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熱燗が呑みたいんじゃ

「極寒熱燗パーティーをやろうぜ」

言ったのは私だったか、夫だったか。
前の日、千鳥がテレビで熱燗を飲んでいた。塩辛キャベツのおつまみが頭から離れなかった。多分2人とも昨日から同じ気持ちだったんだろう。温い部屋では物足りない、刺すような真冬の潮風が吹きさらす流氷祭りの会場でチンチンの熱燗が呑みたい。しかしここは東京、いくら寒いと言ってもたかが知れている。2月の頭なので今が寒さのピークかもしれない、あと1ヶ月もすると桜が咲き始める。可及的速やかに行動に移さなければいけない、その週の土曜に開催することにした。
最初は窓全開で室内で催そうと言っていたが、部屋をキンキンに冷やしてしまうとその後が大変なので、どうせなら外でやろうや!となり夫の会社の縁側でキャンプ用のカセットボンベでお湯を沸かしてやることになった。最高に寒そうでゾックゾクするぜ!!

それから私は毎日考えた。ワインを飲んでも焼酎を飲んでも熱燗のことを考えた。あの寒い会場で何を肴に熱燗を呑むだろう。蟹汁…焼きホタテ…。
金曜日は雪の予報が当たった、積もりはしなかったものの日曜も雪かもしれないとのことだった。極寒の中で熱燗を呑みたいときにこんな天気あるだろうか、偶然にしては出来過ぎている!俄然テンションがブチあがる。

当日の土曜は仕事が休みだったので午前中に用事を済ませて午後は肴探しに出た。目指すはデパ地下。しかしこの日はまさかのバレンタイン前々日でデパ地下は死ぬほど混んでいた。全く忘れていたので夫に何も用意していないことに気付き少し罪悪感を感じる。とりあえずバレンタインは一旦忘れることにして惣菜を見て歩く、焼き魚、煮魚…かなり惹かれるが外なので食べやすさも考慮したい。何度も意識を北海道に飛ばし、吟味に吟味を重ねて厚焼き卵と焼き鳥を買った。途中高級なスルメを見つけたので購入。ラッピングは?と聞かれたのでバレンタインで!とスルメはハートの袋に入れてもらいこれでバレンタインもクリアできた。
ミッションコンプリートで帰ろうかね、と駅に向かう途中の居酒屋の看板に旬!鰤!とあるのを見て熱燗の神様が降りてきた、鰤だ!!!ぶりの刺身を熱燗でキュ!間違いない!!絶好調!最寄り駅に降りスーパーの鮮魚コーナーに駆け込む、がブリ不在。もう一つのスーパーへ、ここでもブリちゃんは不在。oops! I did it again! まさかみんな同じこと考えてる!?今日ってもしかしてみんな外で熱燗飲む日だった!?しかし諦められずにさらに歩いてもはや最寄りでもなんでもないスーパーでついにブリをゲットした時にはすでに18時になっていた。外は暗い、私は結構歩いたせいか若干汗ばむほど暑い…いやそもそも寒くなくねえか?朝から薄々思ってたけど今日暖かめだよね〜。

…強行しましたよ。気温ばっかりはしょうがないじゃない。
結局通りに面した縁側で道ゆく人たちの好奇の目に晒されながら、そこそこぬるい寒さの中で熱々の熱燗をやや汗しつつ飲む奇異な夫婦となった。
極寒熱燗パーティー無念、来年こそはと決意を胸にキュッとやったのでした。あー楽しかった。



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