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『ポスターでみる映画史 Part 4 恐怖映画の世界』に見る、恐怖のススメ

京橋にある国立映画アーカイブにて12月13日(火)から開催される、『ポスターでみる映画史 Part 4 恐怖映画の世界』の内覧会にお邪魔させていただいた。

宣伝ポスターを通して映画史を振り返るというこの企画展示は、これまで三度、都度ジャンルを絞って開催されてきた。
今回四度目の開催にして、私からすると満を持して恐怖映画にスポットが当たったというわけだ。
ホラー映画ではなく、“恐怖”映画と呼ばれるのも、趣があってまたいい。

入ってすぐの看板からもその雰囲気が伺える


展示は、章ごとに年代や恐怖ジャンルで分けられている。
さらに会場内には各作品の劇伴が流れ、視覚に加えて聴覚からも雰囲気を味わうことができるのがホラー好きにはたまらない。

第1章は1910〜1950年代の古典作品を取り上げている。

左から、『フランケンシュタイン』、『魔人ドラキュラ』、『キング・コング』

ここでは『フランケンシュタイン』(31)や『魔人ドラキュラ』(31)など、観たことはなくとも、その怪物の名前は一般化した作品たちが並ぶ。
個人的には『大アマゾンの半魚人』(54)のプレスシートを観ることができたのが嬉しかった。

続いて第2章は、1950〜1960年代のサイコホラー・ゴシックホラーをフィーチャーしている。

『サイコ』にはやはりヒッチコックのイラストが


アルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』(60)や、Jホラーに多大な影響を与えたと言われる『回転』(61)など、滅多にお目にかかれないような貴重なポスターたちが並ぶ。
この時代のポスターは文字のフォントやデザインがやけにポップに感じる。アートとしても飾っておきたくなるデザインが多かった。

一つ飛んで第4章。こちらは1960〜1990年代、残酷さを求めたスラッシャー映画などの特集だ。

大好きな『ハロウィン』のポスターと


この辺りには私の大好物な作品が並ぶ。
ダリオ・アルジェント『サスペリア』(77)、ショーン・S・カニンガム『13日の金曜日』(80)。
そしてPOVやモキュメンタリーを広めるきっかけになったであろう『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(99)など。

そして今日の私のファッションだ。
WACKO MARIAのコレクション『悪魔のいけにえ』(74)のシャツを、展示に合わせここぞとばかりに着てきたのだ。
ここには載せていないが、ばっちり『悪いけ』のポスターも拝見。
さらには私の愛するマイケル・マイヤーズが活躍する、ジョン・カーペンター『ハロウィン』(78)の日本版ポスターも観ることができた。会場ではおとなしくしていたものの、内心これには大興奮していた。
マイケルがいつものマスクよりも人間らしい顔をしているなとか、イラストメインでシンプルに作ったデザインなんだな、マイケルも無口でシンプルに殺すキラーだもんなとか、構図を取って見てもマイケルが上位に在って圧倒的に敵わない存在だとパッと見でわかるいいポスターだなとか、脳内ではそんな想いが巡っていた(オタク特有の早口)。
私にとっては、やはりこれが今回一番の収穫だったと言えよう。

このほかにも展示は、特別コーナー、第5章、6章と続く。
5章と6章では、日本の恐怖映画を取り扱っている。古く1920年代の怪談映画から、Jホラーの確立、そして最新の作品まで広く展示されているので、日本の恐怖映画の変遷を知ることができる。

“村ユニバース”のポスターも


映画の宣伝ポスターやチラシの面白さといえば、日本版独自のデザインもさることながら、やはり惹句にあるのではないかと思う。
それは宣伝担当の方々が頭を捻り、作品の魅力を端的に伝えようとした結果であり、突拍子もないワードが連なることもあるのが大変興味深い。
私としてはそこから惹き込まれて観る意欲が湧く作品も多いので、“惹句”という言葉は言い得て妙だと感じる。

奥右下の派手目なポスターが『死霊のはらわた』

中でも今回の展示で一際目立っていたのは、サム・ライミ『死霊のはらわた』(81)だろう。
この章で取り扱われる作品はどれも面白い惹句が添えられていたが、その中でもこれは特別だ。
惹句にしては文字情報が多く、シーンの切り抜きを絵文字のように組み込むという斬新な手法。
失礼を承知で表現するならば、文体だけは現代の“おじさん構文”のようなポップさがある(注:本来の意味でのおじさん構文が嫌われるのは、冗談に見せかけた言葉の中にも下心が透けて見えるからだと言われているので、嫌味のないこの惹句に関しては褒め言葉である)。

話は逸れるが、映画やプロレスなどのコラボをよく行なっているTシャツブランド・ハードコアチョコレートさんのように、惹句をデザインに組み込んでいる映画アパレルは垂涎ものだ。
好きな作品がこのタイプのデザインだった時は無条件で買ってしまう(そうしてどんどん映画Tシャツを増やしてしまうのだが)。

『ヒッチャー』(86)ニューマスター版上映に合わせて販売されたTシャツ

閑話休題。

恐怖映画は、いわゆる“ジャンル映画”(明確な定義は無いが、ジャンル分けしやすくエンタメ志向、何なら“低俗”という枕詞すら付く)と呼ばれ、不当な扱いを受けやすいように常々思っている。
私の好きな映画ベスト3に入る『マーターズ』(07)を撮ったパスカル・ロジェも、当時のフランスで、ホラーというジャンルが如何に軽視されていたかを語っていた(『BEYOND BLOOD』(18)より)。
まさに『マーターズ』などは、トーチャーポルノ(拷問など残虐シーンで注目を集める作品)だと言われがちだが、あの作品においての暴力は本質を語る上での装置に過ぎない。
ライトに観るならば恐怖心を煽るエンタメに過ぎないが、ホラー、恐怖というジャンルの底は奥深いと私は思う。

本展示には、そういった恐怖映画の核心に近づくヒントのようなものがあるのではないだろうか。
その時代時代、人々が何に恐怖を感じていたのか。
体制への反発から生まれたものもあれば、辛い現実から逃避するためにより残酷なフィクションを求め生まれたものもあるだろう。
またこの混沌の時代、私たちの「怖い」という感情はどう変化してゆくのか。
貴重なコレクションに触れながら“恐怖の理屈”に迫ることもできる、とても素晴らしい機会だった。

本会場では、人感センサーで点灯する照明が使用されており、人が少ない時間に訪れると、誰もいない箇所の照明がフッと消えることがあるという。決して霊現象ではないが、それもこの展示にとってはスパイスになりそうだ。
平日の昼間など、わざと来館者の少なそうな時間帯を狙って楽しむのもいいかもしれない。

会期は12月13日(火)〜2023年3月26日(日) 。観覧料は一般250円となっている。
その他休室日など、詳細は公式サイトまで。

※ 実際の展示は第1章以外の撮影は禁止となっておりますが、撮影許可をいただいて会場内の写真を撮らせていただきました。

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