#63 音楽では何も変えられない

音楽が好きだ。

好きなバンドの曲を聴きながら会社から帰る道のりが好きだ。音楽に合わせて歩くと、なんだか戦場から凱旋した英雄のような気分になる。ただ疲労しているだけなのに。

落ち込んだときも、あえて暗めで切ない曲をかけることで、まるで映画の登場人物になったかのような錯覚を味わえる。すると不思議と元気になる。

音楽がすごいのが、基本的に何も問題を解決しないのに、人々に必要とされることだ。

食べ物のように無ければ死んでしまうわけでもない、衣服のように無ければ凍えてしまうわけでもない、家のように無ければ危険というわけではない、本のようにデータや情報を記録するためにあるわけでもない、ITサービスのように生活を便利にするわけでもない、まったくの役立たずだ。

できることは一つだけ、「人の心を揺さぶる」こと。

人の感情に働きかける力という一点突破で古代から現代まで人々と共に生き残ってきたのが「音楽」というものなのだ。すごい。

映画や漫画といったコンテンツも同じようなものかもしれないが、音楽の持つ普遍性は異常だ。どの時代のどの国のどの民族も音楽を奏でているのだ。衣食住以外にここまで人々と密接な状態で育まれた文化は他にないのではと思う。

こうなってくると、もはや音楽は人が生きるための必需品なのかもしれない。音楽がない世界で、人は命を繋ぐこと自体はできるだろうが、「生きる」ことはできないのではないかと思う。ただ食べて寝るだけの一生に、音楽は喜びや感動を持ち込んだのだ。

音楽では世界を変えられない、何も変わらない。だけど、もし世界平和みたいなものがあるとしたら、それが成し遂げられるのは音楽だけなのではないか、という気もする。

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