キングオブコント2021が残した「面白い」以外のなにか【全ネタ感想】

キングオブコント2021、番組終了後の充足感はとんでもなかった。

冷めやらない興奮に任せて全ネタの感想と、大幅に変更となった審査員やキングオブコント2022への想いなどを文字にしておこうと思う。大ボリューム版です。

■ファーストステージ

全体的に愛の要素を感じる場面の多かったファーストステージのネタ。

「面白い」以外の何らかの感情を心に残してくれるコントの存在が印象的だった。そしてその「心に残る何らかの感情」が高く評価されていたことも。

もちろん一方では狂気やバカバカしさが最高に光るネタもあって、この絶妙なバランス感が、番組全体の信じられない充足感を生み出してしまったのかもしれない。私はそう踏んでいる。

①蛙亭(6位/461点)

トップバッターは蛙亭。もう色んな人が言っていることの2番煎じにはなってしまうが、これだけ高水準の点数が続く大会になったのは蛙亭のおかげとしか言いようがない。

で、蛙亭がその役を担わないといけないことになってしまったのは運とはいえ悔しいことだ。

ただ、ぬるぬるの中野さんが緑のゲロ吐くので開幕するキングオブコントは本当に最高だと思う。ホムンクルスの声があんな高いわけないし、あんなサイド刈り上げてるわけないのも面白すぎる。でも体型があのくらいぶよぶよなのは、ずっと液体に浸かっていてふやけていたのかもしれないことを考えると、意外と理にかなっているのかもしれないと思ったり。

蛙亭のコントは毒気や狂気によってコーティングされた愛おしすぎる登場人物と、その関係性が超魅力的だ。加えてコントから感じ取れる強いメッセージ性みたいなところも好きで、今回は蛙亭が得意な「悪の制裁」的要素はそこまで強くなかったものの、「無償の愛の強さ」みたいなものを勝手に感じ取った。

昨年春に上京してからどんどんテレビで売れて人気ものになりつつある蛙亭だが、特にイワクラちゃんのキングオブコントを想う気持ち、滾る闘志はいつだって強く感じる。近いうちに必ず、優勝をもってして全部全部を見返してやってほしい。

②ジェラードン(5位/462点)

なんで幼馴染のエリナをちょっと可愛く感じてしまわないといけないんだよ。悔しすぎる。(二階堂シュウジは別にかっこよくはない)

キモいやつがそこにいて、それに対して「キモぉっ」というありえないほどシンプルなツッコミ。これに死ぬほど笑ってしまうのは、ジェラードンの描くキャラクターが最高すぎて、私達の想定の範疇を大幅に超えて気持ち悪いからなんだろう。

で、それぞれのキャラが自分たちのキモさに一切自覚的ではないのも好きだ。角刈りとしての自覚があったらあんな立ち振舞いできっこない。

もっと細かい部分でいうと、エリナは表情がエグくてシュウジは所作がエグい。かみちぃの運動神経がなければ実現できない、あの完璧なクソキザ所作は強すぎる。エリナが自分の人差し指を顔の前で合わせるときの意味不明な寄り目も、目に焼き付いて離れなくなった。

あとは暫定席に座っている時間がかなり長かったと思うので、その間他の組のネタを見ている様子はやっぱり辛そうで、早いとこファイナルステージ進出確定の瞬間が訪れてほしいと願ってしまった。

でも、暫定席のジェラードンと一緒に結果を一喜一憂できた瞬間はとても楽しかったし、暫定者席での待機時間も、優勝者が決定して後ろでみんなが拍手をしているときも、ずっとミニスカのアタック西本さんがいてくれてよかった。

③男性ブランコ(1st 3位/472点)

ちょっと愛が止まらないなあ。大好きだ。

何が好きだったかと言うと、裏切り方が全部好きだったんだと思う。

コテコテ関西弁のタチバナさんがドンピシャのタイプだったということ、どこまでいっても愛が止まらないこと、関西のおばちゃんじゃなくてピチピチのお姉さんだったこと、それがすべてただの理想像だったこと。

そして最後に現れたタチバナさんが、その理想像まんまで、やっぱり大好きだったこと。

全てが愛にあふれていて、なのにやっぱりめちゃくちゃ笑ってしまって、今回のキングオブコントで1番感動したネタを挙げろといわれたら間違いなくこのネタだろう。

流石に超高得点が出るだろうと思っていたものの、ちゃんと高得点が出た時本当に安心してしまった。そりゃそうよな。「関西弁いじりのネタで1番面白い」「衣装、雰囲気といったフリも完璧だった」という審査員のコメントには首が取れるほどうなずいた。

