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【脂質】の知られざる働きとは?健康を維持するために必要な知識


●はじめに

脂質は、炭水化物、タンパク質と並ぶ三大栄養素のひとつです。体内でエネルギー源として働くほか、ホルモンや細胞膜の材料になるなど、さまざまな働きをしています。

●総論

脂質には、「常温で液体の油」と「常温で個体の脂」あり、これをまとめて油脂と呼んでいます。

定義

脂質は、長鎖脂肪酸または炭化水素を持った生体内に存在するもの、あるいは生物由来の分子のことです。

生理作用

脂質は、体内で以下の働きをしています。

  • 脂肪の貯蔵

  • 生体膜の構成

  • 脂溶性ビタミンの供給

  • 胃滞留時間の延長

  • 生理活性物質の材料

食事摂取基準

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、成人の脂質の摂取目安量は、エネルギーの20~25%、1日あたり40~60gです。ただし、コレステロールの摂取量は、1日あたり300mg未満に抑えるようにしましょう。

分類

脂質は、栄養学的にはその構造や性質によって、以下の3つのグループに分類されます。

【単純脂質】
単純脂質は、脂肪酸とグリセロールのみがエステル結合してできてりるトリグリセリドです。
単純脂質とは、脂肪のことで、生物的観点からは中性脂肪と呼ばれ、必要に応じてエネルギー源として使用されます。

アンルグリセロール(中性脂肪) グリセロールと脂肪酸のエステル
ロウ(ワックス) 高級アルコールと脂肪酸のエステル
ステロールエステル ステロールと脂肪酸のエステル
※エステル アルコールと酸が脱水結合して生成する化合物

【複合脂質】
複合脂質は、グリセリンと脂肪酸に加えて、リン酸や窒素を含む成分が結合したもので、リン脂質、糖脂質などがあります。

リン脂質は、細胞膜の主要な成分で、細胞の形や機能を維持する働きがあります。
 1.グリセリン脂質
 2.スフィンゴリン脂質
糖脂質は、細胞膜の成分のほか、エネルギー源や味覚物質としても働きます。
 1.グリセロ糖脂質
 2.スフィンゴ糖脂質

【誘導脂質】
誘導脂質は、脂質の酸化や加水分解などによって生成されるものです。脂肪酸・ステロイド・脂溶性ビタミンなど。

・脂肪酸
脂肪酸は、炭素数2以上の炭素原子と水素原子からなる有機化合物です。水に溶けにくい性質があり、脂質の基本的な構成成分です。

脂肪酸は、炭素同士の結合の形によって飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられます。飽和脂肪酸は、炭素同士の結合がすべて単結合である脂肪酸で、常温で固形です。不飽和脂肪酸は、炭素同士の結合に二重結合や三重結合が存在する脂肪酸で、常温で液体です。

脂肪酸は、エネルギー源や細胞膜の材料、ホルモンの材料など、さまざまな働きを担っています。

1.短鎖脂肪酸
炭素数2~6程度の脂肪酸です。酢酸酪酸カプロン酸などがこれにあたります。短鎖脂肪酸は、腸内で発酵してエネルギー源となるほか、ビタミンの吸収を促す働きがあります。

2.中鎖脂肪酸
炭素数7~12の脂肪酸です。カプリル酸カプリン酸ラウリン酸などがこれにあたります。中鎖脂肪酸は、短鎖脂肪酸と同様に腸内で発酵してエネルギー源となるほか、体脂肪として蓄積されにくいという特徴があります。

3.長鎖脂肪酸
炭素数13以上の脂肪酸です。極長鎖脂肪酸と超長鎖脂肪酸の2つに分けられます。

・極長鎖脂肪酸
炭素数21以上の脂肪酸です。イコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などがこれにあたります。極長鎖脂肪酸は、血液をサラサラにする働きや、動脈硬化や心筋梗塞などのリスクを低下させる働きがあるといわれています。

