きらいな女が褒めた赤い靴

昔、同窓会みたいなので、ふだんはかない赤いバレエシューズをはいっていったのね。
そうしたら私のきらいな女が「みさお、その靴すごく可愛いね…私はそういうの履けないから…」って言ったの。
(その女は、わたしのことを下の名前の呼び捨てで呼ぶ。)
あたしはそれで「けっ…」と思って、それ以来その靴は「きらいな女が褒めた赤い靴」になっちゃったわけ。

その女は私が好きだった男をずっと好きだったみたいで、私を脅威として扱うことを(たぶんなかば)きっかけにその男と付き合ったのね。幸が薄そうな顔をしてるけど美人で、髪が黒くて肌が白くて唇が赤くてなんとなく雪国っぽくて、沈黙で怒りを表すタイプで、ネガティブで、本当にきらいな女。私からしたら毒林檎みたいな女だ。思い出すだけで首を締めたくなるくらい嫌い。私にまったくないタイプの強い魅力を持つ女だから嫌い。悔しい。

だからその靴、帰ってすぐに売ってやったのね。それなのに今でもときどきあの赤い靴のことを思い出す。本当は私、あの女のことも、あの靴のことも好きなんじゃないかって思う。男のことなんてすっかり忘れてるのに。毒林檎みたいなあの女のことは、ささやかでたぶん誰にも媚びていないのにどこか艶やかな仕草まで覚えている。

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