あと、煽りVで切り取られていた男性ブランコの数々のネタからも、生粋のコント師として積み重ねてきたものを感じられてなんかよかったなあ。

④うるとらブギーズ(7位/460点)

「定菱」って、たしかに1番面白い名前かもしれない。銀髪の定菱。

ただでさえ名前や設定が面白いのに、緊張と緩和の力が本当に強すぎて、こんなの大笑いしてしまう。

彼らの代表的なネタとして語り継がれていた「迷子センター」をこの場で観ることができて本当によかったという気持ちと、こんな面白いのにそれでも点数が突き抜けないというキングオブコント決勝のヤバさをこのあたりで再認識することとなった。

BCの刺繍が「てびし」の「びし」を示しているのとか、最後に登場する「hey yo!!」のプリントが思っていたよりでかいこととか、小さな要素に面白さがギュウギュウに詰まっていてたと思う。

あと、煽りVの冒頭に流れる決勝進出の瞬間の映像、個人的にはうるブギさんのが1番熱かった。もしあまり注視していなかったという人がいたら、3年連続のプレッシャーを超えた喜びと、懸けてきた想いで佐々木さんが静かに崩れ落ちる瞬間を再確認してみて欲しい。

⑤ニッポンの社長(4位/463点)

辻さんがたまにインタビューなどで「目指す笑いは?」と聞かれたときに、「なんで面白いかわからないのに、笑ってしまうようなもの」というようなことを口にしていたのを思い出す。それをビシビシと感じられるコントだったのではないだろうか。

ラスト10秒、きれいすぎるバッティングフォームに、どうしてこんなに爆笑が止まらないんだろうと自分でも意味がよくわからないのに、あのおっさんの連続ホームランはどうしても手を叩いて大爆笑してしまった。

そもそも、機械音と球を打つ音だけが聞こえる本物のバッティングセンターのような空間で静かに始まったコント、おっさんがヤバいやつなのは想像できたとしても、ただただ球に当たり続けるという展開は誰に想像ができただろうか。

愛あふれるコントが続く中で、彼らにしか表現できないセンスと狂気で笑わせてくれて、愛も暴力も全部好き!!という意味不明な感情になった。

準決勝までの予選では大阪組を中心に応援していたし、今回の決勝進出社の中で最も劇場公演をたくさん買っているコンビはおそらくニッポンの社長だった。私情がかなり強く乗っていたこともあり、本当に2本目が見たかったし、見れると思っていた。

本人としては今回優勝するしかないと思っていたかもしれないが、絶対に次がある、優勝する。M-1も楽しみだし、まだまだ追いかけたいと思うばかりだ。

⑥そいつどいつ(8位/456点)

刺身さん演じる女性はとっても愛らしい。そして、ギリギリ愛らしさでカバーできるかできないかくらいの狂気がちょうどいい。「あーあ、あなたのせいで美人になれませんでした~」みたいな捨て台詞、まんま彼女がいじけた時すぎでは?

驚嘆と笑いが共存しているようなドキドキが次から次へと繰り広げられて、見ていて楽しい派手なギミックも目にすることができて胸躍った。

「笑いと恐怖は紙一重」という言葉を信じてこのコントを作り、キングオブコント決勝の場にこのネタを持ってきて、きちんと松本人志からの95点をかっさらって帰ったネタ書きの松本さん(ややこしい)は本当に流石すぎる。

2019年から行くんじゃないかと行くんじゃないかと言われていた決勝に2年越しに進出することとなった2021年。もっともっとそいつどいつのコントが見たいと思う人間が確実に増えたと思うので、今後もコントへの熱を燃やし続けて欲しい。

⑦ニューヨーク(9位/453点)

2本目が1本目だったら……みたいな声は少し見たものの、最初にこの1本を持ってきたことに優勝への本気度を感じたニューヨーク。

審査員評としては「若干ベタ」であるという言葉もあり、自分の好みとしてもそこには納得してしまった。

が、ただヤバい人のヤバさが加速していくスピードは想像を超えていて、皿割りまくって元気に「オッケーです!」と言いながら輝いている笑顔とかやっぱり忘れられない。

で、やっぱり私含め視聴者全員の心に残りまくったのが、点数が振るわなかったときの屋敷さんの瞬発力なんだろう。M-1でこのネタやって、100点付けてもらってね。

あと、煽りVでもしっかりライスさんいじっておくところ。そういうところ。

⑧ザ・マミィ(1st 2位/476点)

