キングオブコント2023の狂気がたまらない【全ネタ感想】
キングオブコントは、毎年平気で最高を塗り替えてくるから本当に怖い。
特に今回は、どこか少しずつ狂ったネタばかりで、個人的にたまらない大会だった。これはもう、感想をしたためないわけにはいかない。
番組と同じくらいコンパクトな前置きで、本題に入っていきたいと思う。
ファーストステージ
2年前に自分が書いた「キングオブコント2021」の感想を読み返していたら、全体的に愛の要素を感じるネタが多かったと書いてあった。「面白い以外のなにか」が心に残るようなコントが、とくに高く評価されていた気がする、と。
ただ今回は、愛の要素とか別にぜんぜん感じなかった。「狂気」を感じる場面のほうが圧倒的に多かった。狂人だらけ。いい意味で。
①カゲヤマ(2位/469点)
ズルい。めちゃくちゃ笑ってしまう。とことんくだらなくて、私のような精神がダサい人間は若干「これでは笑わんぞ」みたいな気持ちになるくらいなのに。
最後のほうになるともうゾーンに入ってしまって、「申し訳ございませんでした!!」の声も、ツッコミの声も、全部のボリュームがでかすぎることとかも面白くなってくる。だって、おかしいもん。
トップバッターであんなに高得点を叩き出すのも、カゲヤマの圧倒的パワーがあったからできたことなんだろうな。
それはそうとあのテーブルクロス引きって、成功させられるものなのか?そして審査コメント、ロッチの「試着室」への言及は思わず「あ~~」と声が出た。
②ニッポンの社長(3位/468点)
2020年の「ケンタウロス」から応援しているから、正直フラットに見ることはできない。4年連続決勝進出は異常。
事前のインタビューでも「去年は”優勝しよう”と思いすぎていた」「今年は、より自分たちらしく」みたいなことを本人らが述べていたけど、そりゃそうだよね。もう4年もやってたら「勝つために賞レースに寄せて調整する」みたいなこともしんどいだけだろう。
強すぎる「らしさ」を保ったまま決勝に何度も来ているということが、本当にすごい。
そして今回のネタも「らしさ」全開。以前、なにかの番組かインタビューで辻さんが「ケツはなにをされていても可哀想に見えないからすごい」みたいなことを言っていたが、おっしゃるとおり。
可哀想に見えないから当然ドン引きにならないし、あんなに狂ってるのに手を叩いて笑ってしまう。
「これ中学のときよく食らったよな」とか、細かいセリフのところがいちいち好きだった。
③や団(5位/465点)
灰皿のカタカタ、すごすぎる!!あのカタカタをみんなで見つめる緊張感って、そう簡単に生み出せるもんじゃない。というか、灰皿が停止したとこでひとこと添えられたら爆笑しちゃうって。それに気づいたのがもう、発明。
あとこのシーンは、カメラワークも含めてめちゃくちゃ面白かった。そう考えると、テレビ放送を前提とした決勝向きのネタでもあったんだろうな。
生徒を傷つけないために「灰皿を投げない」という選択肢がまったくないのが面白い。「灰皿を投げる」ってのが決まり事になっているから、もう成功してもらうしかない、という。
投げなきゃいいのに。筋通しすぎ。それがカリスマというものなのか。
④蛙亭(8位/463点)
中野さんの演じるキャラって、なんであんなに鬱陶しいんだろう。ほんとにズレてることを真顔で言ってくるから、こっちが間違ってるみたいな気分になってくる。
で、調子狂ってこちらが少し変なことを口走ってしまった瞬間に「キミ間違ってるよ」みたいなドヤ顔してくる。本当に厄介。でもそんな鬱陶しいキャラがあまりにも似合うから、ウザさを面白さが越えてくる。
ネタ終わり、イワクラさんの肝座ったコメントも、とても好きだった。反省会で開口一番「ムカつきますね」と言っていたところも。
しかし、得点はや団をぎりぎり超えずに敗退。トップバッターが高得点だったこともあり、点差もほとんど付かない。本当に熾烈な戦いになってきていることを感じた。
⑤ジグザグジギー(6位/464点)