・超長鎖脂肪酸
炭素数26以上の脂肪酸です。アラキドン酸などがこれにあたります。超長鎖脂肪酸は、生理活性物質の材料としてさまざまな働きを担っています。

●長鎖脂肪酸

長鎖脂肪酸は、炭化水素の数が13以上の脂肪酸です。体内でエネルギー源として利用されるほか、ホルモンや細胞膜の材料としても重要です。
長鎖脂肪酸は飽和度によって分類できます。

・飽和脂肪酸

飽和脂肪酸は、炭素同士の結合がすべて単結合である脂肪酸です。常温で固形であるのが特徴です。動物性食品に多く含まれます。
飽和脂肪酸の過剰摂取が、中性脂肪と血中のLDLコレステロールを増加させ、動脈硬化・脳卒中・心筋梗塞の原因となる脂質異常症を誘発する。
傾向:コレステロールを多く摂取、果物・野菜・食物繊維などの摂取量が低い傾向にある。
・含有食品 肉・鶏・バター・パーム油・ココナッツ油など
・食事摂取基準 160〜240kcal

例 ステアリン酸

・不飽和脂肪酸

不飽和脂肪酸は、炭素同士の結合に二重結合が存在する脂肪酸です。常温で液体であるのが特徴です。植物性食品に多く含まれます。

【一価不飽和脂肪酸】
一価不飽和脂肪酸は、炭素同士の二重結合が1つある非必須脂肪酸(オメガ9)です。オリーブオイルやアボカドなどに多く含まれます。

例 オレイン酸


【多価不飽和脂肪酸】
多価不飽和脂肪酸は、炭素同士の二重結合が2つ以上ある脂肪酸です。オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸に分けられます。

例 リノール酸
例 αーリノレン酸

【オメガ6脂肪酸】
オメガ6脂肪酸は、多価不飽和脂肪酸の1種であるω-6系脂肪酸。常温では液体で、2重結合が2つ以上ある必須脂肪酸です。
・血圧低下作用
・コレステロールへの影響
・炎症作用

植物油やナッツ類などに多く含まれます。エネルギー産生やホルモンの合成などに役立つ働きがあります。


【オメガ3脂肪酸】
オメガ3脂肪酸は、多価不飽和脂肪酸の1種であるω-3系脂肪酸。常温では柔らかい状態で、2重結合が2つ以上ある必須脂肪酸です。
・血管柔軟性の保持
・動脈硬化の予防
・脂質異常症の改善
・抗がん作用
・抗炎症作用
・知能発育作用

魚や亜麻仁油などに多く含まれます。血液をサラサラにする働きや、動脈硬化や心筋梗塞などのリスクを低下させる働きがあるといわれています。


【α-リノレン酸】
体内でIPA、更にDHAへ変換されます。
・抗がん作用
・抗アレルギー作用
・体重減少作用
・小児のち脳発育向上作用
・解毒作用

非常に酸化されやすいのが特徴です。
えごま油、シソ油、亜麻仁油など


【IPA】
・虚血性心疾患の予防
・血小板凝集抑制
【DHA】
・記憶力の向上
・知能指数の向上
・コレステロール値の改善

冷たい海の中を泳ぐ魚に多く含まれています。
DHA:あんこう肝・くろまぐろ・さば・さけ・すじこ・ぶりなど
IPA:イワシ・マグロ・サバ・ブリ・サンマなど


【サプリメント】
クリルオイル
・心疾患の予防
・月経前症候群の軽減
・肝生理作用の向上

脂肪酸の構造式の形による分類

二重結合の位置と向きによって、シス型とトランス型に分けられます。

【シス型】
二重結合の両側の炭素原子に結合した水素原子の向きが同じ側にある脂肪酸です。シス型の脂肪酸は、二重結合の部分が曲がった形をしているのが特徴です。

【トランス型】
二重結合の両側の炭素原子に結合した水素原子の向きが反対側にある脂肪酸です。トランス型の脂肪酸は、二重結合の部分がまっすぐな形をしているのが特徴です。