信じられたら信じたくなるという人間の本質情報をありがとう。きったないミュージカル、笑うしかない。

裏切りや設定の方向性で言うと、もう少し突拍子もないものが自分の好みなのかもしれないと感じると同時に、ドラマの暖かさと緩急、最後の展開と、高得点には納得しかなかった。

キャラコントが得意な印象はあったし、キャラのリアリティーはもちろんすごかった。それに加えて、おじさんキャラに負けない青年側のヤバさ。心の清らかさが行き過ぎてバグっちゃってる人間の描き方が丁寧で最高だったと思う。

そしてここからファイナルステージに進出するメンバーが決定することに。

⑨空気階段(1st 1位/486点)

歴代最高得点が出ちゃうのも納得、圧巻のスケール。ラストシーン、ライティングも2人のやりきった表情も、映画のそれでしかなかった。

空気階段らしさあふれるぶっ飛んだ設定とキャラクター、派手な展開と細かい言葉のセンス、全部の要素が揃っての結果だったんだと思う。そしてなにより、隅々まで「らしさ」が詰まっていた。

すごい。2本目のネタ感想の方に彼らへの思いはまとめることにする。

⑩マヂカルラブリー(9位/455点)

煽りVで野田氏の繰り出した「常勝」という強気な発言。本当に勝ったらめちゃくちゃすごいし負けてしまってもフリになる最強の言葉だった。

今の彼らが異常な忙しさであることは誰もが知っているし、そんな中で決勝に進出していること自体が「恐怖」だ。彼らは3冠を手にして賞レースからの解脱を目指すという他の人達とは一線を画す目的も持っていた。

ネタに関しては、床で暴れまわることへの既視感とかを普通に上回ってくる馬鹿らしさに、やっぱりすごい笑ってしまう。軽率に登場人物が死んじゃうところとかもかなり好きだ。

ただ、彼らがファイナルステージに進出しなかったことに少し安心しまった自分もいた。彼らの敗退が決定した瞬間そこに残っていたのはコントだけに心血を注いできた、コントしかない3組だったから。

まあ、別にそれだけが美学ではないんだけど。

そして、また来年以降も賞レースに挑むマヂラブを観ることができるというのも楽しみなのである。

■ファイナルステージ

ここに残ることになったのは「男性ブランコ」、「ザ・マミィ」、「空気階段」の3組だった。「コント師」としての印象が強い彼らが、この日のファーストステージで披露したネタは、何故かどれも愛の要素や温かみが強いものだったように思う。

①男性ブランコ(同率2位/合計935点)

また温かいネタを持ってきやがって……好きになってしまうだろ……。というのが主な感想だ。

このネタは何度か目にしたことがあったものの、私が最後に見たときからは、終盤がガラリと変わっていた。ちゃんとビニールにお金を払おうとしてしまうというすれ違い、優しすぎる。

審査員の評価は若干辛めだったかもしれないが、「褒められた点数ですよね」と笑う平井さんに安心したし、大反省会の際にも2人が「準優勝」という偉大な功績を噛み締めて喜んでいたことがとても嬉しかった。

実を言うと私は、もともと男性ブランコの独特な言い回しや、描かれる独特な人柄にハマりきれず、あまりネタを追いかけたことはなかった。

それでも今回のキングオブコントで見た2本に完全に心掴まれてしまったのが事実で、私と同じような人がたくさんいたら良いなと願うばかりだ。

世間に向けてどデカ名刺を渡すことに成功した男性ブランコ、来年以降もたくさんネタを見たい。

②ザ・マミィ(同率2位/合計935点)

あんまり、このネタに似てるとか、そういうことを言うのって失礼にあたるのかもしれないけど、やっぱりかまいたちのとあるネタにすごく似ているなというのが最初に抱いた感想だ。山内さん好みだったかもしれない。

お互いの演技力によってくっきりする緩急はやっぱり大きな笑いを生み出すし、生き別れた兄弟のくだりはただのドラマではなくなっていたところもよかった。

とにかく若手のエリートという印象があるので今後も楽しみだ、それに尽きる。

③空気階段(1位/合計960点)

