけられた梯子がそのままになっていたので、男はそれを登って穴から脱出し、そのまま村を駆け抜けました。

しかし、村から抜けるあと一歩のところで男は立ち止まりました。

「ここから抜け出したとして、一体何が待っているのか。それよりも村人たちに溜水装置の研究成果を伝えたいな」

そうして、あれほど穴の底から自由を夢見ていた男は、自分の意思でまた砂穴へと戻っていくのでした。。。

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ちょっとゾッとしません?笑

かなり前に読んだ本なので、細かいところは間違えっているかもしれませんが、だいたいの話の流れはこんな感じだったと思います。

自由と安心って何なんだろうな、ということを男の価値観の変容から考えさせられます。

ちなみに、この話を聞いたアイルランド人の友達は「いや、穴に戻るなよ!!家庭とか職場に戻るのも嫌だったらどっか別の場所行けよ!日本にはたくさん街があるだろ!!」とブチ切れていました。笑

おっしゃる通りです。笑

人生は二者択一ではないんだから、満足のいく選択肢が無ければ、また別の選択肢を探しにいけばいいのです。

以前勤めていた会社も忙しい環境でしたが、居心地は悪くなく、「溜水装置」のように会社に役に立つ成果を出したら褒めてもらえました。ただ、どことなく、穴の中で砂を掻き出し続けるような息苦しさはずっと感じていました。

今、会社を辞めて留学に来ていますが、そこから出てみると、世の中はこんなに広くて、こんなに選択肢があるのかということを気づきます。

もしかしたら、今、日常に息苦しさを感じているあなたも、砂穴の中にいるのではないでしょうか。。。?




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