長年予選で話題になっていた「新市長」のネタ。決勝の場で見ることができて本当に嬉しかった。同時に「準決勝で爆ウケなのにずっと決勝に行けないネタ」であったことに少し納得もした。お笑いいじりだし。
とにかく、めちゃくちゃ笑った。「共存」「捕獲して射殺」の流れとテンポが好きすぎて、見逃し配信でそこを何度も見てしまう。あと絵の回答出てくるところ。
「お笑いあるある」をいじるネタって、解像度が高ければ高いほどオタクにはウケるけど、広く笑ってもらうことが難しくなりそう。ただこのネタは、ちょうどぴったりたくさんの人が面白いと感じるラインに調整してあるなと感じたり。その絶妙さがかなりすごいと思った。
や団を越えて3位に食い込むかと思ったが、厳しい。点差も少なすぎる。
⑥ゼンモンキー(10位/456点)
準決勝で見てめちゃくちゃ面白い!!と思っていたぶん、ネタの面白さは変わらないのに「あ~どうしてこんなにウケてないんだ」と思ってしまった。
いや、ウケてはいたんだけど。ところどころもっとウケてもいいのに、と思うセリフがあったりした気がする。これが「芸歴の差」なのでしょうか……。4年目でこれって本当に異常なことなはずだけど。
たしかにここまで、各組のエッセンスが溶け込んだ濃厚なコントが多すぎた。そのぶんコミカルな、コントらしいコントが薄味に映ったのか。
にしても「2人が死にますように」のところめちゃくちゃ好き。最初から最後まで、神様舐めすぎ。
⑦隣人(9位/460点)
隣人はネタを見るたびに「発明家」だなと思わされる。いつも楽しみ。だって意味分かんないから。チンパンジー落語て。
そんなバカバカしさで「分かりあえそうなのに、分かりあえない」という切なさを包んだネタだなあと思った。
「ytv漫才新人賞」で優勝したあたりから、彼らが「これでやっとお笑いを続けられる」といった発言をしているのをよく目にした。ひとつひとつ結果を残すことで、やっと「切符」を手にしていくような感覚なんだろう。
こんなにおもしろい彼らがそういうことを口にするたびに、芸人を続けるのって本当に難しいことなんだと思わされたりもする。
⑧ファイヤーサンダー(4位/466点)
ファーストステージのネタのなかでとくに好きだったのが、ジグザグジギーとファイヤーサンダー。彼らのネタを、もっとたくさん見たいと思った。
ひとつひとつのツッコミの言葉が、もう全部面白くて。「俺たちが、ゼロからなにかを生み出せるわけがないだろ!!!」のセリフがとにかく好き。「なんで日本代表より、層厚いねん!!」も。あとは超自然なハッピーエンドも好きだった。
ものまね芸人の方は、ほんとにああやって真似できそうなワードを拾いに行っているのかな。
⑨サルゴリラ(1位/482点)
演技すごすぎる。超簡単に言ったら「変な感じのやつが変な感じのことをする」→「なんなんだよ」の繰り返しなのに、それがこんなにもおもしろいって。
最初のナッツから始まり、カードに書かれている筑波山、たびたび出てくるパソコンケース、そういったひとつひとつの単語が、もうピッタリハマっていたのが本当にすごい。
「”夏の尾瀬”って、これおもしろいね!」とか、いつ気づくんだろう。
ただ個人的には採点のとき、こんなにぶっちぎるんだ。とは思った。かなり拮抗すると予想していたから。でも1組目がずっと1位を保っている状況を早く打破したい。そんなことを、観客も審査員も潜在的に望んでいたのかな、みたいな。
そして、これで2本目にあのネタが残っているんだったら、優勝するんじゃないか。と思った。
⑩ラブレターズ(6位/464点)
やべえやつの顔、うますぎ。登場の段階から声のトーンおかしいし。そして一発目、壁をぶっ叩いたときの満足げな表情。
あんなシチュエーションさすがにないだろ……と一瞬思うけど、VTuberやってる隣人に配信前キレられるっていうディティールはありそうだし。
このネタも、正直準決勝で見たときめちゃくちゃ笑ったから「これでも伸びないか……」という感じ。たしかに後半、音が多すぎてもうわけわからない時間はあったけど。その時間すら面白すぎたのに。
