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日記 (2024.06.21) 王冠のように伸びたオレアリア

部屋の片付けをしたい気もするが一日中部屋のなかにいたくない為、無理矢理にでも外へ出ることにする。北海道は六月下旬だというのに、薄手の長袖ニットで三十分歩いても少し汗ばむ程度。私は本州にもどって本当にやっていけるのだろうか。

薄い霧のなか、森を抜けて図書館に来た。
カウンターで予約していた本を二冊受け取り、閲覧席に座る。図書館のいちばん奥のつきあたりに、机と椅子がセットになった個人用スペースが並んでいる。机にはそれぞれ蛍光灯がついているが私がこれをつけることはない。

二冊目を読み終えると既に昼を過ぎていたため、隣接する喫茶店で昼食をとる。檸檬水をさらに水で薄めて飲む。食事の途中から偏頭痛の気配がやってきて、薬を二種類服用。市販の頭痛薬と、処方されている頭痛薬。

食事のあとは図書館とつながっている植物園をゆっくり歩いた。ここは二階建ての建物が途中から温室になっていて、アーモンドの木や楠の木などがそれなりの密度で置かれている。華牡丹が地に落ちて、白い花が土に溶けている。その横では孟宗竹の再生作業が行われている。螺旋階段を登って二階にいくと、温室の中にさらに小さな温室があらわれる。台湾バナナやゴムの木などが並ぶ小さな温室。底で魚が泳いでいる、水を入れた植木鉢もある。おおきな葉っぱの下をくぐり抜けるのが何故か少し怖いブラッサイア、王冠のように伸びたオレアリア。

耳鳴りがする。こめかみがぼんやり痛む。目蓋をしっかりとひらくことがむずかしくなる。だけど完全に目を閉じるとそのまま気を失ってしまいそうな気がする。

楠の木の葉っぱが好き。外からの日が反射してきらきらしている地面を歩くのが好き。植物の落とす影が好き。温室のなかから空を見上げるのが好き。

小さな温室のとなりにはいくつかの種類の木を切り出したものが糸で吊るされていて、ツリーチャイムのように音を鳴らすことができる。桜や林檎の木などにくらべて、白樺やキタコブシなど、北海道の木の出す音はとてもうるおいのある音のように感じる。水の中で聴くコポコポという音に似ている。

食後の散歩を終え閲覧席に戻る。

本棚の横に大きな柱がある。その本棚と柱のあいだの隙間に、問題はある。大人は女性でも先ず身体を横にしないと通れないが、未就学児であれば走りながらでも通り抜けられるくらいの隙間。身体の小さい私はその隙間にいつもふっと吸い込まれそうになるが、実際に通り抜けるとなるとまわりからみてかなり不自然な行動をしている人になってしまう為、少々不自然に立ち止まってから柱の外側へ向かうことになる。私が小学生の頃、この図書館に通っていたのなら、読もうかどうしようか迷っている本を抱えてこの隙間に入り込み、柱に寄りかかってページをめくっていただろうと想像する。

鈍い頭痛はそのまま酷くなっていき、吐き気と眩暈を引き起こす。呼吸がゆっくりしか出来なくなる。家に帰り、ベッドで大きな保冷剤を枕にして目を閉じる。眠りが痛みを取り除いてくれるのを待つ。

机の上では芍薬がフィナーレとばかりに開花し、昨日よりも苦く、甘い香りを滾らせていた。なにか果物を食べたい気がしたけど、諦めて水を飲んだ。シャワーを浴びて薬を飲んで、もう一度、今度はただ眠るために眠る。

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