メガトンパンチマンカフェ、何回でも口にしたくなる語感だ。

メガトンパンチマンはかわいすぎたし、セグウェイに5分間乗り続けることのできるもぐらさんは本当にすごい。

彼らの看板の1つでもある強烈な設定とそれを上回るキャラクターが印象的なネタ。

世界観はなんだかすごく可愛いくて、私はとてもとても好きだった。1本目と比べるような言葉を目にすることもあったが、ぜんぜんタイプの違うネタなんだから、比べようもない。

単独ライブの長尺ネタが賞レースの優勝ネタになっていったという経緯も、オタク垂涎のエピソードだったのではないだろうか。

長い長いCMを挟んで点数が発表され、彼らはキングオブコント2021の王者となった。

正直に告白をすると、



ファイナリストが決定した時空気階段には優勝してほしくないと思っていた。

すでにコント師としてのカリスマ性と人気あるし、ラジオスターでもあるし、テレビ出演もそこそこにしていて、もういいじゃないか、と。なんとなく、マヂラブが3冠を手にするのに対してもういいじゃないか、と思うのと同じ感覚を抱いていたのかもしれない。

でもいざ空気階段が優勝した時、本当に嬉しかった。なんだろう、するべくしてしたんだ、と強く感じた。

2年前から決勝に進出して9位、3位と結果を積み重ね、結婚をしたり離婚をしたり人生を積み重ねた。単独ライブも精力的に行なって「空気階段らしさ」というカラーをどんどん浸透させた。今回の優勝はそうして年月をかけて積み上げたものの爆発だったのだろう。

2人の全力の喜びは胸に刺さるものがあり、優勝者発表の後の私は「よかった……よかった……」とつぶやくばかりでしばらく放心状態だった。

反省会でもぐらさんは100万の勝負で賞金の額をさらにでかくしてから一発で借金完済、かたまりさんは親に仕送りしてもらった1200万のうち50万だけ返済すると言っていた。

ぜひそうして欲しい。

■審査員への感謝

結果的にお笑いオタクが渇望していたようなメンバーに落ち着いた、というのが審査員が全員発表された後の印象だ。

そして彼らはそれぞれはっきりとした「好みの軸」はぶらさないままに出場者・視聴者の望んでいた「自分の点数に対する明確な言語化」を果たしてくれた。本当に、これだけスッキリと結果を受け入れることができているのは彼らのおかげだったとしか言いようがない。

また、ニッポンの社長やそいつどいつの点数が審査員内で大きく割れたのも印象的で、去年までの審査員だったら大きく異なる結果になっていたのではないかと再認識した瞬間だった。

願わくば来年も同じ審査員であってほしい。

でも、別にシークレットである必要はないかなと。シークレット要素を番組のどこかに取り入れようと躍起になるのは今後控えてもらえると、非常に助かります、そこんとこ、お願いします。

■キングオブコント2022のこと

今回のキングオブコントで、またファイナリストみんなのことが大好きになってしまった。特に個人的に今回の大会で好きが増したのは、ジェラードンと男性ブランコ。来年の決勝の場でまた必ず見たい。

ニッポンの社長も、必ずやリベンジを。

そして今年準決勝以前の予選で破れてしまったコンビたち、特にロングコートダディ、ビスケットブラザーズ、GAGは来年も楽しみに応援したいと思っている。

とか、早くもキングオブコント2022のことを考えてしまっている。ワクワクする。

■「面白い」以外のなにか

一般的に最も知名度の高いお笑い賞レースは「M-1グランプリ」かもしれない。ただ、私は「キングオブコント」のことがかなり好きだ。

冒頭にも少し触れたが、コントは「面白い」以外の何らかの感情を視聴者の心に残すのが得意なのだと思う。爆発的に笑えて何も残らないコントも素晴らしいコントだし、そうじゃないコントのなかにも、素晴らしいコントはたくさんある。

だからこそ、本当に点数をつけて、比べて、勝者を決定するというのは酷な話だ。

ただ、今年に関しては審査員変更という大改革もあって、評価されるコントの傾向にも自然と変化があったような気がする。変化というか、いろんなコントがいろんな角度から評価されるようになったような印象だ。

さらに、今大会で披露された13本のコントは、評価に関わらずそれぞれのコンビ・トリオの持ち味が特に色濃くて、それぞれの好きが濃縮されたようなものばかりだったのではないだろうか。

そしてそれがきっと、視聴者にとっても「面白かった」だけではない謎の充足感につながっているのだろう。

とりあえず、今大会のファイナリストたちが、今年も好きなコントをたくさん作って、それでご飯を食べていられる世の中であってほしい。私も、当分は元気に過ごせそうな気がする。




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