まあ、もう、順番なのか。場の空気なのか。それが賞レースというものなのか。
あとラブレターズの芸歴を知らなくて、調べたんだけどロングコートダディとかネルソンズとかと同期なの!?「7年ぶりに決勝」とか言うから、若いけど芸歴はだいぶ上なのかと思ってた。ひえ~、すごい。
ファイナルステージ
①ニッポンの社長(3位/合計934点)
1本目に続いて「らしい」ネタ。気持ち悪くて最高。「ドゥルルッてなる」のセリフで「……ドゥルル?」って思ってたけど、ほんとにドゥルルってなってた。
そういうことか。掃除機とか、アイロンとか、炊飯器のやつね。
静かな、緊張感すらある空間のなかで、ツッコミのワードひとつひとつが待ち遠しくなる時間だった。終わり方もキモくて好き。あの生き物、なんか脈打ってたな……
セットの準備が間に合わないまま舞台が明転しかけて、大変なことになりそうだったのは恐ろしい裏話だ。
②カゲヤマ(2位/合計945点)
服を脱がなかったとて、終始バカバカしい。
自分の意志でうんこを机に置いたはずの人間が、まるで不慮の事態で会社を離れるかのように淡々と引き継ぎ処理をしていくのって、もう、なんなんだ。
「なぜ電話に出れた……」のツッコミが本当に好き。たしかに電話に出れるのおかしいよ。
ホラー映画のような、無駄に美しい終わり方も最高だった。
③サルゴリラ(1位/合計964点)
準決勝で見て、かなり好きだったこのネタ。何回見ても、面白い。
最初「青春というサカナ」とか言いはじめたときは「ん?まあそういう例え方もあるか」と一瞬思わされるけど、すぐに「こいつおかしいぞ」と気づく。そこからはもうずっと笑いが止まらない時間。
サカナの言い方もなんかずっと変だし。サカナって言われるたびに嫌そうにしている高校球児赤羽さんの反応もいい。
あと別にサカナは関係ないけど「俺でもいいよ、頼ってくれよぉ!」のくだりが気持ちよくて本当に好き。こういう、ひとつひとつの語感の気持ちよさが追求され尽くした5分間だったんだと思う。
納得の1位。
しかも、なんだか優勝が嬉しくなっちゃうような空気感をまとっている2人だな。
私はもともとサルゴリラのネタを生で見たことはなかったけど、改めて劇場に行こうと思った。
狂人揃いのキングオブコント2023
全体を通して、各コンビの持ち合わせる狂気を浴び続けたような大会だった。パワーが、すごい。
はじめからそういう空気の大会だったからこそ「これ面白いと思ってんだよね!!」という部分が確立されている人たちほど、そしてそれを突き通すパワーがあった人たちほど、評価されていたのかもしれない。
「大会のレベルがどんどんあがっている」と毎年言うけれど、もうなにをやってもn番煎じになってしまうくらいに面白いコントが増えているんだから、それも当たり前だろう。いつも発明のぶつけ合いだ。
だからもはや「なんでここが勝たないの」とかも思わない。テレビ番組だから一応順位はつくけれど、結局はぜんぶ「好みの問題」。どの狂気が好みか、ってだけ。
だからまた来年も、自分が「あーこの人たちのお笑いが好きだな」と思える芸人を見つけられたら最高だな。
今大会をきっかけに特に好きになったファイヤーサンダー、ラブレターズ、サルゴリラのネタはこれからも積極的に見たいと思う。
おまけ
徹底的に情報を遮断して、23時頃から見逃し配信を利用して視聴した今年のキングオブコント。
もちろんXもYou Tubeも開かなかったし、TVerのサムネでネタバレを踏むのも嫌だった。一緒に見ていた人に頼んで、TVerのサムネが優勝者になっていたりしないか、確認してもらったりまでした。
しかし、21:30頃に弟から「隣人の2本目見たかった」というLINEが入っていたのが予想外の打撃。隣人がファイナルに行かないことだけ、事前に知ってしまう羽目になった。
来年からはリアルタイム視聴できないなら周りの人にも伝えておこう。そう誓った。
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