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跡継ぎ社長がやわらかく会社を変える方法 〜木村石鹸工業〜(後編)

※2019年10月17日初出の記事をnoteに引っ越ししたものです

社員が生き生きと働いてくれるなら、会社の中なんて見えなくてもいいわ!と言い切る木村石鹸工業の木村社長。
前編に続いて、今回はいよいよ事業継承の経営者必見の自社ブランド立ち上げの話から。

※写真は、木村石鹸さんの自社ブランド「SOMALI」 職人さんが手作業で「釜焚き」して作ってます。

話し手:木村石鹸工業株式会社 代表取締役社長 木村祥一郎さん
聞き手:​サイボウズ 野水

前編はこちらです

若い転職者に「やれることやっていいよ!」って言ったら会社が変わった?​

やっぱり昔はなかなか人を採用するのは難しかったんですか

来ないですね。町工場ですからね。​

来ない頃はどうやって事業を変えようとしたんですか?人の採用が先だったのか? 自社ブランドの製品開発が先だったのか

​​製品作りながらです。僕とあと2人の凄い少人数で。この世界観が分かる人がいなかったんで(笑)

「ブランド作る」って言っても「は?」みたいな感じ?

​​本当にそうなんですよ。「ブランドって何?」「マーケティング、何それ?」って本当にそんな感じですから。
で、3人で開発した製品売ろうにもこういった物は元々ウチの販路にないので、ネットの直販をメインにしようと思ってたんです。

でもそのネット担当の女の子も寿退社で辞めるというんで、WantedlyというIT系でよくある、まあ僕は前職で使って知ってたんですけど、そこに90年の老舗のメーカーが「自社ブランドを立ち上げるのでネット関係の事をやってくれる人募集」って募集を掛けたんですね。

そうしたらメチャメチャ目立ったんですよね。それで峰松っていう、当時ユニリーバで働いてた女の子が募集に来たんです。その子も、「ITベンチャーばかりがいる中で、何でこんなバリバリの製造業の町工場が出てるんだろう」って興味で。

受け入れる方も大変ですよね。ユニリーバとかめちゃバリバリの経歴じゃないですか。

​だからビックリして。冷やかしかユニリーバが企業調査してるのかなと。釜炊きってやってる所が少ないから釜炊き法の調査とか、かなり警戒して。それで初めて会って話をしたら、新卒で入って3年目の子だったんですけど、マーケティング部のセクションって凄い人数で凄い予算じゃないですか。

そりゃテレビCMとかバンバンやってる業界のトップを走る会社ですからね。

その中で彼女がやっていたのは出来上がった商品のセールスプロモーション担当だったんですね。でも、本人は、もっとブランドの立ち上げや製品の企画から携わりたいという気持ちがあって。

それで、「うちなら商品開発から出来るよ。お金全然ないけど(笑」という話をしたら「来たい」という事になって。

これ、受け入れる方も結構勇気がいりますね。

本当に来るって言うから、社内的には「えっ」って感じでしたけど。でも峰松も凄い良い子で、社内にもすぐ溶け込んで。普通にこういう作業服着て結構現場にも入って、高飛車な感じも全然ないし、「まず出来る事から」というんで最初ブログを書いたり、自分自身を売りにしていくみたいなのでメディアに取り上げてもらって、そこから会社が外部に注目されてるって事を意識する人が増えたというか。

会社の中も変わった?

​そうですね。だいぶ変わりましたね。もちろん「あの子がしてるの、何か意味あるの?」って人もいるんですけど。

「日記書くのが仕事か?」とか

​(笑)。けど雑誌に取り上げられたり、メディア露出が増えると、誉められる訳ですよ。
営業はそれまでOEMのビジネスとかでは誉められる事ないんですよね。

「おたく、いつも高いけど安く出来ないの?」って、大体それしか言われないのが、呼ばれて行ったら凄い会社の事を誉められて、良い会社って言われるのが営業には嬉しいんですよ。

それもあって自社ブランドの営業は、今まではOEMの既存の所に行ってた訳ですけど、新規の所に行ったら誉められるからみんなどんどん行くようになっていきました。

採用状況も結構変わったんですか?​

​峰松がキッカケで、それから募集すると応募も凄い来るようになって。会社の事を知ってくれる人が増えて、Wantedlyも去年募集かけましたけど、すぐ30~40人ぐらい来て。

うわあ、凄い数ですよ。同規模の会社なんて、通常は大学何件も回ってやっと一人入るとかでしょう。

​どこかの大手企業さんとかでくすぶってて、「もっとやりたい」って言ってる人も結構来てくれるんですよ。

変わるもんですねえ。

中川政七商店さんってあるじゃないですか。中川さんの本の中でブランド作りの事を書いていて。
ブランドを作っていくとどうなるかというので、今まではこちらから発信して何とか人に来てもらってってやっていたのが、ブランドが出来る事によって求心力ができるので、お客さんもこっちに来るし、取引先も勝手に来る、「どんどんそうなっていく事がブランドだろう」って事が本に書いてあって。

そこまでは行ってないですけど、人に関しては凄い来てくれるようになってそれは凄い良かったなと思ってます。

平均年齢40代の会社が、若い社員の加入で30代に。「ブランド」を支える社員が増えていくことで製造現場や研究開発にもいい影響を与えています。若い人が増えると、明らかに会社の雰囲気が変わりますね。

社員の成長ってなんだろう?