シス型とトランス型の脂肪酸は、性質が大きく異なります。シス型の脂肪酸は、トランス型の脂肪酸に比べて、融点が低く、体内への吸収率が低いなどの特徴があります。また、シス型の脂肪酸には、動脈硬化や心筋梗塞などのリスクを低下させる働きがあるといわれています。

トランス型の脂肪酸は、摂りすぎると、動脈硬化や心筋梗塞などのリスクが高まるといわれています。そのため、近年では、トランス型の脂肪酸の摂取量を減らすことが推奨されています。
関連疾患:
・心臓病
・脂質代謝異常症
・糖尿病
・悪性新生物
・脳への影響
避けるべきモノ:
・ショートニング
・マーガリン、ファストブレッド
・クリーム類


コレステロール

〈生理作用〉
コレステロールは、脂質の一種で、水に溶けにくい性質があります。体内では、肝臓や小腸などで合成されるほか、食品からも摂取することができます。

コレステロールには、以下の3つの生理作用があります。

1.細胞膜の構成
コレステロールは、細胞膜の構成成分として重要な役割を果たしています。細胞膜は、細胞を外界から守る役割を担っていますが、コレステロールが細胞膜の柔軟性や安定性を保ち、細胞の機能を正常に保つことに役立っています。

・善玉コレステロール
善玉コレステロールは、HDL(高密度リポタンパク質)と呼ばれるコレステロールです。善玉コレステロールは、血液中の余分なコレステロールを肝臓に運び、排出する働きがあります。

悪玉コレステロール
悪玉コレステロールは、LDL(低密度リポタンパク質)と呼ばれるコレステロールです。悪玉コレステロールは、血管の壁に沈着して、動脈硬化を引き起こす原因となります。

2.ホルモンの材料
コレステロールは、ステロイドホルモンの材料として利用されます。ステロイドホルモンは、性ホルモンや副腎皮質ホルモンなど、さまざまな生理機能を調節する働きがあります。

3.脂溶性ビタミンの代謝
コレステロールは、脂溶性ビタミンの代謝にも関与しています。脂溶性ビタミンは、体内に貯蔵されるビタミンですが、コレステロールが脂溶性ビタミンの運搬や貯蔵に役立っています。

【コレステロール値をあげる食品TOP3】
コレステロール値を上げる食品は、以下のとおりです。

1位:レバー(100gあたり300~500mg)
2位:うなぎ(100gあたり200~300mg)
3位:卵黄(1個あたり200mg)

これらは、コレステロールの含有量が多い食品です。レバーは、特にコレステロールの含有量が多く、100gあたり300~500mgのコレステロールを含んでいます。うなぎや卵黄も、100gあたり200mg以上のコレステロールを含んでいます。

コレステロール値を上げる食品は、以下のようなものもあります。

  • 動物性油脂(バター、ラード、マーガリンなど)

  • チーズ、生クリーム、ヨーグルトなど乳製品

  • 魚介類(イワシ、サバ、サンマ、サケ、マグロなど)

  • 豚肉、牛肉、鶏肉などの赤身肉

これらの食品は、コレステロールの含有量が多いほか、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の含有量も多いものがあります。飽和脂肪酸やトランス脂肪酸は、コレステロール値を上げる原因となるため、注意が必要です。

コレステロール値を上げる食品を摂取する際には、1日に摂取する量に注意しましょう。また、野菜や果物などの食物繊維を多く含む食品を一緒に摂取すると、コレステロールの吸収を抑える効果が期待できます。


消化吸収

【脂質の消化】
脂質の消化は、主に十二指腸で行われ、以下の2段階に分けられます。
1.リパーゼによる脂肪分解
口腔内や胃では、脂質の消化はほとんど行われません。十二指腸に到達した脂質は、膵臓から分泌されるリパーゼという酵素によって、脂肪酸とグリセリンに分解されます。

2.胆汁による乳化
脂肪酸とグリセリンは、そのままでは水に溶けにくいため、吸収されません。そこで、胆汁酸などの胆汁成分が、脂肪酸とグリセリンを乳化させて、小さな粒子にします。この乳化された脂肪は、水に溶けやすくなり、吸収されやすくなります。


【脂質の吸収】
乳化された脂肪は、小腸上皮細胞の絨毛で吸収されます。脂肪酸は、直接小腸上皮細胞に吸収されます。グリセリンは、まずモノグリセリドに変換されてから、小腸上皮細胞に吸収されます。


【吸収後の脂質】
吸収された脂肪は、小腸上皮細胞内で再合成されて、ミセルと呼ばれる脂質分子になります。ミセルは、リン脂質やコレステロールなどの脂質成分でできた球状の構造体です。ミセルは、血液中の脂質成分を運搬する役割を担っています。

吸収された脂肪は、主に以下のように利用されます。

  • エネルギー源

  • 細胞膜の材料

  • ホルモンの材料

  • 脂溶性ビタミンの運搬

脂質は、健康維持に欠かせない栄養素ですが、摂りすぎると肥満や生活習慣病のリスクが高まるため、適量の摂取が大切です。


サプリメント

【クリルオイル】
クリルオイルは、南極オキアミから抽出されるオイルです。オメガ3系脂肪酸の一種であるエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)を豊富に含んでいます。また、アスタキサンチンという抗酸化物質も含んでいます。

  • 血液をサラサラにする

  • 動脈硬化や心筋梗塞などのリスクを低下させる

  • 認知機能の低下を予防する

  • 関節炎の症状を改善する


【フラックスシードオイル】
フラックスシードオイルは、亜麻の実から抽出されるオイルです。オメガ3系脂肪酸の一種であるα-リノレン酸を豊富に含んでいます。また、リグナンという植物性エストロゲンも含んでいます。

  • 血液をサラサラにする

  • 動脈硬化や心筋梗塞などのリスクを低下させる

  • 女性ホルモンのバランスを整える

  • 更年期障害の症状を改善する


【フィッシュオイル】
フィッシュオイルは、魚から抽出されるオイルです。オメガ3系脂肪酸の一種であるEPAとDHAを豊富に含んでいます。

  • 血液をサラサラにする

  • 動脈硬化や心筋梗塞などのリスクを低下させる

  • 認知機能の低下を予防する

  • 関節炎の症状を改善する

脂質のサプリメントは、食事で十分な量のオメガ3系脂肪酸を摂取できない場合に、補助的に摂取することができます。ただし、サプリメントはあくまでも栄養補助食品であり、薬ではありません。服用する際には、用法・用量を守り、医師や薬剤師に相談してから摂取するようにしましょう。


●脂質の食事摂取のポイント

脂質は、健康維持のために必要な栄養素ですが、過剰に摂取すると、肥満や生活習慣病のリスクが高まります。そのため、脂質の摂取量は、エネルギーの20~25%程度に抑えるようにしましょう。

また、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂取量は、できるだけ少なくするように心がけましょう。飽和脂肪酸は、常温で固形である脂肪酸の総称で、動物性食品に多く含まれます。トランス脂肪酸は、植物油を加工する際に生成される脂肪酸で、マーガリンやファストフードなどに多く含まれます。

一方、オメガ3脂肪酸は、積極的に摂取したい脂質です。オメガ3脂肪酸は、魚や亜麻仁油などに多く含まれ、血液をサラサラにする働きや、動脈硬化や心筋梗塞などのリスクを低下させる働きがあるといわれています。

脂質の摂取量を適切にコントロールするためには、食品に含まれる脂質の量を把握することが大切です。食品表示ラベルには、脂質の量が記載されているので、参考にしましょう。




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