木村さんは、社員の幸せってどう定義していますか?

​いい人と働く。自分と気の合う人と働ける。

まずは隣の人がいい人

人の関係が仕事の時間の中の精神的な負担で一番大きいんじゃないかと。

何をするかより誰とするか?

まさにそうです。
プラスとしては、自分で考えて決断できる領域が大きい、自律ができるところ、プラス、自分が成長できる環境であるという事が良い環境かなと。

成長というのは、例えば仕事が変わっていくこととか?

​成長は自分自身の問題なので、機会は会社として与えて行きますけど。

会社で成長の定義を作るのではなくて、その人が成長と思えればOKと。

OKです。だからウチは能力定義とか、「この段階ではこういう事が出来ないといけない」とか、そういうのは一切作ってないです。
自分でそれを考えて、「自分はこうなりたい」とか、「こういうキャリアを積んでいきたい」という思いの中でやっていければそれでOK。

極端に言えば、「自分はこれを突き詰めてそこだけでいい」という人でもいいんですよ。それはそれで自分の決断なんで尊重しようと思っています。

あと給与評価って年功序列なんですか?

前の方が導入した能力評価みたいなやつが導入されてて、形式的にはそれがあった感じですね。
ただ、ほとんど意味をなしてなかったので、僕がエイヤで決めて、「文句あったら言ってこい」という事に変えてやってたんですけど、今年の12月から新しい評価制度をスタートさせます。

自己申告型給与制度なんですが、能力開発のシートがあったり評価シートがある訳じゃなくて、会社と個人で契約をするみたいな形態の評価制度に変わります。 自分で自分の給与を決めて、その給与の価値はどういう事をやるものかって、自分で貢献内容を会社に提案 するような感じなんですけど、この6月からシミュレーション期間というのをやっていて、実際に自分で申告する額とか色々書いてもらって提案してもらうんですけど、これはメチャクチャ面白かったですね(笑)

おもしろい!でも、自己評価って難しいですよね。仕事を見つめ直さざるをえないですし。

今まで仮に30万円もらってた人が32万とか35万にしたいって時に、その2万とか5万をどうやって価値として新しくやるかって考えるというのが凄い良かったですね。その中で「こういう貢献が出来る」というのを提案してくれた人が結構いて、「これは結構良いな」と思いました。

「町工場」を謳う会社としては珍しい大きな研究開発室。これがあるおかげで、社員が内緒で?いろんな実験を繰り返して新しい製品が生まれてゆく。好奇心をそそる設備って大切

理想が実現できたら実は石鹸屋じゃなくてもいい?


今まで聞いてて思ったんですけど、木村さんの目指す会社の姿って、「これで世の中に出たい」とか「これで何とかなりたい」というんじゃなくて、「社員が面白い事をやれればいい」みたいな、そこが会社の目的になってるんですか?​

よく言ってるのは「文化祭前みたいな会社」

理想で定義するのは事業じゃなくて状態?

状態ですね。

じゃあこの先も石鹸にこだわるとかも実はないとか?

全然ないですよ。石鹸屋と名前が付いてますけど、それで言ったら小林製薬さんなんかも製薬会社の片鱗なしですから。

一応「くらし、気持ち、ピカピカ」って会社のロゴの中に入れてて、キレイにしたり気持ち良くなったり、そういうものであれば商品じゃなくてもいいかなと思ってて。

コンサルタント事業とか?

本当は温泉とかやりたい!

温泉!? そうか、泡も使うから綺麗になるし。

気持ち良くなるし、自分達の商品との親和性もあるんで。チャンスがあればやりたいな。

やりたい人が現れたらすぐやっちゃいそうですね。

みんな作りたい商品を色々と試行錯誤して作っていて、見てたら結構楽しそうなんですよ。やっぱり商品を作るのって面白くて、一個の商品を仕上げるのはなかなか大変ですけど、思った物が出来上がってきて、それをどうやったら人々に使ってもらえるか考えて色々取り組みをする。

ウチもそんなに広告宣伝費がバーンってある訳でもないんですけど、それも含めて文化祭前の楽しさというか、そんなにお金かけて作る訳じゃないけど、出しものやってる時は大変だけど面白いという感じが社内に満ち溢れているのを見ると安心です。

パッと社内を見た時に、文化祭前みたいだと「あっ、この会社上手くいってる」と。

それが不機嫌そうな期末テスト前みたいな状況だと嫌だなと(笑) そんな感じです!

全く個人的な話になりますが、私は鉄工所の2階に住むのが夢です。

ちょっと思いついたりしたときに、階段降りて、旋盤とかプレス機使って、ガッコンガッコンなんか作ってとかしながら暮らせたらさぞ幸せなんじゃないかと思ってます。
さしづめ今なら、キャンピングカー自分で作りたい感じです。(それほぼ木工やろというツッコミはおいといて)

人は誰しもワクワク感を感じながら仕事したいはずなんですが、製造業のワクワクってそういうことかなと。
最終形はわからないけど、なんか思いついたらすぐ試せる環境があって、面白がってくれる人がいて、そうこうしているうちに新しいものが形になっていく。

それを企業で実現しようとしているのが木村石鹸工業さんかなと思いました。​

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